vol.64「ユメセン」
7月8日(木)、公益財団法人日本サッカー協会(JFA)が中心となって、公益財団法人日本体育協会、公益財団法人日本オリンピック委員会、一般社団法人日本トップリーグ連携機構の3団体と協力して主催している東日本大震災復興支援の事業、「スポーツ こころのプロジェクト」に参加してきました。
このプロジェクトは、主にサッカー選手の現役・OB選手が中心ですが、現役・OB選手などスポーツ選手、そしてスポーツにかかわる人たちのスポーツ界全体で、東日本大震災で被災した子どもたちの「こころの回復」を応援していこう、という取り組みです。
2011年3月11日の東日本大震災からだいぶ時間は経っていますが、横浜に住んでいる我々には計り知れない深い傷をこころに受けた子どもたちが多くいます。スポーツが少しでも彼らの力になれるのであればこれほど嬉しいことはありません。
このプロジェクトに賛同するアスリートは、超有名アスリートからあまり知られてはいませんがその道では著名なアスリートまで幅広く、かなりの人数の方が登録されています。スポーツの力の広さと大きさを改めて感じさせてくれます。
では実際に何をやるかというと、アスリートが「夢先生」と称して被災地の小学校を訪れます。対象は原則5年生です。
私はかなり前からこのプロジェクトに参加していたのですが、実際に「夢先生」として赴くのは初めてです。
今回私が訪れたのは、宮城県名取市愛島(めでしま)小学校です。このあたりは被害が比較的少なかった地域のようです。震災の面影はほどんどありません。
対象は6年生、プログラムは2部構成です。
第1部は簡単なゲームをして生徒と一緒に身体を動かします。
このゲームが実によく考えられていて、子どもたちが工夫をして考え、協力し合わないと達成できないようになっています。楽しいのはもちろんクラスの団結力が高まります。さらに私、「夢先生」との距離も一気に縮まります。
第2部は「夢先生」の授業(座学)になります。
「夢先生」が彼らと同じ小学5、6年生の頃にどんな夢を描いていたのか、そしてどのように夢を達成してきたのかを話していきます。
私は大した話はできないのですが、みな真剣に聞いてくれます。
今回「夢先生」を引き受けるにあたって、小学生のころを振り返ってみたのですが、小学生のころに「夢」あったかな、、、、「ん、ないじゃん」でした。「これはまずい」と思ったのですが、みなさんはいかがですか。
私は中学生の時も明確な「夢」はなかった気がします。高校生からですね。ならそれでもいいのかなと。もちろん小学生ですでに明確な「夢」を持っている人もいるでしょう。しかし、持っていない人も実は多いのではないか。好きなこと、やりたいことはあるけれど、それは「夢」なのかと思っている生徒も、それはそれで良いのでは。「夢」はいつか必ず見つかるものだし。
今はいろいろなことを経験して楽しんでやりたいことを見つけて、「夢」はそれからでも全然遅くないのではないか、と勝手に解釈して、一人ひとり夢を描くシートがあったにもかかわらず「今はユメなくてもいーよ」と無責任にいって帰ってきてしまいました。こころのプロジェクトのスタッフのみなさん、意図に反してすみませんでした。
でも、「夢」を書いてくれる生徒はたくさんいて、特徴的なのは人のためになる職業を書いてくれる子どもが多かったことが印象的でした。感じるものがありますね。
こうした、アスリートが小学校に赴くという取り組みはいくつかあって、私も何度か参加させていただきましたが、今回の「こころのプロジェクト」はその完成形といえる内容でした。子どもたちと「夢先生」をつなぐ役目をしてくださるスタッフの方がいらっしゃって、非常にやりやすいのです。アスリートは指導に慣れているわけではないので、スタッフのサポートは大きな支えとなります。この方式、いろいろなところで取り入れてほしいと思いました。スポーツに限らず、何かに秀でた本物に会って触れて、話を聞いてみる。小学生の時にこうした経験ができるということは、彼らの大きな財産になるはずです。こうした教室を求めている小学校は全国にあると思います。
すばらしい取り組みです。私も癒されますし。
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
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