向き合うこと、乗り越えること。
by :スポーツ情報センター:sekki.
7月19日(土)20日(日)、平沼記念体育館で2008FIDジャパンチャンピオンシップ卓球大会が開かれた。日本FID(知的障害者)卓球連盟が主催するこの大会は、今年で11回目の開催となる。
全国から集まった選手。今か今かと始まりを待ちわびる。
夏真っ盛りで気温が高い中、北は北海道、南は沖縄から参加者が集まった。参加者は皆、それぞれに知的障害(ID)がある。しかしそのことを感じさせないすばらしいプレーと高い技術を随所に見せた。
細かいところまで気を配り、円滑な運営に取り組む岩間理事長。
主催する同連盟の岩間栄理事長は「これまで(大会を)10回開催しているが、ボランティア団体として活動しているので、どうしてもまわりの人たち(サポーター)の力が必要」と話す。また「少しずつ口コミなどによって認知され、障害者卓球の人口は年々増加している。今大会は沖縄からも参加者が来てくれた」とも話した。
日頃の練習の成果が、随所に好プレーとして表れる。
大会の運営や考え方について、「事前にルール説明をすると『健常者と彼らは違う。一緒のルールじゃできない』という話が出る。障害があるということを充分理解し、その上で『障害があるから』という概念をルールから取り払っていかなければ、競技として成り立たない部分もあり、障害のある人たちの成長を妨げることになる。障害があるからと言うのではなく、障害のある人たちが社会に近づくことも大切」と話す。
つながりは、まず態度で示す。フェアプレーの証でもある。
古くは40年前から、レクリエーションのひとつとして盛んに行われてきたという障害者卓球。レクリエーションから競技性を持たせることで、障害のある人がより活躍し輝く場所ができ、この社会に生きていく上でのルールを学ぶ機会ができる。
喜びや悔しさを表すのも、日頃から一生懸命練習したからこそだ。
岩間理事長は続けてこう話す。「社会に参加する障害のある人たちを、みんながどう支えるか。(大会は)そのバランスを一緒に考えるいい機会だと思う。できる部分は一緒にやっていこう、たくさんの人にこういう場へ積極的に関わってほしい。当たり前のことを当たり前に、社会の一員なんだという実感を持ってもらう、ということを(活動を通して)目指しています」。
卓球ができることの幸せ、今この瞬間のひとときに感じているだろう。
会場となった平沼記念体育館は、競技としての緊張感とともに、好きな卓球を心から楽しんでいるという充実感に包まれていた。そんな雰囲気を感じたのか、岩間理事長が選手たちの活き活きしたプレーを見ながら言った一言が、心を打った。
「かっこいい彼らを知ってもらいたい。見てもらいたい」
あとがき
私事ですが、私の兄には知的障害があります。長年兄弟として接してきて思ったことと今回の取材を通して改めて感じたことがあります。それは『周りの人たちがサポートすること』のひとつは、この社会に生きるひとりの人として、何をしなければならないか、何をしてはいけないのかを伝え(ときには教え)、それが自ずと理解し行動できるように必要なことをする、ということだと思います。身近にいてあれやこれやと伝える(教える)だけでなく、時にはひとりで思い、考え行動する環境を作ること、そうして理解と知識と経験を得ることで、ひとりの人としてこの社会の中で尊厳を持って生きる、ということだと。これは親子関係や学校での教育など、人が育つ上でごく当たり前に行われていることと何ら変わりないと思うのです。
ただそこで、プラスアルファの支えがいる、ということなんだと。
もちろん、常にサポートを必要とする方もたくさんおられます。それぞれにご苦労があるのも事実です。だからこそ一人ひとりが人として、活き活きできるあらゆる形の環境を作り、多くの人たちと共有していくという努力を忘れてはいけないと思うのです。そのための少しの気付きや心配りでも、不安や困難を乗り越えていくことができる。私はそう信じています。
(written by hideaki seki)