12月「横浜銀行アイスアリーナ~知られざる「整氷の世界」~」
ウィンタースポーツが盛んに行われる季節がやってきました。
皆さん、フィギュアスケート大会のテレビ中継などで、大きな四角い車がぐるぐるリンクの中を回っているところを見たことがありませんか?あの車は「こおりをととのえるくるま」と書いて「整氷車」といいます。
横浜市内にあるスケートリンクの一つに、「横浜銀行アイスアリーナ(以下、アイスアリーナ)」があります。今回「整氷」について教えてもらうため、アイスアリーナに潜入させていただきました。そこで分かった整氷作業についてご紹介します。競技の途中でたびたび出てくるこの「整氷車」がどんな仕組みでどんな役目をしているのか、そもそも整氷とは何かなど、知られざる「整氷の世界」をみなさんにお伝えしたいと思います。
教えてくださったのは、アイスアリーナ職員の田口さんと田井さんです。
田口さんは、旧神奈川スケートリンク時代からこのアイスアリーナに携わるベテラン職員です。田井さんも、アイスホッケー選手時代から整氷作業を手伝っていらっしゃるそうです。
左が田口さん、右が田井さん
-アイスアリーナの氷はどうやってつくられているの?-
冷蔵庫の製氷機はためた水を一気に凍らせるので早く出来あがりますが、不純物(空気など)が混ざるため白く濁った氷になり、溶けやすい氷です。日光でつくられる「天然氷」は時間をかけて凍らせることで透明な氷が出来あがり、硬く溶けにくい氷となります。
アイスアリーナの氷は、水をためて凍らせるのではなく、氷面に層をつくるように何回も水をまいてだんだんとゆっくり結晶化させて、硬くて透明できれいな氷をつくっていきます。常設リンクなので、厚さは10cmにもなります。スケートリンクには、1000本以上の細いパイプが並べられていて、その中を-4~-9℃の液体(ブライン)が流れています。そのパイプの上に、水をまくことで氷がつくられます。透明感のあるきれいな10cmの厚さの氷を一からつくるには、1カ月ほどの時間をかけてゆっくり凍らせていくのが理想です。常に、氷の下のパイプにブライン液を流すことで「熱交換」を行い、出来あがった氷が溶けないように維持・管理しています。
-競技によって、氷に違いがあるの?-
アイスアリーナでは競技会が行われるときには、競技の特性に合わせ選手の皆さんが良いパフォーマンスができるように氷を準備します。
①アイスホッケーの場合
硬い(氷温が低い)氷が適しています。これは、氷が柔らかい状態だと、パックが氷にくっつきやすくなり滑らなくなってしまうので、硬めにします。
②フィギュアスケートの場合
滑らかに氷上を滑りやすくしながらもジャンプできる程度の硬さが求められるので、アイスホッケーより少し柔らかめにします。更に、表現競技なので氷の見た目の美しさも求められるので、ゆっくり凍らせることで透明感のある氷にしていきます。
③スピードスケートの場合
選手がスタート位置に立つと、氷に反射した姿が写っていることがありますよね。フィギュアスケートより更に柔らかく濡れているような状態にします。スケートシューズの刃との摩擦で氷を溶かしながら滑るのですが、その摩擦をより少なくしてスピードが出るようにするのです。
④カーリングの場合
少し抵抗があるデコボコした状態をつくります。ストーンが乗って、あるいはブラシで履いてデコボコが取れるくらいの氷の硬さや室内の温度管理が求められます。カーリングの見どころの一つ、投げたストーンの行く手をブラシで履いているのは、氷を削って滑らかにしているんですね。
また、それぞれの競技で、氷に大会のロゴやラインなどが書かれている場合がありますが、まず氷に直接スプレーなどで書いたりメッシュ生地を貼ったりします。その上に、削り取られることがない厚さ(2cm)を保った氷の層を重ねてつくっています。
-24時間営業中の「整氷作業」-
アイスアリーナは24時間、一般滑走、教室利用、アイスホッケーなどの貸切利用といったさまざまな利用があります。よりよい状態の氷(スケートリンク)でお使いいただくために、利用者の皆さんに協力していただきながら、アイスアリーナスタッフは日夜「整氷」を行います。一般滑走の時は2~3時間に1回、貸切利用の時は貸切時間ごとに行い、1日に10~12回整氷しています。
-なんで整氷するの?-
氷面がなめらかで平らな氷はよく滑りますが、ガタガタになると抵抗が強くなり、滑りが悪くなります。氷の上を滑るには、(理屈で言うと)スケート靴で氷を溶かすことで滑っていきます。フィギュアスケートでジャンプする時はつま先で蹴りますが、その時に氷に穴が開くほど削っています。アイスホッケーで急に止まる時などは、氷を削るようにしてストップします。
このように一部分だけ溶けたり削られたりしてガタガタになった氷面を、定期的にきれいにして滑りを良くする「整氷」が必要なのです。
整氷前の氷のようす
-整氷手順~人力でやっていた時と「整氷車」が行うことは一緒~-
現在は「整氷車」を使って行っていますが、整氷車が無い時代は、すべて手作業で、人手と時間がかかっていました。
①氷を削る
デコボコガタガタした氷を削りとります。
カミソリのような刃(ブレード)がついており、氷面を0.3~0.5mmほど削りとります。
②削った氷をかき集め取る
スクリューコンベアでかき集めて、倉庫まで持ち帰ります(氷をためておく部分は整氷車前部)。
③氷に水をかける…氷面を洗い、湿らす
氷より少し温度が高い水をかけて、氷面を洗い湿らせます。湿らすことで、その後方でまくお湯が滑らかに行き渡ります。
④氷にお湯をまく…削った分の氷をはりなおす
整氷車の一番後ろに散水シャワーがついており、40~60℃のお湯をまき均一に伸ばします。お湯をまくと氷が溶けるのでは?という疑問もありますが、厚さ10cmの氷が持っている熱量(冷たさ)からすると実は焼け石に水のようなもので、すぐに凍りつき、より滑らかになるのです。お湯をまく量や温度などは、その日の気温・室温・氷面温度などにより違ってくるので難しく、熟練の経験値が生かされてくるそうです。
黄色のスクリューを使って削った氷をかき集めます整氷車が通った後はピカピカ。この後、凍っていきます
-「整氷車」の運転のコツ-
「整氷車」の運転に運転免許は要りませんが、スケートリンクにあったコツが必要です。削り残しがないように、壁ギリギリを通りながら整氷していきます。更に、平らに削りきれいな氷をつくるために大切なことは、一定の速度でゆっくり回ることです。速く走らせると、まいたお湯が一定に広がらず波を打ったようになってしまい、平らな氷がつくれません。アイスアリーナでは、1周約1分、整氷車で8周(8分)かけて全面整氷しています。「整氷車」が通った後、約4~5分かけて凍らせることと、整氷車がリンクに入る前後には、利用者の安全管理を行ったりかき集められなかった氷を取り除いたりといった作業があるため、整氷時間は15分かけて行っています。整氷後の氷はピカピカ輝いて見えます。
1周目はもっと壁ギリギリを通過します
-整氷車メンテナンス-
アイスアリーナには、2台の整氷車が常駐しています。1台はメインリンク用の大型整氷車、もう1台はサブリンクで活躍する整氷車です。どちらも、スパイクタイヤをはいています。氷を削る大事な刃は1カ月に1度交換し、紙の裁断機などのメンテナンスをする専門の業者に研いでもらいます。
サブリンク用の整氷車
整氷後倉庫に戻ってすぐ、雪を融解させるための池に削り取った氷(雪)を下ろします。そして、整氷に必要な水とお湯を補充します。これは、整氷作業が必要になった時にいつでもすぐに出動するための大事な準備です。
皆さん、「整氷の世界」はいかがでしたか?マニアックな「整氷あるある」として使えるかもしれません。
最後に、横浜銀行アイスアリーナから皆さんへのメッセージです。
『横浜銀行アイスアリーナでは、現在、お客さまに安心してご利用いただけるよう定員制の時短営業を行っております。入替時に館内の消毒作業行いながら営業しておりますので、ご利用の前に、ホームページの「営業案内」をご確認のうえ、ご来場ください。皆さまのご来場を、お待ちしています』
2021年1月一般滑走営業のご案内(PDF)
取材協力:横浜銀行アイスアリーナ
〒221-0824 横浜市神奈川区広台太田町1−1
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