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    イベントレポート

センバツへの道【4】高校野球 慶応高校が秋の日本一に! 〜帰ってきたエース〜

by :千葉 陽子

 球速146キロ。神宮球場のバックスクリーンの数字に、スタンドからどよめきが起こった。11月19日、第39回明治神宮野球大会の関東代表慶応(神奈川)—近畿代表天理(奈良)の決勝戦。終盤の大事な場面で慶応のエース、白村明弘投手(2年)がマウンドに帰ってきた。その時を待っていたかのように、勝負の道筋は慶応の92年ぶりの全国大会優勝というゴールにたどり着いた。

慶応義塾高校創立150周年の節目を、日本一という最高の形で締めくくった

憧れの神宮球場

 明治神宮野球大会は1973年の第4回大会から高校の部が始まり、大学の部と同時開催で今日に至る。高校の部は秋季地区大会の優勝校9校と、東京都秋季大会の優勝校が出場権利を得る。11月5日に関東大会で優勝し、来春のセンバツ(選抜高校野球大会)出場を確実にした慶応。野球部の長い歴史の中で、この明治神宮野球大会に出場するのは初めてのことだ。

 高校野球の聖地は甲子園。それでも、「兄貴分の慶応大学が試合をする球場」と上田誠監督が話すとおり、選手にとって神宮球場は特別な場所。例えば白村投手は今夏の甲子園のエース、田村圭投手(3年)を尊敬している。その田村投手は来年東京六大学野球で、神宮球場で投げることになるだろう。先輩よりも先に、自らが神宮球場のマウンドに立つことを目指していた。そして以前、「大学生になったら神宮の舞台に立ちたい」と話したキャプテンの植田忠尚捕手も、一足早く夢が叶うことになった。

 迎えた11月16日の初戦。小雨の降りしきる神宮球場に慶応ナインは乗り込んだ。

東京六大学野球の聖地・神宮球場でプレーする喜びを力に変えて…

2人の孝行息子と貫いた自分たちのスタイル

 初戦の相手は東北代表の光星学院(青森)。関東大会の頃から腰を痛め、その後練習量不足になっている白村投手を案ずる部分もあってか、上田監督は明大貴投手(1年)に白羽の矢を立てた。関東大会で公式戦初登板を果たした明投手だったが、満足のいく結果は残せなかった。

 再び与えられた大舞台でのチャンスに、1年生ピッチャーは見事に応える。わずか3日前に覚えた新しい球種、スプリットを生かして「ピッチングの神様が乗り移った」(上田監督)ような投球で、3安打2失点で完投。打線もチームに根付いた「しぶとくつなぐ野球」を本領発揮。明投手のスクイズ、この日5番レフトで出場した白村投手の犠牲フライなどで効率良く得点し、4−2で勝利。準決勝に進んだ。

小雨の中、いよいよプレーボール!(左) 上田監督も嬉しい驚き、大事な初戦で成長を遂げた明投手(右)

キャプテン、4番バッター、エース白村投手と2人の1年生ピッチャーの女房役…大車輪の活躍だった植田捕手

 

 準決勝、北海道代表の鵡川戦の先発は瀧本健太朗投手(1年)。明投手と同じく関東大会で初登板、上々のデビューを果たしている。「お前は普通に投げれば打たれないから」と白村投手に激励を受けてマウンドに上がり、打撃戦を制してきた鵡川を完封。「ストレートの切れとコントロールが悪かった」と反省しながらも、任務をまっとうした。

 打っては瀧本投手自らの先制タイムリーや、6番荒川健生選手(2年)の3安打の活躍など6−0で圧勝した。新チームになって、9月7日県高校野球秋季大会の初戦から負け知らずの選手たち。秋の日本一まであと1勝のところにやって来た。

「先発はまっさらなマウンドに立てるので気持ちがいい」。センバツでも活躍が楽しみな瀧本投手(左) つないで走る!慶応自慢の機動力を生かして攻めた(右)

日本一まであとひとつ! 応援してくれたスタンドへ駆け寄る!

野球部を愛する人たちに支えられて

 「昨日の夜勉強しながら、絶対明日は腰が壊れても投げきろうと思った」と決勝戦後に明かした白村投手。その言葉どおり、明治神宮野球大会は、実は中間テストの真っ最中に行われていた。スタンドで応援をまとめる応援指導部の部員たちも、本業のテストが最優先。そこでピンチヒッターを買って出たのは、「後輩の分まで優勝につながるように応援したい」と胸を張った星勝晃さん(慶応大学1年生)ら応援指導部のOBたちだ。テストを終え、試合途中に駆けつけた現役生たちと、「陸の王者、慶応」を何度もスタンドに響かせて盛り上げた。

 また野球部をこよなく愛するという慶応高校数学科の蒲田みどり先生は、「9月の県大会の途中に、上田監督からまた甲子園行きますよと宣言されて、まさに有言実行です」と熱く語った。厳しい勝負の世界に身を置く選手たちも、素顔は高校生。大会が終わればすぐにテストが待っている。そんな彼らを蒲田先生は温かい眼差しで見守っている。応援指導部のメンバーや教師、そして家族…。野球部を愛する人たちの力も、勝利に大いに貢献している。

中間テスト期間のため、応援指導部のOBたち(左)が熱くスタンドを盛り上げた!

そしてエースが帰ってきた

心ひとつに、決勝も「エンジョイ・ベースボール」!(左) エースの証、背番号1がマウンドに帰ってきた!(右)

 「近畿チャンピオンの胸を借りる」気持ちで決勝に臨んだ上田監督。対戦する天理を、神奈川の強豪校、桐蔭学園や桐光学園のようなタイプと分析し、警戒を強めた。

 青く澄み渡った空の下、慶応と天理のナインがグラウンドに整列。1回の表、慶応はキャプテン植田捕手の先制タイムリーなどで3点を挙げ、試合の主導権を握る。しかし決勝戦独特の緊張感の中、両チーム一進一退の攻防が続き、慶応には思わぬエラーも何度か見られた。

  

 たとえエラーがあっても、ベンチで待っているのは仲間の明るい笑顔。「自分たちの野球をやれば、最後は絶対逆転できると思った」。そう振り返ったエースの白村投手は後輩の明投手、瀧本投手の後を受け、6回裏初めて神宮球場のマウンドに立った。7回裏に慶応は同点に追いつかれるが8回表、「体が勝手に反応して打てた」という白村投手自らのヒットなどで勝ち越しに成功。「キャッチャー(植田捕手)もずっと真っすぐのサインで、気持ちが乗っていけた」。今まで投げることが出来なかったうっぷんを晴らすかのように、6個の三振を奪う。9回裏、最後のバッターを打ち取ると、エースはナンバー1を示した指を高々と天に突き上げた。慶応は8−6で粘る天理を下し、ついに頂点に立った。

天理に2度追いつかれ苦しい展開になっても、慶応ナインは笑顔を失わなかった(左) 「自分で打ったことで乗れた」。白村投手のヒットが勝利を呼び込んだ(右)

優勝旗の重みをかみしめて…(左) 34年ぶり2回目の出場の古豪天理。準優勝の結果を残した(右)

 「夢のようで、目が覚めたら違う世界にいるのでは、と思うほど。成長した選手たちを誇りに思います」と万感の表情を見せた上田監督。「ひたむきにやれることをやろう。その姿勢が結果につながりました」。上田監督が掲げる「エンジョイ・ベースボール」はひとつの結実を迎えた。来る2009年はいよいよ甲子園で日本一になる夢に向かって突き進むことになる。

 次の公式戦は来春のセンバツの初戦になることは間違いない。「とにかくひとつ勝つ、という気持ちで臨みたい」と力を込めた白村投手。帽子の裏には「世代最強」という言葉が刻まれている。その言葉を証明するために。この冬も慶応ナインは邁進する覚悟だ。

来年は甲子園で日本一に! ベンチで戦った(左から)七條部長、上田監督、杉林マネージャー

【記者の感想】

 慶応高校野球部の皆さんと初めて出会ったのは、10月5日の県高校野球秋季大会の決勝戦の取材でした。その日からたった45日で、ついに選手たちは日本一になりました。

 上田監督は当初新チームを、「海の者とも山の者ともわからない選手が集まった」と話されていました。そんな選手たちはどんな時もあきらめず、明るくひたむきにプレーして、公式戦無敗という素晴らしい結果を残しました。試合を重ねるごとに自信をつけて、どんどん輝いていく様子がとてもまぶしく思えました。私が学生時代マネージャーで野球に携わっていた時に経験した、心が震えるくらいの感動を、この秋は久しぶりに何度も味わうことができました。

 来年は聖地・甲子園で日本一という大きな目標に向かう慶応ナインの軌跡を追い、そして神奈川の高校野球の素晴らしさをお伝えしていきたい、と願っています。

プロ野球選手になる夢に向かって。白村投手にとって、甲子園のマウンドがその一歩になる

※写真の転載は固くお断りします※