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SPORTSよこはまVol.11・スポーツ医科学センター

スポーツ医科学センター メタボリックシンドロームと運動

横浜市スポーツ医科学センター 健康科学課 今川 泰憲(スポーツ科学員)

1 メタボリックシンドロームと運動

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは、『内臓脂肪の蓄積が引き起こす一連の代謝異常』のことで、狭心症や心筋梗塞、脳卒中など動脈硬化性疾患の危険因子となる内臓脂肪型肥満、高血圧、脂質代謝異常、耐糖能異常が一個人に集積した病態をいいます。これらは、個々の疾患の程度は軽症でも、重複すると動脈硬化性疾患の発症リスクが顕著に増加することが知られています。また、近年になって、脂肪組織は単なる余剰エネルギーの貯蔵庫ではなく、これらの疾患に関係する種々のホルモンや生理活性物質(アディポサイトカインと称される)を産生、分泌する内分泌・代謝機能を有することがわかってきました。この特性は皮下脂肪よりも内臓脂肪において強く、内臓脂肪の過剰蓄積がアディポサイトカインの動態に異常を生じさせ種々の代謝異常を来たすとされています。運動とくに有酸素運動は、内臓脂肪の蓄積に対して予防的に作用し、一方、運動不足はこれを蓄積する方向に作用します。それゆえ、有酸素運動を定期的に行っていくことが、メタボリックシンドロームの改善と発症予防に役立つといえます(表1、表2参照)。

表1 日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準

表2 メタボリックシンドロームに対する運動の効果

2 有酸素運動の種類とその適用

 有酸素運動とは、酸素を使って脂肪をエネルギーに変えながら持続的に行う全身的運動のことで、陸上で行う運動では、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、ダンス、水中で行う運動では、水泳、アクアビクス、水中ウォーキングなどが代表的です(表3参照)。私はよく「どの運動が脂肪が一番落ちますか?」と聞かれるのですが、運動中の脂肪燃焼量は、運動の強度と持続時間が等しければ種目による差は殆どないと考えられます。したがって、基本的には、個人が無理なく続けられる環境(施設、場所)で、好きな種目を選んで実施すればよいのです。ただし、過度な肥満の方や下肢・体幹の筋力低下が著しい方、また、膝や腰、股関節などに変性や痛みがある方は、衝撃が大きいジョギングやハイインパクトのエアロビックダンスなどは避けるべきで、体重が負荷にならないエアロバイクや水中運動が適した運動といえます。ウォーキングがいかに効果的とはいえ、無理をして状態を悪化させることがないように、その適用に際しては、徐々に運動量(強度、時間、頻度)を増やしていく配慮が必要です。さて、運動の効果を最大限に得るためには、運動の強度、時間、頻度の3つの条件が重要ですが、次にその目安を示します。

表3 有酸素運動の種類とその適用

3 メタボリックシンドロームに有効な運動の強度、時間、頻度

 体脂肪は、運動強度が強いほど多く燃えてくれるというわけではなく、これを燃やすために最も適した運動強度があります。脂質代謝(脂肪燃焼量)が最も高まるのはLT※注1レベルの運動強度(一般成人では、最大酸素摂取量が得られる運動強度の約50%相当)とされています。LTが出現する運動強度を知るためには専門的な測定が必要ですが、この測定ができない場合は、予測最高心拍数(220−年齢)の50%(初心者)〜70%(上級者)の心拍数がその目安になります。またこれは、主観的には「楽である」〜「ややきつい」と感じるぐらいの運動強度で、初心者ではウォーキング、中級者ではジョギングをしながら会話ができるレベルの強度になります。運動中の心拍数を計るには、脈を10秒数えて6倍するか、市販のハートレートモニターを活用するとよいでしょう。LTレベルの運動は、体脂肪を最も効率よく燃やしてくれるだけでなく、降圧効果(血圧低下作用)、血清脂質の改善(HDL-Cの増加、中性脂肪の低下)、耐糖能(インスリン抵抗性)の改善に対しても有効であることが認められています。運動の持続時間と実施頻度は、メタボリックシンドロームに対する運動の効果を検討したこれまでの研究結果を総括すると、1日に合計30〜60分、1週間に3〜5日の頻度が妥当と思われます。運動の持続時間については、筋で遊離脂肪酸が効率よく利用されるまでに10分以上必要とされていることから、15〜20分以上持続的に行うのがよいでしょう。一方、運動を30〜60分持続して行った場合とこれを数回に分けてトータルで同じ時間行った場合とでは、減量の効果に有意差はないという研究結果も最近では出てきており、まとまった運動時間を確保できない人では、朝・夕の通勤で15〜20分程度歩くなど、こまめに運動することも有用であろうと考えられます(表4参照)。

表4 メタボ改善に有効な運動の強度、時間、頻度

4 実際的な運動の効果 横浜市スポーツ医科学センター・減量教室での結果

  表5は、当センターで定期的に開催している減量教室※注2に参加された57歳の女性(Mさん/仮名)の形態および血液生化学検査データを教室実施前と終了後で比較したものです。Mさんは、平成19年9月から平成20年8月までの約1年間に計2回の減量教室に参加し、約14kgの減量を行いました。教室開始前は、ウエスト囲、中性脂肪、収縮期および拡張期血圧、空腹時血糖の4項目でメタボリックシンドロームの基準値を超えていましたが、終了後は、ウエスト囲を除く全ての項目で基準値に治まっていました。また、肥満に起因ないし関連するとされるその他の検査項目〈参考値〉でも、数値の改善が見られました。教室期間中のMさんの運動記録を調べたところ、1日の平均歩数が11928歩になっていました。Mさんの運動は、ウォーキングと教室で指導された自宅運動メニュー(筋力トレーニングとストレッチ)が主でしたが、それ以外にもラジオ体操(ほぼ毎日)、アクアビクスまたは水中ウォーク(週に1〜2回)、ゴルフ(週1回)などを定期的に実施していました。運動を生活習慣化することでメタボリックシンドロームが改善した好例といえるでしょう。
注1) LT(Lactate Threshold):乳酸性閾値と訳す.運動強度を漸増的に高めていくと、血中乳酸濃度が安静時の水準を超えて急激に増加し始めるポイントがある。このポイントにおける運動強度を乳酸性閾値とよぶ。運動強度がこのレベルを超えると、脂質代謝が抑制されて運動のエネルギー源が糖質主体へと切りかわる。
注2) 1年に2回(前期:4〜8月、後期:9〜12月)開催される減量を目的とした教室で、運動指導と栄養指導を併行して行う。また、効果測定として、教室開始前と終了後で各種体力測定(筋力、持久力など)と医学的検査(骨量、血液生化学検査、運動負荷心電図、MRIによる腹部内臓脂肪面積の測定)を行う。

表5 減量教室の効果(Mさん/仮名)

 運動しながら会話ができるぐらいの強度が体脂肪を最も効率よく燃やしてくれます。ウォーキングでは、あごを引いて背筋を真っ直ぐ伸ばし(猫背になったり、腰を反ったりしない)、腕をよく振って大きなストライドで歩きましょう。障害予防のために、ウォーキングシューズを履くことをお勧めします。

ウォーキング・エアロバイクのイラスト

 ウォーキングだけだと「楽過ぎる」、ジョギングだけだと「きつ過ぎる」という人は、ジョグ&ウォークがお勧めです。5〜10分程度歩いて筋肉を温めた後、少し走っては歩き、また少し走っては歩き…を繰り返します。ジョギングのスピードと距離(歩数)はその人のレベル次第ですが、初心者では速歩より少し速い程度(時速7〜8km)、歩数は数十歩程度から開始して、慣れるにしたがって少しずつスピードと距離を延ばしていきましょう。

スポーツ医科学センター メタボリックシンドロームと運動

横浜市スポーツ医科学センター 健康科学課 今川 泰憲(スポーツ科学員)

1 メタボリックシンドロームと運動

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは、『内臓脂肪の蓄積が引き起こす一連の代謝異常』のことで、狭心症や心筋梗塞、脳卒中など動脈硬化性疾患の危険因子となる内臓脂肪型肥満、高血圧、脂質代謝異常、耐糖能異常が一個人に集積した病態をいいます。これらは、個々の疾患の程度は軽症でも、重複すると動脈硬化性疾患の発症リスクが顕著に増加することが知られています。また、近年になって、脂肪組織は単なる余剰エネルギーの貯蔵庫ではなく、これらの疾患に関係する種々のホルモンや生理活性物質(アディポサイトカインと称される)を産生、分泌する内分泌・代謝機能を有することがわかってきました。この特性は皮下脂肪よりも内臓脂肪において強く、内臓脂肪の過剰蓄積がアディポサイトカインの動態に異常を生じさせ種々の代謝異常を来たすとされています。運動とくに有酸素運動は、内臓脂肪の蓄積に対して予防的に作用し、一方、運動不足はこれを蓄積する方向に作用します。それゆえ、有酸素運動を定期的に行っていくことが、メタボリックシンドロームの改善と発症予防に役立つといえます(表1、表2参照)。

表1 日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準

表2 メタボリックシンドロームに対する運動の効果

2 有酸素運動の種類とその適用

 有酸素運動とは、酸素を使って脂肪をエネルギーに変えながら持続的に行う全身的運動のことで、陸上で行う運動では、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、ダンス、水中で行う運動では、水泳、アクアビクス、水中ウォーキングなどが代表的です(表3参照)。私はよく「どの運動が脂肪が一番落ちますか?」と聞かれるのですが、運動中の脂肪燃焼量は、運動の強度と持続時間が等しければ種目による差は殆どないと考えられます。したがって、基本的には、個人が無理なく続けられる環境(施設、場所)で、好きな種目を選んで実施すればよいのです。ただし、過度な肥満の方や下肢・体幹の筋力低下が著しい方、また、膝や腰、股関節などに変性や痛みがある方は、衝撃が大きいジョギングやハイインパクトのエアロビックダンスなどは避けるべきで、体重が負荷にならないエアロバイクや水中運動が適した運動といえます。ウォーキングがいかに効果的とはいえ、無理をして状態を悪化させることがないように、その適用に際しては、徐々に運動量(強度、時間、頻度)を増やしていく配慮が必要です。さて、運動の効果を最大限に得るためには、運動の強度、時間、頻度の3つの条件が重要ですが、次にその目安を示します。

表3 有酸素運動の種類とその適用

3 メタボリックシンドロームに有効な運動の強度、時間、頻度

 体脂肪は、運動強度が強いほど多く燃えてくれるというわけではなく、これを燃やすために最も適した運動強度があります。脂質代謝(脂肪燃焼量)が最も高まるのはLT※注1レベルの運動強度(一般成人では、最大酸素摂取量が得られる運動強度の約50%相当)とされています。LTが出現する運動強度を知るためには専門的な測定が必要ですが、この測定ができない場合は、予測最高心拍数(220−年齢)の50%(初心者)〜70%(上級者)の心拍数がその目安になります。またこれは、主観的には「楽である」〜「ややきつい」と感じるぐらいの運動強度で、初心者ではウォーキング、中級者ではジョギングをしながら会話ができるレベルの強度になります。運動中の心拍数を計るには、脈を10秒数えて6倍するか、市販のハートレートモニターを活用するとよいでしょう。LTレベルの運動は、体脂肪を最も効率よく燃やしてくれるだけでなく、降圧効果(血圧低下作用)、血清脂質の改善(HDL-Cの増加、中性脂肪の低下)、耐糖能(インスリン抵抗性)の改善に対しても有効であることが認められています。運動の持続時間と実施頻度は、メタボリックシンドロームに対する運動の効果を検討したこれまでの研究結果を総括すると、1日に合計30〜60分、1週間に3〜5日の頻度が妥当と思われます。運動の持続時間については、筋で遊離脂肪酸が効率よく利用されるまでに10分以上必要とされていることから、15〜20分以上持続的に行うのがよいでしょう。一方、運動を30〜60分持続して行った場合とこれを数回に分けてトータルで同じ時間行った場合とでは、減量の効果に有意差はないという研究結果も最近では出てきており、まとまった運動時間を確保できない人では、朝・夕の通勤で15〜20分程度歩くなど、こまめに運動することも有用であろうと考えられます(表4参照)。

表4 メタボ改善に有効な運動の強度、時間、頻度

4 実際的な運動の効果 横浜市スポーツ医科学センター・減量教室での結果

  表5は、当センターで定期的に開催している減量教室※注2に参加された57歳の女性(Mさん/仮名)の形態および血液生化学検査データを教室実施前と終了後で比較したものです。Mさんは、平成19年9月から平成20年8月までの約1年間に計2回の減量教室に参加し、約14kgの減量を行いました。教室開始前は、ウエスト囲、中性脂肪、収縮期および拡張期血圧、空腹時血糖の4項目でメタボリックシンドロームの基準値を超えていましたが、終了後は、ウエスト囲を除く全ての項目で基準値に治まっていました。また、肥満に起因ないし関連するとされるその他の検査項目〈参考値〉でも、数値の改善が見られました。教室期間中のMさんの運動記録を調べたところ、1日の平均歩数が11928歩になっていました。Mさんの運動は、ウォーキングと教室で指導された自宅運動メニュー(筋力トレーニングとストレッチ)が主でしたが、それ以外にもラジオ体操(ほぼ毎日)、アクアビクスまたは水中ウォーク(週に1〜2回)、ゴルフ(週1回)などを定期的に実施していました。運動を生活習慣化することでメタボリックシンドロームが改善した好例といえるでしょう。
注1) LT(Lactate Threshold):乳酸性閾値と訳す.運動強度を漸増的に高めていくと、血中乳酸濃度が安静時の水準を超えて急激に増加し始めるポイントがある。このポイントにおける運動強度を乳酸性閾値とよぶ。運動強度がこのレベルを超えると、脂質代謝が抑制されて運動のエネルギー源が糖質主体へと切りかわる。
注2) 1年に2回(前期:4〜8月、後期:9〜12月)開催される減量を目的とした教室で、運動指導と栄養指導を併行して行う。また、効果測定として、教室開始前と終了後で各種体力測定(筋力、持久力など)と医学的検査(骨量、血液生化学検査、運動負荷心電図、MRIによる腹部内臓脂肪面積の測定)を行う。

表5 減量教室の効果(Mさん/仮名)

 運動しながら会話ができるぐらいの強度が体脂肪を最も効率よく燃やしてくれます。ウォーキングでは、あごを引いて背筋を真っ直ぐ伸ばし(猫背になったり、腰を反ったりしない)、腕をよく振って大きなストライドで歩きましょう。障害予防のために、ウォーキングシューズを履くことをお勧めします。

ウォーキング・エアロバイクのイラスト

 ウォーキングだけだと「楽過ぎる」、ジョギングだけだと「きつ過ぎる」という人は、ジョグ&ウォークがお勧めです。5〜10分程度歩いて筋肉を温めた後、少し走っては歩き、また少し走っては歩き…を繰り返します。ジョギングのスピードと距離(歩数)はその人のレベル次第ですが、初心者では速歩より少し速い程度(時速7〜8km)、歩数は数十歩程度から開始して、慣れるにしたがって少しずつスピードと距離を延ばしていきましょう。