インクルーシブスポーツって?!『インクルーシブスポーツフェスタ2021』
11月21日(日)、横浜市三ツ沢公園補助競技場で、『インクルーシブスポーツフェスタ2021』(以下、インクルフェスタ2021)が開催されました。
このイベントは、昨年の11月に続き2回目の開催。
前回は、コロナ禍によって開催中止となるイベントが相次ぐ中で行われた屋外スポーツイベントだったこともあり、多くの方が楽しまれたそうです。
そして迎えた今年の『インクルフェスタ2021』。
「インクルーシブ」という言葉は、あまりなじみのない言葉だと思いますが、みなさんはどんなことを思い浮かべますか?このイベントを通じて、「インクルーシブ」という考え方をスポーツの視点から考えてみたいと思います。
『インクルフェスタ2021』主催者である、公益財団法人横浜市スポーツ協会 秋田浩平 インクルーシブスポーツ推進担当課長にお話を伺いました。
-いきなりですが、「インクルーシブ」や「インクルーシブスポーツ」とは、どのようなことなのでしょうか。そして、どのような願いを込めて『インクルフェスタ2021』を開催されたのでしょうか。
そうですね、横浜市ではインクルーシブスポーツという言葉を以下のように説明しています。
《障害の有無や年齢、性別、国籍等を問わず誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である共生社会の実現に向けた取組を推進する、各人の適正にあったスポーツ活動のことをさしています》(横浜市スポーツ推進計画・中間見直し、用語集から引用)
とはいえ、横浜市民の皆さんにとってもインクルーシブスポーツという言葉はまだピンと来ないでしょうし、あまり浸透していないのではないかと思います。
そして私たち横浜市スポーツ協会は、協会の理念である《いつまでもスポーツが楽しめる明るく豊かな社会の実現》を目指してスポーツ振興に取り組む中、着実に障害のある方が参加できる教室やイベントの開催を増やしてきました。
そこから更に《障害の有無、年齢、性別、国籍といった区別なく誰もが参加できるイベントを開催したい》と考え、このイベントを企画しました。
「参加した誰もが楽しむことができる場」、また「障害がない人が障害のある人の状況などについて理解を深める場」、そして「障害のある方がもっとスポーツに取り組める場」となる〈機会〉を増やすための手段として『インクルーシブスポーツフェスタ』を行うことにしました。
多くの皆さんにとって、このようなイベントに参加することが「インクルーシブ(包括)」という言葉についての理解を深めることにつながるのではないかと思います。
-ブース運営スタッフの「インクルーシブ」との関わりは、どのようなものでしょうか。また、工夫したところはありますか。
ブースに協力してくださった企業や団体の皆さんはすでに、インクルーシブの考え方に基づいた活動をされていて、このインクルフェスタの趣旨に賛同してくださっている方々です。
携わった皆さんは、それぞれのブースを楽しんでもらえるように来場された参加者に合わせた工夫をしてくださっていました。
また、インクルーシブについて興味を持っていただけるように、各ブースの種目は誰が来てもできる種目を選び、種目について理解を深めてもらうためにパネルに概要を書き出しました。
加えて、来場者の皆さんがインクルーシブの考え方について理解、共感できるようにインクルーシブ啓発動画の上映や冊子の配布を行いました。動画に興味を持ったたくさんの子どもたちが、足を止めて見てくれていました。
上映した『インクルーシブ啓発動画』
-今後の活動は。
参加した皆さんが一緒になってインクルーシブスポーツを楽しむことができる機会を、もっともっと増やしていきたいと考えています。
ここまでお話を伺ってきたように、インクルーシブスポーツはそれぞれの条件に合わせて工夫することで誰にでも楽しむことができるようになるスポーツ、なのではないでしょうか。
イベントに参加していく中で、『隣の人と一緒になって楽しくスポーツをしたいと思った時どんな工夫をすればいいのか、という考え方』ができるようになっていくといいですね。
それでは、実際に『インクルフェスタ2021』に参加された皆さんのようすを写真でご紹介します。画像は、ブースで使った案内パネルの一部です。
【遊び体験ブース】
協力:株式会社ボーネルンド
跳んだりはねたり転がったり。
子どもには、安心感のあるなかで思いきり体を動かすことができる場が必要です。
運動能力・バランス感覚・危険回避能力などが身につき、やがて自分の体に対する自覚が目覚めます。トレーニングではなく、好奇心を刺激しながら「楽しい!」と思えるあそびの体験は、自然とたくさんの動きを生み出します。
「サイバーホイール」の説明:安全に全身を360°回転させられるようにと開発された遊具。サイバーホイールは、適度な弾力の壁にしっかりと守られた空間の中で、でんぐり返しをしたり、ぶつかったり、転がしたり、全身をつかって自在な動きができる遊具です。バランスをとろうとすることで、平衡感覚や筋力、集中力なども鍛えられます。
「エアートラック」の説明:弾力によって脚や関節に与える衝撃が最小限になるマット。30cmの厚さはプロレベルの体操選手が全力で回転・着地を繰り返しても、足や関節に与える衝撃は最低限になります。
[遊び体験ブース担当者(株式会社ボーネルンド)にインタビュー]
スポーツ=競技というイメージではなく、遊びの体験からインクルーシブスポーツに興味を持っていただくきっかけづくりの役割を担うために参加しています。
子どもが楽しく遊びたいという衝動を大切にしたいですね。大人には、子ともと同じ遊びをした時に思っている以上に体を使っていて、遊びがスポーツにつながっているということに、気付いてほしいですね。
なるほど、子どもたちはサイバーホイールを思い思いのスタイルで転がしていました。大人と一緒に回っているお子さんもいて、大人はヘロヘロ、子どもはキャッキャと声を上げて楽しんでいました。
エアートラックで我を忘れて飛んでいた大人たちは、地上に降りた時に膝がガクガクになっていましたが、子どもたちは疲れを知らずに、何度も何度も繰り返し飛び跳ねて楽しんでいました。
【障害者フライングディスク体験ブース】
協力:かながわ障がい者フライングディスク協会
「障害者フライングディスク」とは
1968年アメリカ合衆国のケネディ財団より、スペシャルオリンピックスという法人が設立されました。国際的なスポーツ大会開催の際、アメリカで一般的に親しまれていたフライングディスク競技が、知的障害者スポーツにとって、もっともふさわしいとして正式競技に採用されました。現在も、「だれでも」(だれとでも)・「いつでも」(いつまでも)・「どこでも」・「安全」で、障害の有無を問わず、広い世代の多くの人たちに親しまれています。
競技で使用するディスクはプラスチック製で、直径23.5cmのものです。投げる際に手で勢いよく回すと、揚力(上に向く力)が生じるよう設計されています。
競技種目「ディスタンス」
ディスクが飛んだ距離を競う競技で、3 枚のディスクをできるだけ遠くに目掛けて投げます。3 枚の内一番遠くに飛んだディスクの距離を計測し、その距離 の長さを競います。
競技種目「アキュラシー」
5mまたは7m(どちらかを選択)離れたアキュラシーゴール(内径 91.5cm)に向かってディスクを10 回連続して投げて、通過した回数を競います。ゴールに触れて通過しても得点になります。
アキュラシーゴールの後ろで旗を上げている方は、聴覚に障害がある方で障害者フライングディスクの現役競技者であり、審判員の資格も持っていらっしゃいます。今回、ブースに来られた皆さんと身振り手振りを交えながら交流することで、お互いに笑顔があふれていました。
かながわ障がい者フライングディスク協会の皆さんは、ディスクを始めて投げる方にそのまま投げさせてくれました。そのうちにまっすぐ飛ばす方法や距離を出す方法など、それぞれの人に合った投げ方を教えていらっしゃいました。
【モルック体験ブース】
協力:大和チキンナゲッツ
「モルック」とは
フィンランドのカレリア地方の伝統的なゲームを元に1996年にフィンランドで開発され、老若男女が楽しめるものとして考えられたアウトドスポーツです。本場ヨーロッパでは世界大会も開催されています。
[モルックブース担当者(大和チキンナゲッツ)にインタビュー]
来場した大人も子どももモルックを楽しんでいてくれて、モルックに無限の可能性を感じています。モルック棒を投げて倒す、というシンプルなスポーツですがモルック棒が当たった瞬間はスカッとした快感があります。ワイワイとしたチームワークを楽しみながらも頭脳戦の要素もあるので、大人ははまりやすいかもしれませんね。
テレビなどでも紹介されているモルックに興味津々。繰り返し遊んでいる方もたくさんいらっしゃいました。
【競技用車いす体験ブース】
協力:障害者スポーツ文化センター横浜ラポール、横浜市障がい者スポーツ指導者協議会
「パラ陸上競技」とは
車いす、義足、視覚障がい、知的障がいなど、さまざまな障がいのある選手が出場するため、選手は障がいの種類や程度によって区分され、クラスごとに順位を競います。選手たちは「レーサー」と呼ばれる競技用車いすやカーボンファイバー製の義足、バランスを取るための義手など、障がいの特性に合わせた用具を使いこなします。
「競技用車いす(レーサー)」
車いす競技の中で一番軽く、早く走ることができるよう工夫されています。下り坂では時速50メートルを超えることもあります。
[競技用車いす体験ブース担当者(横浜市障がい者スポーツ指導者協議会)にインタビュー]
お子さんや家族が楽しんで乗車している姿を見て、私自身も楽しく参加できています。帰ってからも、レーサーについて家族で話してもらえるようなイベントになるといいと思っています。
レーサーに乗って動かす機会はなかなかないということで、人気のブースとなっていました。多くの皆さんは、真っすぐ漕ぐことができず苦戦していましたが、だんだんとスピードに乗って風を切って走っていました。
【タンデムバイク体験】
担当:横浜市スポーツ協会
「パラ自転車競技」とは
障がいによって競争力に差が出ないよう、同程度の競技能力を持った選手同士にクラスを分けて順位を競います。また、障がいによって使用する自転車も異なり、 走行距離も最短で500m、最長で100kmにもおよびます。
自転車には自転車専用の屋内走路で行われるトラック種目と屋外の道路を使って行われるロード種目があり、各選手は障害、程度により適合する競技クラスに分類され、競技を行います。
「タンデムバイク」
目の不自由な選手は、2人乗りの「タンデム自転車」を使います。
選手をサポートする「パイロット」が前、選手は後ろに乗ります。
最後の写真は、選手と同じような感覚を体験するために耳当て(聴覚障害)や目隠し(視覚障害)をして、タンデムバイクに乗っているところです。風を切る音だけが聞こえ明るさだけが眼に入り、パイロットとの信頼関係がなければ競技のスピードを出すことはできない、と感じました。
【体力測定体験ブース】
担当:横浜市スポーツ協会、横浜市スポーツ少年団
測定種目
「握力」:測定することで「筋力」がわかります。握力は難しい動きを必要とせず、短時間で安全に測定することができます。
「開眼片足立ち」:測定することで「バランス能力」がわかります。目を開けたまま両手を楽にして、立った状態で片足を5cmほどあげた姿勢を維持するだけのテストです。
合わせて、簡易式の「姿勢測定」を行いました。壁に向かった姿を写真に撮り、姿勢の不具合をチェックしました。
今回のマンスリートピックをご覧になった皆さんが、これからスポーツをするときに《集まった『みんなで楽しむための工夫』をしよう》と思ってもらえると嬉しいです。