テーマ「疲労骨折」|S・PORTよこはま Vol.163 【スポーツ医学の現場から】 アーカイブ
●文/桜井真一(スポーツ医科学センター整形診療科 ※当時)
今回のテーマ:「疲労骨折」
みなさんが「骨折」と聞いて思い浮かべるのは、きっと転倒、転落、交通事故など一回の強い外力によって受傷する「外傷性骨折」でしょう。スポーツ競技中に発生する「骨折」には、実はもう一つ「疲労骨折」があります。今回はこの「疲労骨折」についてお話しましょう。
簡単に説明すると、通常は全く問題のない力なのに、繰り返しで金属が折れてしまうのに似ています。骨が金属と違うのは、ある程度の損傷なら、自己修復ができるところです。しかし、外力でできる小さなひびが回復しないうちに繰り返して、たくさんのひび割れが発生すると、結果的に大きいひび(=骨折)になってしまうのです。ですから、疲労骨折では、X線でもひびが見えないことがあります。
もうみなさんおわかりでしょう。疲労骨折は、スポーツやトレーニングの過度の負荷が原因なのです。競技力向上や健康促進のためにやっていて、骨折!いえいえ、正しい知識があれば、大変なことになる前に予防ができるはずです。
下肢の発生が圧倒的で、脛骨、中足骨、腓骨が中でも非常に多く(図1)、体幹部では肋骨、恥骨などに認めます。後でお話しますが、腰椎分離症も脊椎の疲労骨折として、かなり頻度が高いものです。
小学生低学年から50代まで幅広く発生します。多いのは10代で16歳がピークです。これは言うまでも無く、スポーツによる過度の負荷が原因だからです。
陸上、サッカー、バスケットボール、バレーボール、野球などに多く発生します。これらに多いのはやはり下肢の疲労骨折で、特徴的なのは、陸上、ゴルフの肋骨、ウエイトリフティングの腰椎などです。
ここでは、最も多い脛骨の疲労骨折についてお話します。発生しやすい場所が(図1)に示すように、脛骨を3分割したとき、上から順に、内側、前方、内側の三つあります。疲労骨折の痛みは、一般的に運動時の痛みですが、安静時にも不快感を感じることがあります。外傷性骨折の様に、激痛で歩行困難になることがないので、運動を続けてしまうことが多いのです。三つの場所を指で押して痛い時は、疲労骨折を疑う必要があります。
運動時の痛みや、骨折部の狭い範囲の圧痛が特徴的です。痛いほうの脚でジャンプして痛みがでれば、いっそう怪しいと考えます。X線では、発症初期にはひびが見えず、216週になって骨の異常を認め始めます。X線で異常を認めない場合には、復帰を急ぐスポーツ選手では、骨シンチグラフィーやMRI検査を行うことがあります。
さて、骨折という名称を聞くとギプス固定や、松葉杖での歩行を想像するかも知れませんが、疲労骨折の治療は運動の中止で十分なのです。骨折の部位により多少の差はありますが、通常は2~3ヶ月でスポーツに復帰できます。しかし、痛みを我慢してスポーツを継続して慢性化したり、完全にボキッと折れてしまったら・・・もうこうなってしまうと、ギプス固定や場合によっては手術となってしまいます。
疲労骨折は先ほどお話しましたように過度の負荷が原因です。その他に骨格やスポーツ環境なども問題になります。例えば、O脚や固い路面での走りこみは骨折の発生を増加させる一因です。また骨塩量の減少も原因の一つと考えられています。特に女性のランナーでは、月経異常があると骨塩量が減少するため疲労骨折が発生しやすいと言われています。
しかしながら、疲労骨折を発生させる一番の原因は、なんといってもトレーニングの誤りに他ありません。疲労骨折の選手のいるチームでは多発するけれど、他のチームでは誰も疲労骨折にならないとまで言われます。走行距離・運動時間・運動強度・スピードなど運動量を急激に増やすのは禁物です。十分な筋力トレーニングを行って徐々に練習量を増やしていきましょう。シューズも踵のクッションの良いものを選ぶほうが良いでしょう。骨に対する筋腱の張力を弱めるためストレッチも効果的です。
そして、最善なのはトレーニング期間と休息期間を上手く設定することです。競技スポーツを行っている選手の場合は特に、年間スケジュールを立てて、休息期間を設定することが大事です。医療機関への受診も可能です。痛みがあるのに時間がなくて治療ができず、悪化するパターンに時に遭遇します。休息を上手く取ることも選手には必要不可欠な能力の一つと理解してください。
名前は異なりますが、これも腰椎に発生する立派な疲労骨折(図2)です。厄介なのは、骨癒合しにくいためコルセット装着が必要になります。小学生低学年から10代後半までの骨がまだ大人になっていない時期に発生します。腰を反らすと痛いという症状が続く時は要注意です。
スポーツやトレーニングも、疲労回復しないままやり続けると、かえって逆効果になるということですね。スポーツも人生も休息が必要ということですね。
(横浜スポーツ情報誌 S・PORT Vol.163 2004年6月号掲載)