SPORTSよこはま2009 OCTOBER Vol.15
1. はじめに
現在の超高齢社会では、80年という一生の長い人生にわたってひざや腰などの運動器を使っていかなければなりません。その点につきましては本年の「SPORTSよこはま」4月号でも述べました。そのための丈夫な骨や強力な筋力を作るには、子どものときからの適切なスポーツ活動や運動が欠かせません。また高齢になっての転倒骨折などの予防のためにも、子どものときからの活動により反射神経の養成や安全な転び方を会得しておくことが望ましいのです。
一方、高齢になれば身体になんらかの故障を持つ人が多いのも事実です。今回は高齢者に多い「ひざ痛」と「腰痛」について、スポーツやトレーニングを行う上で注意すべき点について解説してみましょう。
2. スポーツという「負荷」とからだの「反応」(対応力)
スポーツ活動は一種の外力となり、われわれの身体にいろいろな刺激をあたえます。たとえばジョギングの際には、体重に対して地面からの反力が足首やひざの関節に負荷をあたえ、関節やその周囲の筋肉はこれに対して反応するわけです。関節や筋肉がこれに耐えられれば問題は生じませんが、高齢で関節が既に傷んでいたり(変形性関節症など)、病気(リウマチなど)やスポーツで過去にケガ(靭帯や半月板損傷など)をしている場合には関節が負けて痛みや腫れ(関節に水がたまる)がひどくなります。スポーツ活動をするには、そのスポーツに耐えられる状態の運動器を持っていなければなりません。
3. 変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)(高齢者に多い代表的な「ひざ」の痛み)
高齢者に多いのが変形性膝関節症で、ひざの痛みを訴える人の大部分の方がこれに悩まされています。ひざの腫れ、水がたまる、はばったい感じ、屈曲しにくい、変形(多くの場合O脚)などの症状があり、レントゲン写真をとるとひざの骨に変形が生じているのがわかります。
ひざの関節は、主に体重を支える ①大腿−脛骨関節(大腿骨と下腿の脛骨とがつくる関節で、靭帯や半月板が補強しています)と、②大腿−膝蓋(しつがい)関節(大腿骨と膝蓋骨とが接する関節で、ひざが十分な筋力を発揮するのに必要です)との二つの部分からなっています。変形性膝関節症の場合は、まず大腿骨と脛骨との間に問題が生じ関節軟骨の磨耗・断裂などから水がたまるなどの炎症を起こすのです。とくに50歳代以後の女性に多く、原因か結果かわかりませんが肥満傾向の方が多いのも特徴です。また靭帯損傷や半月板損傷、関節内の骨折や脱臼など、若いときのスポーツやケガが原因で関節が傷つき、それが原因で進行して変形性関節症になる場合もあります。競技経歴のある人やスポーツ好きの人に多くみられるタイプです。
前述のような症状のある方は、まず整形外科を受診して正確な診断を受けてください。
すぐ診察を受ける時間のない人は、とりあえず次のようなことをチェックしてみてください。
1)正座ができるか、2)体重をかけた時に痛みがないか、3)ひざが曲がりにくくないか(はばったい感じがあれば水がたまっている可能性が大きい。水がたまるのは炎症がある証拠)、鏡の前でひざの形を見て、4)O脚変形がないか、5)大腿部の筋肉の萎縮がないかなど、以上の症状がそろえば変形性膝関節症の可能性が大きいと思われます。
通常の治療方法は、保存的方法と手術的方法に分けられます。保存的方法の中には、運動療法・装具療法・薬物療法・物理療法などがありますが、最も重要なのが運動療法で、手術をふくめ全ての治療法のなかの基本的な要素をしめています。
運動療法の目的は、関節周囲の筋力を鍛え、既に傷んでいる関節を外力という負荷から護ることにあります。一般にスポーツをすることにより筋力をつけるという考えがあるようですが、前述のようにスポーツ動作そのものが関節に過度の刺激を与えては、かえって関節を傷めることになりかねません。要はいかに関節を傷めないで筋力をつけるかということです。ひざを伸ばした状態での脚挙げ体操・横挙げ体操などは体重がかかりませんので関節に負荷をかけないで筋力をつけることができます。関節が固定された状態の運動ですのでこれを等尺性運動といいます。スポーツセンターなどにある器械を使ってのレッグエクステンションは、抵抗力に対して関節を動かしますので等張性運動といいます。抵抗に対し筋力を発揮しなくてはなりませんので効果は上がりますが、家庭でいつでもできるというわけにはいきません。手製のおもり(米袋やスポーツバッグの中に本を入れるなど)を工夫したり、ゴムバンド(セラバンドなど)を利用するのも良いでしょう。
医科学センターやフィットネスクラブに通える方には、プールなどを利用した水中での歩行や体操などの水中運動療法をおすすめします。これは水の浮力を利用して関節にかかる負荷を少なくし、なおかつ水の抵抗を利用して筋力を鍛えることができます。このようにひざの運動療法には医学的知識に基づいたさまざまな新しい方法がありますので、スポーツセンターや医科学センターなどで運動指導員や理学療法士から詳しい情報を得ることをおすすめします。
4. 脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)(高齢者に多い代表的な「腰」の痛み)
人類は二本足で歩くという利点を獲得する一方で、腰痛がその宿命として生じるようになりました。腰椎から骨盤にかけては体重の60%の重みがかかるといわれ、その負担が下部腰椎に集中するからです。また背骨の後ろ半分は脊柱管という空間があり、その中に脊髄神経が首から通っています。若いときからの労働や無理なスポーツ活動が重なると高齢になってから腰痛や足のしびれ、さらには会陰部のつれや痛み、大小便の出にくさや麻痺などの重篤な膀胱直腸障害を訴えるようになります。なかでも特徴的なのは歩行障害で、痛みやしびれのために長時間歩けなくなりますが、腰部で神経が絞めつけられることが原因とされています。腰椎椎間板ヘルニアと似ていますが、ヘルニアでは一部後方に突出した軟骨が坐骨神経を圧迫するのに比べ、脊柱管狭窄症では全周にわたって圧迫すると考えたらよいでしょう。とくに背中を反らすと脊髄の通る空間が狭くなるので症状が強くなります。歩く時にはわれわれの身体はそりかげんになりますので症状が悪化し歩行が障害されるのです。逆に身体を前屈したり、歩行を休止すればまた歩けるようになります(間歇的跛行(かんけつてきはこう))。しかし高い所の物を取ったり15分以上歩けないなど日常生活に不便が及びますと精神的にもうつ状態に追い込まれますので、整形外科でのMRI検査などにより正確な診断をつけ早めに治療することをすすめます。ウォーキングやジョギングは背中が反るので悪影響を及ぼすことが多いのですが、固定式自転車は腰を前屈させるので無理なく下肢のトレーニングを行うことができます。最終的には神経が圧迫されるのを取り除く除圧手術が必要なこともありますが、内服薬や神経ブロックが有効なこともあります。
5. 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
骨は、丈夫な鉄筋コンクリートに例えられますが、鉄筋に相当するコラーゲンという蛋白とコンクリートに相当するカルシウム成分とから成り立っています。この鉄筋とコンクリートが少なくなり脆くなったのが骨粗鬆症で、高齢の女性に多いのは、閉経とともに女性ホルモンが欠乏し結果的に骨も減少するからです。骨粗鬆症の恐ろしいのは、単なる腰痛のみならず尻餅をつくなどわずかな外力で背骨の圧迫骨折を起こすことです。これを予防するには子どものときからのスポーツ活動や運動が欠かせなく、鉄筋コンクリートを作るためのバランスの取れた日常の食事も大切です。育ち盛りの無理なダイエットは将来の骨粗鬆症予備軍をつくってしまいます。
今回は高齢者に起こりがちなひざと腰の痛みについて代表的なものを解説しました。スポーツ医科学センターではこのような悩みのある方に対して適切なトレーニング方法やスポーツ活動の進め方に対するアドバイスをしております。お悩みの方はぜひご相談ください。
1. はじめに
現在の超高齢社会では、80年という一生の長い人生にわたってひざや腰などの運動器を使っていかなければなりません。その点につきましては本年の「SPORTSよこはま」4月号でも述べました。そのための丈夫な骨や強力な筋力を作るには、子どものときからの適切なスポーツ活動や運動が欠かせません。また高齢になっての転倒骨折などの予防のためにも、子どものときからの活動により反射神経の養成や安全な転び方を会得しておくことが望ましいのです。
一方、高齢になれば身体になんらかの故障を持つ人が多いのも事実です。今回は高齢者に多い「ひざ痛」と「腰痛」について、スポーツやトレーニングを行う上で注意すべき点について解説してみましょう。
2. スポーツという「負荷」とからだの「反応」(対応力)
スポーツ活動は一種の外力となり、われわれの身体にいろいろな刺激をあたえます。たとえばジョギングの際には、体重に対して地面からの反力が足首やひざの関節に負荷をあたえ、関節やその周囲の筋肉はこれに対して反応するわけです。関節や筋肉がこれに耐えられれば問題は生じませんが、高齢で関節が既に傷んでいたり(変形性関節症など)、病気(リウマチなど)やスポーツで過去にケガ(靭帯や半月板損傷など)をしている場合には関節が負けて痛みや腫れ(関節に水がたまる)がひどくなります。スポーツ活動をするには、そのスポーツに耐えられる状態の運動器を持っていなければなりません。
3. 変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)(高齢者に多い代表的な「ひざ」の痛み)
高齢者に多いのが変形性膝関節症で、ひざの痛みを訴える人の大部分の方がこれに悩まされています。ひざの腫れ、水がたまる、はばったい感じ、屈曲しにくい、変形(多くの場合O脚)などの症状があり、レントゲン写真をとるとひざの骨に変形が生じているのがわかります。
ひざの関節は、主に体重を支える ①大腿−脛骨関節(大腿骨と下腿の脛骨とがつくる関節で、靭帯や半月板が補強しています)と、②大腿−膝蓋(しつがい)関節(大腿骨と膝蓋骨とが接する関節で、ひざが十分な筋力を発揮するのに必要です)との二つの部分からなっています。変形性膝関節症の場合は、まず大腿骨と脛骨との間に問題が生じ関節軟骨の磨耗・断裂などから水がたまるなどの炎症を起こすのです。とくに50歳代以後の女性に多く、原因か結果かわかりませんが肥満傾向の方が多いのも特徴です。また靭帯損傷や半月板損傷、関節内の骨折や脱臼など、若いときのスポーツやケガが原因で関節が傷つき、それが原因で進行して変形性関節症になる場合もあります。競技経歴のある人やスポーツ好きの人に多くみられるタイプです。
前述のような症状のある方は、まず整形外科を受診して正確な診断を受けてください。
すぐ診察を受ける時間のない人は、とりあえず次のようなことをチェックしてみてください。
1)正座ができるか、2)体重をかけた時に痛みがないか、3)ひざが曲がりにくくないか(はばったい感じがあれば水がたまっている可能性が大きい。水がたまるのは炎症がある証拠)、鏡の前でひざの形を見て、4)O脚変形がないか、5)大腿部の筋肉の萎縮がないかなど、以上の症状がそろえば変形性膝関節症の可能性が大きいと思われます。
通常の治療方法は、保存的方法と手術的方法に分けられます。保存的方法の中には、運動療法・装具療法・薬物療法・物理療法などがありますが、最も重要なのが運動療法で、手術をふくめ全ての治療法のなかの基本的な要素をしめています。
運動療法の目的は、関節周囲の筋力を鍛え、既に傷んでいる関節を外力という負荷から護ることにあります。一般にスポーツをすることにより筋力をつけるという考えがあるようですが、前述のようにスポーツ動作そのものが関節に過度の刺激を与えては、かえって関節を傷めることになりかねません。要はいかに関節を傷めないで筋力をつけるかということです。ひざを伸ばした状態での脚挙げ体操・横挙げ体操などは体重がかかりませんので関節に負荷をかけないで筋力をつけることができます。関節が固定された状態の運動ですのでこれを等尺性運動といいます。スポーツセンターなどにある器械を使ってのレッグエクステンションは、抵抗力に対して関節を動かしますので等張性運動といいます。抵抗に対し筋力を発揮しなくてはなりませんので効果は上がりますが、家庭でいつでもできるというわけにはいきません。手製のおもり(米袋やスポーツバッグの中に本を入れるなど)を工夫したり、ゴムバンド(セラバンドなど)を利用するのも良いでしょう。
医科学センターやフィットネスクラブに通える方には、プールなどを利用した水中での歩行や体操などの水中運動療法をおすすめします。これは水の浮力を利用して関節にかかる負荷を少なくし、なおかつ水の抵抗を利用して筋力を鍛えることができます。このようにひざの運動療法には医学的知識に基づいたさまざまな新しい方法がありますので、スポーツセンターや医科学センターなどで運動指導員や理学療法士から詳しい情報を得ることをおすすめします。
4. 脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)(高齢者に多い代表的な「腰」の痛み)
人類は二本足で歩くという利点を獲得する一方で、腰痛がその宿命として生じるようになりました。腰椎から骨盤にかけては体重の60%の重みがかかるといわれ、その負担が下部腰椎に集中するからです。また背骨の後ろ半分は脊柱管という空間があり、その中に脊髄神経が首から通っています。若いときからの労働や無理なスポーツ活動が重なると高齢になってから腰痛や足のしびれ、さらには会陰部のつれや痛み、大小便の出にくさや麻痺などの重篤な膀胱直腸障害を訴えるようになります。なかでも特徴的なのは歩行障害で、痛みやしびれのために長時間歩けなくなりますが、腰部で神経が絞めつけられることが原因とされています。腰椎椎間板ヘルニアと似ていますが、ヘルニアでは一部後方に突出した軟骨が坐骨神経を圧迫するのに比べ、脊柱管狭窄症では全周にわたって圧迫すると考えたらよいでしょう。とくに背中を反らすと脊髄の通る空間が狭くなるので症状が強くなります。歩く時にはわれわれの身体はそりかげんになりますので症状が悪化し歩行が障害されるのです。逆に身体を前屈したり、歩行を休止すればまた歩けるようになります(間歇的跛行(かんけつてきはこう))。しかし高い所の物を取ったり15分以上歩けないなど日常生活に不便が及びますと精神的にもうつ状態に追い込まれますので、整形外科でのMRI検査などにより正確な診断をつけ早めに治療することをすすめます。ウォーキングやジョギングは背中が反るので悪影響を及ぼすことが多いのですが、固定式自転車は腰を前屈させるので無理なく下肢のトレーニングを行うことができます。最終的には神経が圧迫されるのを取り除く除圧手術が必要なこともありますが、内服薬や神経ブロックが有効なこともあります。
5. 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
骨は、丈夫な鉄筋コンクリートに例えられますが、鉄筋に相当するコラーゲンという蛋白とコンクリートに相当するカルシウム成分とから成り立っています。この鉄筋とコンクリートが少なくなり脆くなったのが骨粗鬆症で、高齢の女性に多いのは、閉経とともに女性ホルモンが欠乏し結果的に骨も減少するからです。骨粗鬆症の恐ろしいのは、単なる腰痛のみならず尻餅をつくなどわずかな外力で背骨の圧迫骨折を起こすことです。これを予防するには子どものときからのスポーツ活動や運動が欠かせなく、鉄筋コンクリートを作るためのバランスの取れた日常の食事も大切です。育ち盛りの無理なダイエットは将来の骨粗鬆症予備軍をつくってしまいます。
今回は高齢者に起こりがちなひざと腰の痛みについて代表的なものを解説しました。スポーツ医科学センターではこのような悩みのある方に対して適切なトレーニング方法やスポーツ活動の進め方に対するアドバイスをしております。お悩みの方はぜひご相談ください。