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    イベントレポート

つないだ手、信じる心が世界の壁を越えるとき 〜 女子バレーボールワールドグランプリ・決勝ラウンド、横浜アリーナの5日間

by :スポーツ情報センター記者

 2008年5月23日、バレーボール女子北京五輪世界最終予選。日本は韓国を3−1で敗り、2大会連続の五輪出場権を獲得した。その全日本女子チームが、北京五輪の前哨戦として開催された女子バレーボールのワールドグランプリに出場した。

北京五輪で24年ぶりのメダル獲得を目指す柳本ジャパン

 1993年に始まったワールドグランプリは、国際バレーボール連盟(FIVA)主催で行われ、女子バレーボールの世界のトップ12チームがアジア地区を中心に開催する国際公式戦に挑み、今年で16回目を迎える。予選ラウンドは3週間にわたり各4チームの3グループに分かれ、各チーム合計9試合を戦う。今年の決勝ラウンドの開催地は横浜。予選ラウンドの上位5チームと開催国の日本を加えた6チームが、会場の横浜アリーナを舞台に熱戦を繰り広げた。
 日本バレーボール協会の山岸紀郎専務理事は、「ワールドグランプリは参加国にとって、その年のナショナルチームをお披露目する場で、今年はオリンピックの前哨戦。女子のバレーボールを世界に広めるために、非常に大きな意味がある」と大会の魅力を話した。

ワールドグランプリの魅力を語る神奈川県バレーボール協会の白石武彦専務理事(左)と日本バレーボール協会の山岸紀郎専務理事(右)

 予選ラウンドを2勝7敗で終えた日本。7月9日に開幕した決勝ラウンド5日間の戦いを追った。

カリブの鳥人と対戦
【7月9日 日本VSキューバ】
 試合直前の会場は、初日ということもあり華やかなエンターテイメントが開催された。大会共催局のTBSの人気ドラマ「ルーキーズ」の出演者たちが登場し、場内はヒートアップ。そしてスペシャルサポーターの歌手、松田聖子さんが大会イメージソングを披露。日本の勝利を信じる前向きなメッセージが伝わってきた。華やかな雰囲気の中、日本、キューバの国旗入場に続き、いよいよ選手がコートに現れた。われるような「ニッポン」コールに、選手たちの表情が一段と引き締まった。

   

横浜アリーナに「ニッポン」コールが響く!

 世界ランク3位のキューバはバルセロナ大会、アトランタ大会、シドニー大会と五輪3大会連続金メダルを獲得した強豪国。スパイク最高到達点がチーム平均317センチ(日本は298センチ)と、高い身体能力を持つ「カリブの鳥人」に日本が挑む!
 試合は第1セット、日本のエース栗原選手がサーブで4得点挙げるなど、日本の攻撃が決まり25−19で先取。しかしその後はキューバのブロックや強烈なアタックに苦しみ3セットを連続で落とし、セットカウント1−3で逆転負けを喫した。
 日本の柳本監督は、「負けたということは、イージーなミスや、サーブ、レシーブが崩された時の連続失点が多かった」と振り返った。
幸先の良いスタートを切ったキューバのペルドモ監督は、「日本の速さを今まで以上に感じた。高橋選手のスパイクはとても技術が高く、取るのにかなり手こずった」と話し、キャプテンのルイザ選手は、「日本は最後まで戦う姿勢を忘れていなかった」とたたえた。

   

決勝ラウンドの5日間、強豪国との対戦に臨む日本

   

鋭いスパイクでキューバを苦しめた高橋選手(左) 高い身体能力から「カリブの鳥人」と呼ばれるキューバ(右)

負けられない一戦
【7月10日 日本VSアメリカ】
 2日目の相手はバレーボール発祥の国・アメリカ。世界ランキング4位の強国だ。現在アメリカを率いるのは中国人の郎平監督。監督自身、ロサンゼルス五輪で中国の金メダル獲得に貢献している。アメリカは日本が北京五輪予選ラウンド初戦で対戦する相手。負けられない一戦に臨む!
 試合は第1セットから激しい試合展開に。一進一退の攻防は栗原選手のバックアタックや高橋選手のスパイクが効果的に決まり、日本の気持ちが入った攻撃が実り28−26で先取したが続く第2セットを落とす。しかし第3セットは36歳のベテラン多治見選手の投入で流れを変え、25−22で奪い返したが、結果セットカウント2−3で惜しくも敗れた。
 日本の柳本監督は、「この2試合で厳しいチームと戦う時に、ミスがはっきり出てきている。勝たなければ実績にならない」と悔しさをにじませた。そしてキャプテンの竹下選手は、「勝つチャンスがたくさんあったのに勝てなかったことは、悔しい。五輪までにもう一度いい形で戦えるようにしたい」と力をこめた。
 接戦を制したアメリカの郎平監督は、「ほとんどが日本のファンの中で勝てたことは、非常に良い経験になった」と手ごたえをつかんだようだった。

     

名実共に日本のエース・栗原選手(左) 北京五輪で日本が初戦で対戦するアメリカ(右)

大金星
【7月11日 日本VSイタリア】
 2連敗を喫し、やや重苦しい雰囲気が漂う中、日本は世界ランク2位のイタリアと対戦した。データを駆使したIDバレーが持ち味のイタリア。2007年のワールドカップでは全勝で初優勝を成し遂げている。
 日本は第1セットから多彩な攻撃でイタリアをリード。2セット連取して迎えた第3セット終盤、栗原選手のサービスエースでイタリアに1点差に迫る。さらに杉山選手のブロックなどで逆転し、イタリアにセットカウント3−0でストレート勝ち。久しぶりに選手たちから満面の笑顔がこぼれた。日本が対イタリア戦で勝利を収めたのはアテネ五輪最終予選以来で、ストレート勝ちは12年ぶりの快挙。まさに歴史に残る「大金星」となった。
 敗れたイタリアのバルボリーニ監督は、「この試合では日本を倒す忍耐力が欠けていた。日本は昨日アメリカと非常に良い試合をして、力が向上してきているのではないか」と淡々と振り返った。
 そして勝利に沸く日本は…栗原選手は、「五輪を前に厳しい試合が続いていたので、その中で一つでも多くの収穫を持ちたいと思って臨み、最後まで本当に無心でプレーしたのが良かった」と安堵した笑顔を浮かべた。
 またこの日大活躍した杉山選手は、前日のアメリカ戦で途中交代の悔しさをバネに、チーム最多タイ14得点を挙げた。勝利インタビューでは、「大切な方がコートサイドで見つめています」と昨年結婚した夫を紹介され、「恥ずかしい」と照れながらも幸せいっぱいな姿を見せた。

     

試合後、「すごくいいゲームだった」と振り返った竹下選手・手前(左) 木村選手渾身のスパイク!(右)

     

歴史的金星に歓喜の輪!(左) 観客席で見守る夫に勝利報告した杉山選手(右)

 7月9日〜11日の3日間、横浜市は横浜市立小学校、中学校の生徒たちを試合に招待した。この背景には、3月28日に日本オリンピック委員会と横浜市がパートナー都市協定を締結したことがある。その一環として横浜市内の生徒たちが世界のトップ選手の活躍に触れる機会を与えるために実現したもの。3日間で41校約2,700人が訪れ、「ブラジル!」「アメリカ!」など観戦した国に元気いっぱいの声援を送り、大会を盛り上げた。

横浜アリーナを元気いっぱいに盛り上げた小中学生たち

地元開催の五輪に勢い増す金メダルチーム
【7月12日 日本VS中国】
 前日に予選ラウンド、アメリカ戦からの9連敗をストップした日本。この日の対戦相手はアテネ五輪で20年ぶりに金メダルを獲得した世界ランク6位の中国。身長196センチ、世界最高のセンターと呼ばれる趙蕊蕊(チョウヌイヌイ)選手など、「高い壁」を誇る中国。中国は北京五輪予選ラウンドで対戦する相手。日本は五輪前哨戦に、昨日の勢いをつなぎたい!
 日本は第1セット、サーブミスが続くなど落としてしまうが、第2セットは栗原選手や木村選手のバックアタックがよく決まり、30−28で粘り強く奪い返す。しかし続く2セットを落とし、中国の高いブロックと速攻に屈し、セットカウント1−3で敗れた。
 中国のキャプテン馮坤(ヒョウコン)選手は、「日本チームはよく進歩してきた。ネット上での実力、ブロックを始めとする技術が良く、アジアの中でも非常にスピードのあるチーム。私たちのバレースタイルと少し似ている」とたたえ、特に栗原選手、木村選手の名前を挙げ警戒を強めていた。地元開催の五輪に連覇の期待を背負う。「私の目標は五輪のバレーコートに中国の国家が流れること。中国チームで一人のプレーヤーとしての役割を果たし、今は五輪を思いっきり楽しもうと思います」と言い切った。
 そして敗れた日本の竹下選手は、「相手がミスをしないチームだったので、自分たちがいかにミスをしないでいいバレーをできるか、というところに勝因が出てくると思う」と唇をかみしめた。

     

イタリア戦の勝利をつなげたい日本(左) 闘志みなぎる柳本監督(右)

   

中国の高い壁が日本の前に立ちふさがる(左) 中国のキャプテン馮坤選手(右)

 大勢のバレーボールファンで連日にぎわう横浜アリーナ。中国戦は12,500人、満員の観客で埋まった。「公式戦の観戦は初めて」という栄区在住の女性は中学、高校、そして結婚後もバレーボールを続けてきたという経歴の持ち主。やっとのことで手に入れたという、この試合のチケットを握り締め、「自分がバレーをやってきたので、練習の苦しみがわかる。今日は選手の姿を見て感動して涙が出てきました」と目をうるませて話し、「テレビで観るのと雰囲気が違い、大きな声を出して応援しました。竹下選手のトスは世界レベルの素晴らしさでした。五輪では普段の練習の成果を発揮して、頑張ってほしいですね」と感無量の様子だった。

幾多の困難を乗り越えて、キャプテンとして日本を引っ張る竹下選手

さらば横浜、世界ランク1位とのファイナル
【7月12日 日本VSブラジル】
 横浜を舞台に繰り広げられた5日間の熱戦は、遂に最終日を迎えた。日本が迎え撃つのは世界ランク1位のブラジル。前日にキューバとの全勝対決を制し、日本戦に臨む。ブラジルのギマラエス監督は、「日本と対戦する時はリスペクトを持って対戦している。自分たちのすべてのスピリットを見せて全力で戦う」と宣言した。
 前日と同じ12,500人、満員の横浜アリーナに「ニッポン」コールが響く中、決勝ラウンド最終戦が始まった。日本は第1セット、第2セット共に23点を取り粘りを見せた。しかしブラジルの速攻、そして崩れないバレーに1セットも奪えず、0−3のストレート負けを喫した。
 しかし下を向いている時間はなく、本番の北京五輪まで1ヵ月を切っている。試合終了後柳本監督は観客を前に、「私たち一人一人が持っているドラマ、思いをメダルに向け、人生をかけて頑張ります」と力強く呼びかけた。

 日本の柳本監督はワールドグランプリを振り返り、「4年前のアテネ五輪の経験から、モチベーションの維持が一つのポイントになった。上位チームと戦っていく中で、自分たちが北京のヒントをどれだけ拾っていけるか、いろんな選手起用を含めて最後まで戦ってきた。ファイナルラウンド5試合は、自分たちが持っている力をできるだけ思い切って出していこうと意識して戦った。技術的な課題が明確になったこと、そして世界を意識できるチームになったと思う」と、五輪に向けて培った収穫を話した。

   

世界ランク1位の実力を見せつけたブラジル

 すべての試合を終えた横浜アリーナでは1位ブラジル、2位キューバ、3位イタリアの表彰式が開催された。以下アメリカ、中国、日本の順位となった。MVPはブラジルのマリアーネ選手が獲得し、「上位チームはすべて五輪で優勝を狙っているので、高い集中力が必要」と五輪で初の金メダル獲得へ向けて、意欲を燃やしていた。
 そして日本から3人の選手が個人賞を受賞した。通算83得点を挙げた栗原選手はベストスコアラー賞、そしてベストサーブ賞を受賞した。さらに竹下選手はベストセッター賞、リベロとして大会ベストの68.14%の効果率を上げた佐野選手はベストリベロ賞を獲得した。

    

大会MVPを獲得したブラジルのマリアーネ選手・中央(左) 北京五輪でも活躍が期待される日本のリベロ、佐野選手(右)

 毎試合前、選手たちは「君が代」が流れる時、いつも1列に並びしっかりと手をつないでいた。 選手一人一人が決して順風満帆に日本代表権を獲得したわけではない。竹下選手は、2000年シドニー五輪の出場権を逃したことに責任を感じ、一時バレーボール界から離れた。紆余曲折を経て再びコートに戻り、今や大黒柱としてチームを支えるキャプテンだ。そして日本の揺るぎないエース、栗原選手は2年前に負った左足の種子骨骨折を乗り越え、再び日の丸を背負う。「プリンセス・メグ」と呼ばれる栗原選手の新たな挑戦が始まろうとしている。
 つないだ手、お互いを信じる心は、きっと世界の壁を超えて勝利をつかむ。それが、バレーボールというスポーツなのだから。

    

北京のコートで栗原選手の目に映るものは…(左) つないだ手、信じる心でメダルをつかむ!(右)