SPORTSよこはまVol.19・スポーツ医科学センター | ハマスポどっとコム
横浜市スポーツ医科学センター顧問●村山 正博(内科医)
■適度な水準が必要
原始の頃、人類は獲物が手に入った時点で腹一杯食べ、余分のエネルギーは脂肪の形で身体に蓄えていました。つまり肥満は生存競争を生き抜くための条件でした。西欧の彫刻には肥満タイプが多いのも、貧しい時代には肥満が悪いという発想はなかったからではないでしょうか。
わが国においても、戦時中のような食糧事情が悪かった時期には、肥満はむしろ羨ましい体型とされていました。それが今や飽食の時代といわれるような食生活から肥満が増え、肥満が悪とされるに至ったことは皮肉なことです。貧しく寿命が短い時代は、肥満は豊かな食糧事情の証であったのですが、近年になって寿命が延びると今度は余分の体重が悪さをするようになってきたという訳です。
「太りすぎ」を問題にする背景には、肥満がもたらす悪影響が科学的に証明されてきたことがあります。そして医療費削減の目的もあって、肥満対策が国家施策としてキャンペーンされているという時代背景になったのです。しかし、一方では肥満は悪のような思い込みが強くなり、極端に体重を減らし、「痩せすぎ」になっていろいろな障害を起こしている人もいます。何ごとも「やりすぎ」はいけません。適度な水準が必要なのです。この稿では、「太りすぎ・痩せすぎ」とはどの程度からいうのか、そしてその危険性について述べます。
■肥満の危険性とは
まず、肥満とはどういう状態かといいますと、「体に過剰に脂肪が蓄積して体重が増えた状態」といえます。その危険性を列挙すると、最も多いのは糖尿病・高血圧・高脂血症から心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化疾患を起こすことです。これは後で述べるメタボリックシンドローム(メタボ)です。日本人の死因の1/3は動脈硬化による病気ですから、メタボ対策の重要性が判っていただけるでしょう。その他、高尿酸血症から痛風や腎臓疾患、脂肪肝、胆石などの肝臓・胆嚢疾患、睡眠時無呼吸症候群、さらに不妊症、月経異常などの婦人科疾患や変形性関節症・腰椎症などの骨関節障害など数多くあります。
■「太りすぎ・痩せすぎ」の基準
さて、「太りすぎ・痩せすぎ」の言葉にある「すぎ」には基準を超えた異常という意味が込められていますが、その基準とは何なのでしょうか。それには体重測定が一番わかりやすいので、その判断基準をBMIとして以下のように計算します。
BMI(Body Mass Index)=体重(Kg)÷[身長(m)×身長(m)]
例えば、身長が150cmで体重が65Kgの人は、65÷(1.5×1.5)=28.888…となりますが、表1に示したようにBMI 18.5以上 25未満が正常ですから、この人は肥満と判定されます。
表1 日本肥満学会が決めた肥満度の分類
BMI 判定 18.5未満 低体重 18.5以上 25未満 普通体重 25以上 30未満 肥満1度 30以上 35未満 肥満2度 35以上 40未満 肥満3度 40以上 肥満4度
調査によればBMI 22あたりが病気になる率が低く、それより多くても少なくても病気が増えます。肥満の程度を1度から4度に分けていますが、BMI 25以上はいずれも「太りすぎ」になります。欧米では30以上を肥満としようとしていますが、わが国では25以上の人は22の人に比べて疾病率が2倍という高い調査成績があります。元来、狩猟民族だった西欧人の遺伝子と、農耕民族だった日本人とは遺伝子が異なると思われるので、少々厳しい基準でもそれを目安に努力するのが良いと思います。厚生労働省の調査では、肥満者の率は年齢とともに増加し、男性では30歳代で25%以上、40歳代、50歳代と増加し、60歳代では約30%に達しています。女性では30歳代は12%程度ですが、40歳代、50歳代で増加し、60歳代ではやはり30%に達しています。肥満は体質や遺伝もありますが、食べすぎ、運動不足、酒の飲みすぎなど、生活習慣の乱れが大きな原因です。
■「りんご型」と「洋なし型」
肥満の基準については、判りやすい体重を中心に考えられていましたが、さらにいろいろなことが判ってきました。同じ肥満でもどこに脂肪がつくかが病気と関係することが判り、「内臓脂肪型」と「皮下脂肪型」に分けるようになりました。これらは外見でおおよその見当がつきますが、内臓脂肪型は太った中年男性によく見られるお腹の周りなど上半身に脂肪がつくタイプで「りんご型」、皮下脂肪型はお尻や腿などの下半身に脂肪がつく若い女性に多いタイプで「洋なし型」といわれています。この二つのうち、内臓脂肪型の方が糖尿病、高血圧、高脂血症などの危険因子となるのです。しかし、皮下脂肪型だから良いという訳ではなく、膝や心臓に負担がかかるので改善すべきことに違いはありません。
■メタボの基準は
日本ではヘソの高さで測った腹周りのサイズが男性は85cm以上、女性は90cm以上が肥満の新しい基準になりました。メタボの基準は、「(1)腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上を必須条件として、その他に(2)血圧130/85mmHg以上、中性脂肪150mg/dL以上またはHDLコレステロール40mg/dL未満、空腹時血糖110mg/dL以上の3項目中2項目以上」あることです。現在では、特定健康診査を受診された人で、特定保健指導の対象になっている人は、この基準値以上でメタボということになります。また、日本の企業労働者12万人を対象とした心臓病の発症リスク調査では、軽症であっても「肥満(高BMI)」、「高血圧」、「高血糖」、「高中性脂肪血症」、「高コレステロール血症」の危険因子を2つ持つ人は、全く持たない人に比べて10倍、3〜4つ持つ人ではなんと31倍にもなることが判りました。このように、たとえ異常の程度は軽くても複数の危険因子が重複しているケースでは、動脈硬化が起きやすいのです。それがメタボの考え方です。
■痩せすぎの危険性
さて、痩せすぎについても多くの危険性があることが判っています。例えば国立がんセンターの40〜59歳の男女約4万人を対象にした調査では、「太りすぎ」の人と同様に「痩せすぎ」の人も標準体重の人より死亡率は約2倍と高かったそうです。がんの発生率でいえば、痩せ気味の人は14%、さらにもっと痩せている人(BMI19以下)は20%も高くなっているという結果も出されています。痩せすぎると身体の免疫力が低くなり、感染症やがんになりやすいという図式でしょう。また、がんだけでなく、痩せすぎは心身に様々な影響を及ぼすこともわかっています。体重が少ないとうことは筋肉量も少ないので、少し歩いても疲れてしまい、また貧血、心肺機能の低下も加わって、毎日の生活活動度が低くなります。さらに「痩せ願望」の女性に見られる拒食症など精神的な問題も生じてきます。
いずれにしても「過ぎたるは及ばざるが如し」の例えを出すまでもなく、「普通」が健康に良いことが数字の上で証明されてきたことを理解して、それぞれご自分の目標を決めていただきたいと思います。
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横浜市スポーツ医科学センター顧問●村山 正博(内科医)
■適度な水準が必要
原始の頃、人類は獲物が手に入った時点で腹一杯食べ、余分のエネルギーは脂肪の形で身体に蓄えていました。つまり肥満は生存競争を生き抜くための条件でした。西欧の彫刻には肥満タイプが多いのも、貧しい時代には肥満が悪いという発想はなかったからではないでしょうか。
わが国においても、戦時中のような食糧事情が悪かった時期には、肥満はむしろ羨ましい体型とされていました。それが今や飽食の時代といわれるような食生活から肥満が増え、肥満が悪とされるに至ったことは皮肉なことです。貧しく寿命が短い時代は、肥満は豊かな食糧事情の証であったのですが、近年になって寿命が延びると今度は余分の体重が悪さをするようになってきたという訳です。
「太りすぎ」を問題にする背景には、肥満がもたらす悪影響が科学的に証明されてきたことがあります。そして医療費削減の目的もあって、肥満対策が国家施策としてキャンペーンされているという時代背景になったのです。しかし、一方では肥満は悪のような思い込みが強くなり、極端に体重を減らし、「痩せすぎ」になっていろいろな障害を起こしている人もいます。何ごとも「やりすぎ」はいけません。適度な水準が必要なのです。この稿では、「太りすぎ・痩せすぎ」とはどの程度からいうのか、そしてその危険性について述べます。
■肥満の危険性とは
まず、肥満とはどういう状態かといいますと、「体に過剰に脂肪が蓄積して体重が増えた状態」といえます。その危険性を列挙すると、最も多いのは糖尿病・高血圧・高脂血症から心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化疾患を起こすことです。これは後で述べるメタボリックシンドローム(メタボ)です。日本人の死因の1/3は動脈硬化による病気ですから、メタボ対策の重要性が判っていただけるでしょう。その他、高尿酸血症から痛風や腎臓疾患、脂肪肝、胆石などの肝臓・胆嚢疾患、睡眠時無呼吸症候群、さらに不妊症、月経異常などの婦人科疾患や変形性関節症・腰椎症などの骨関節障害など数多くあります。
■「太りすぎ・痩せすぎ」の基準
さて、「太りすぎ・痩せすぎ」の言葉にある「すぎ」には基準を超えた異常という意味が込められていますが、その基準とは何なのでしょうか。それには体重測定が一番わかりやすいので、その判断基準をBMIとして以下のように計算します。
BMI(Body Mass Index)=体重(Kg)÷[身長(m)×身長(m)]
例えば、身長が150cmで体重が65Kgの人は、65÷(1.5×1.5)=28.888…となりますが、表1に示したようにBMI 18.5以上 25未満が正常ですから、この人は肥満と判定されます。
表1 日本肥満学会が決めた肥満度の分類
BMI 判定 18.5未満 低体重 18.5以上 25未満 普通体重 25以上 30未満 肥満1度 30以上 35未満 肥満2度 35以上 40未満 肥満3度 40以上 肥満4度
調査によればBMI 22あたりが病気になる率が低く、それより多くても少なくても病気が増えます。肥満の程度を1度から4度に分けていますが、BMI 25以上はいずれも「太りすぎ」になります。欧米では30以上を肥満としようとしていますが、わが国では25以上の人は22の人に比べて疾病率が2倍という高い調査成績があります。元来、狩猟民族だった西欧人の遺伝子と、農耕民族だった日本人とは遺伝子が異なると思われるので、少々厳しい基準でもそれを目安に努力するのが良いと思います。厚生労働省の調査では、肥満者の率は年齢とともに増加し、男性では30歳代で25%以上、40歳代、50歳代と増加し、60歳代では約30%に達しています。女性では30歳代は12%程度ですが、40歳代、50歳代で増加し、60歳代ではやはり30%に達しています。肥満は体質や遺伝もありますが、食べすぎ、運動不足、酒の飲みすぎなど、生活習慣の乱れが大きな原因です。
■「りんご型」と「洋なし型」
肥満の基準については、判りやすい体重を中心に考えられていましたが、さらにいろいろなことが判ってきました。同じ肥満でもどこに脂肪がつくかが病気と関係することが判り、「内臓脂肪型」と「皮下脂肪型」に分けるようになりました。これらは外見でおおよその見当がつきますが、内臓脂肪型は太った中年男性によく見られるお腹の周りなど上半身に脂肪がつくタイプで「りんご型」、皮下脂肪型はお尻や腿などの下半身に脂肪がつく若い女性に多いタイプで「洋なし型」といわれています。この二つのうち、内臓脂肪型の方が糖尿病、高血圧、高脂血症などの危険因子となるのです。しかし、皮下脂肪型だから良いという訳ではなく、膝や心臓に負担がかかるので改善すべきことに違いはありません。
■メタボの基準は
日本ではヘソの高さで測った腹周りのサイズが男性は85cm以上、女性は90cm以上が肥満の新しい基準になりました。メタボの基準は、「(1)腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上を必須条件として、その他に(2)血圧130/85mmHg以上、中性脂肪150mg/dL以上またはHDLコレステロール40mg/dL未満、空腹時血糖110mg/dL以上の3項目中2項目以上」あることです。現在では、特定健康診査を受診された人で、特定保健指導の対象になっている人は、この基準値以上でメタボということになります。また、日本の企業労働者12万人を対象とした心臓病の発症リスク調査では、軽症であっても「肥満(高BMI)」、「高血圧」、「高血糖」、「高中性脂肪血症」、「高コレステロール血症」の危険因子を2つ持つ人は、全く持たない人に比べて10倍、3〜4つ持つ人ではなんと31倍にもなることが判りました。このように、たとえ異常の程度は軽くても複数の危険因子が重複しているケースでは、動脈硬化が起きやすいのです。それがメタボの考え方です。
■痩せすぎの危険性
さて、痩せすぎについても多くの危険性があることが判っています。例えば国立がんセンターの40〜59歳の男女約4万人を対象にした調査では、「太りすぎ」の人と同様に「痩せすぎ」の人も標準体重の人より死亡率は約2倍と高かったそうです。がんの発生率でいえば、痩せ気味の人は14%、さらにもっと痩せている人(BMI19以下)は20%も高くなっているという結果も出されています。痩せすぎると身体の免疫力が低くなり、感染症やがんになりやすいという図式でしょう。また、がんだけでなく、痩せすぎは心身に様々な影響を及ぼすこともわかっています。体重が少ないとうことは筋肉量も少ないので、少し歩いても疲れてしまい、また貧血、心肺機能の低下も加わって、毎日の生活活動度が低くなります。さらに「痩せ願望」の女性に見られる拒食症など精神的な問題も生じてきます。
いずれにしても「過ぎたるは及ばざるが如し」の例えを出すまでもなく、「普通」が健康に良いことが数字の上で証明されてきたことを理解して、それぞれご自分の目標を決めていただきたいと思います。
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