SPORTSよこはまVol.23:サッカーW杯2010 南アフリカ大会 奮戦記(下)
サッカー日本代表チームドクター 清水 邦明 医師
(横浜市スポーツ医科学センター整形診療科勤務)
■大会中の雰囲気はどうでしたか?
国内での韓国戦から負け続けていましたよね。その前のセルビア戦も入れると4連敗です。そんな中でも変に落ち込むような雰囲気はなかったですね。もうやるしかない、という感じで焦りや気負いのようなものは感じませんでした。練習も普通に一生懸命やっていました。宿舎やグランドの雰囲気も良かったです。ちいさなスキーリゾートの村で、集中して練習ができる環境のようでした。選手も全力で100%以上の力を出し切って勝ちたいという感じで、全員の意思統一ができていたと思います。初戦が始まるまでは、「がんばりたい」という気持ちだったと思いますが、カメルーン戦に勝ったことで雰囲気が変わりました。本戦で勝つというのは、精神的にものすごく大きいことなんだということを改めて感じました。スタッフもそうでしたがW杯の本番で勝つということはこんなにも嬉しいことなんだなと思いましたね。選手がそこで「自分達もやれるんだ」と自信を持ったようですし、それがものすごく大きいことなんだとも思いました。この1戦でチーム全体の雰囲気とか一体感といったものがグッと上がった気がしました。
■デンマーク戦に勝ちグループリーグを突破しましたが?
デンマーク戦も2点先取して、展開的にも上手くいき勝つことができました。試合が終わったときは、もちろん嬉しかったです。しかし、予選を突破しましたが、これで目標を達成したという感じではなかったですね。試合前は、勝って予選を突破するのと、負けて日本に帰るのとでは天国と地獄だと思っていましたが、実際に勝ったときには、まだまだ満足できないという感じでした。私の個人的な感想ですが、残念ながらいろんな意味でのピークはこのデンマーク戦だったと思います。それは3試合スタメンがまったく変わらなかったのと、日本の評価はチームとしてのディフェンスがすごくいいということだったのですが、裏を返せばディフェンスをサボらないで忠実にやったということで、選手たちの体力の消耗はすごく大きかったと思います。デンマーク戦の直後はまだまだと思っていましたが、パラグアイ戦の前日の練習を見ていてデンマーク戦前の状態とは違っていたので不安を感じました。練習では短い時間ですけど紅白戦をやるんです。デンマーク戦の前日の紅白戦はものすごく内容が良かったんですが、パラグアイ戦のときはサブ組に負けてスタメン組にいいところがありませんでした。選手に疲れがあるなと感じて、回復してくれればと思いましたが、試合ではやはり動けていませんでしたね。
■パラグアイ戦でのPK戦の前に円陣を組みました。
その中に清水先生も入られましたね?
いろんな方にあの円陣の中に加われたのは羨ましい経験だと言われたし、自分自身も特にあの瞬間は夢の中にいるような感じでした。全員が、まだまだこのチームで夢を見続けたい、こんなところでは終わらない、という雰囲気でした。私が覚えているのは、岡田監督が選手に「おまえら、よくがんばったな、惜しかったな、で終わるのか。まだ終わらないよな!」と士気をあげていましたし、特に印象に残っているのは内田選手が身を乗り出して岡田監督の話を聞いていたことです。内田選手は、結局試合には出られませんでしたが、その光景を見たときは、試合に出ていない選手も勝つことだけを考えて同じ方向を向いているんだ、と感動しました。
パラグアイにはPK戦で負けてしまいましたが、勝って次のスペインと戦いたかったですね。それで負けてしまったとしても、ベスト8には入りたかったです。
■大会が終わってどうでしたか?
パラグアイ戦のあとは全員落ち込んでいましたが、ホテルに到着してから、少しずつ笑顔が戻ってきていました。最後に岡田監督が、『人間万事塞翁が馬』の話をされていました。「人生は素晴らしいことも絶望するようなこともあるだろうけど、それは全部その人間が乗り越えられるものが試練として与えられる。おまえたちにもこれからいいことも悪いこともあると思うが、おれはずっと見てる。おまえたちの行く末を、陰ながら応援している」と…。
■最後に、スポーツをやっているハマっこたちへメッセージをお願いします。
日本代表に選ばれるような選手は、素質があるというよりも、どれだけ競技に打ち込めるか、それだけを生きがいだと思ってやれるかが大事で、そこでスポーツ選手の将来が決まってくると思います。本当に一生懸命、とことんやってほしいなと思います。それがあるかないかでスポーツ選手としての道が開けるんじゃないかと思います。逆に、能力はあったのにその想いが足りなかったために上にいけなかったという選手は沢山いると思います。だから自分が好きなスポーツに、とことんのめり込んで、頑張ってほしいですね。
〈清水 邦明 医師プロフィール〉
聖マリアンナ医科大学医学部卒。
聖マリアンナ医科大学整形外科講師を経て横浜市スポーツ医科学センター整形診療科に勤務。
日本体育協会公認スポーツドクター、日本整形外科学会認定医。
日本整形外科スポーツ医学会評議員、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会評議員を務める。
サッカー日本代表チームドクター 清水 邦明 医師
(横浜市スポーツ医科学センター整形診療科勤務)
■大会中の雰囲気はどうでしたか?
国内での韓国戦から負け続けていましたよね。その前のセルビア戦も入れると4連敗です。そんな中でも変に落ち込むような雰囲気はなかったですね。もうやるしかない、という感じで焦りや気負いのようなものは感じませんでした。練習も普通に一生懸命やっていました。宿舎やグランドの雰囲気も良かったです。ちいさなスキーリゾートの村で、集中して練習ができる環境のようでした。選手も全力で100%以上の力を出し切って勝ちたいという感じで、全員の意思統一ができていたと思います。初戦が始まるまでは、「がんばりたい」という気持ちだったと思いますが、カメルーン戦に勝ったことで雰囲気が変わりました。本戦で勝つというのは、精神的にものすごく大きいことなんだということを改めて感じました。スタッフもそうでしたがW杯の本番で勝つということはこんなにも嬉しいことなんだなと思いましたね。選手がそこで「自分達もやれるんだ」と自信を持ったようですし、それがものすごく大きいことなんだとも思いました。この1戦でチーム全体の雰囲気とか一体感といったものがグッと上がった気がしました。
■デンマーク戦に勝ちグループリーグを突破しましたが?
デンマーク戦も2点先取して、展開的にも上手くいき勝つことができました。試合が終わったときは、もちろん嬉しかったです。しかし、予選を突破しましたが、これで目標を達成したという感じではなかったですね。試合前は、勝って予選を突破するのと、負けて日本に帰るのとでは天国と地獄だと思っていましたが、実際に勝ったときには、まだまだ満足できないという感じでした。私の個人的な感想ですが、残念ながらいろんな意味でのピークはこのデンマーク戦だったと思います。それは3試合スタメンがまったく変わらなかったのと、日本の評価はチームとしてのディフェンスがすごくいいということだったのですが、裏を返せばディフェンスをサボらないで忠実にやったということで、選手たちの体力の消耗はすごく大きかったと思います。デンマーク戦の直後はまだまだと思っていましたが、パラグアイ戦の前日の練習を見ていてデンマーク戦前の状態とは違っていたので不安を感じました。練習では短い時間ですけど紅白戦をやるんです。デンマーク戦の前日の紅白戦はものすごく内容が良かったんですが、パラグアイ戦のときはサブ組に負けてスタメン組にいいところがありませんでした。選手に疲れがあるなと感じて、回復してくれればと思いましたが、試合ではやはり動けていませんでしたね。
■パラグアイ戦でのPK戦の前に円陣を組みました。
その中に清水先生も入られましたね?
いろんな方にあの円陣の中に加われたのは羨ましい経験だと言われたし、自分自身も特にあの瞬間は夢の中にいるような感じでした。全員が、まだまだこのチームで夢を見続けたい、こんなところでは終わらない、という雰囲気でした。私が覚えているのは、岡田監督が選手に「おまえら、よくがんばったな、惜しかったな、で終わるのか。まだ終わらないよな!」と士気をあげていましたし、特に印象に残っているのは内田選手が身を乗り出して岡田監督の話を聞いていたことです。内田選手は、結局試合には出られませんでしたが、その光景を見たときは、試合に出ていない選手も勝つことだけを考えて同じ方向を向いているんだ、と感動しました。
パラグアイにはPK戦で負けてしまいましたが、勝って次のスペインと戦いたかったですね。それで負けてしまったとしても、ベスト8には入りたかったです。
■大会が終わってどうでしたか?
パラグアイ戦のあとは全員落ち込んでいましたが、ホテルに到着してから、少しずつ笑顔が戻ってきていました。最後に岡田監督が、『人間万事塞翁が馬』の話をされていました。「人生は素晴らしいことも絶望するようなこともあるだろうけど、それは全部その人間が乗り越えられるものが試練として与えられる。おまえたちにもこれからいいことも悪いこともあると思うが、おれはずっと見てる。おまえたちの行く末を、陰ながら応援している」と…。
■最後に、スポーツをやっているハマっこたちへメッセージをお願いします。
日本代表に選ばれるような選手は、素質があるというよりも、どれだけ競技に打ち込めるか、それだけを生きがいだと思ってやれるかが大事で、そこでスポーツ選手の将来が決まってくると思います。本当に一生懸命、とことんやってほしいなと思います。それがあるかないかでスポーツ選手としての道が開けるんじゃないかと思います。逆に、能力はあったのにその想いが足りなかったために上にいけなかったという選手は沢山いると思います。だから自分が好きなスポーツに、とことんのめり込んで、頑張ってほしいですね。
〈清水 邦明 医師プロフィール〉
聖マリアンナ医科大学医学部卒。
聖マリアンナ医科大学整形外科講師を経て横浜市スポーツ医科学センター整形診療科に勤務。
日本体育協会公認スポーツドクター、日本整形外科学会認定医。
日本整形外科スポーツ医学会評議員、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会評議員を務める。