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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.92「男女混合リレー」

 

 10月27日(金)から29日(日)まで新横浜の日産スタジアムで陸上競技の全国大会、ジュニアオリンピックと日本選手権リレーが開催されました。この大会は、中学生対象の学年別大会であるジュニアオリンピックとリレーの日本選手権を兼ねた大会なのですが、今年は国内で初めて男女混合リレーが開催された大会となりました。

 

 

 男女混合リレーは、1人400mずつ走る4×400mリレーで、男子2人、女子2人でチームを組みます。走る順番にルールはありません。この男女混合リレーは、世界リレー選手権ではすでに開催されていましたが、日本で開催されるのは公式では初めてだと思います。

 

 今年6月9日(金)、国際オリンピック委員会はスイス・ローザンヌの理事会で、この男女混合リレーを2020年東京オリンピックの正式種目に採用とすると発表しました。この発表を受け、今回の大会で東京オリンピックに向け「特別対策種目」として試験的に実施することになったのです。

 

 大会のエントリーは県単位で行われ、つまり県対抗戦でU18という制限も付きました。U18というと高校2年生世代以下です。10月初旬の国体の時に混合リレーを行う趣旨説明が行われ、その大会中にエントリーとなりました。急なエントリーにもかかわらず34チームのエントリーがありました。地元神奈川県は残念ながらエントリーしませんでした。神奈川県が組んだら強いです。でも、日本選手権リレーにも高校生チームがエントリーしていましたから難しかったのかもしれません。

 

 男女混合リレーが東京オリンピックから正式種目に決定したことから、次年度インドネシア・ジャカルタで開催されるアジア大会でも採用されることが見込まれるため、我々はその対策、戦略を練るためにもこの試験的な男女混合リレーを視察することは大変重要でした。

 

 大会の中日の10月28日(土)、雨の中男女混合リレーは開催されました。予選、決勝のスタイルではなく、4組のタイムレースで行われました。そして栄えある初代優勝は福岡県チームでした。記録は3分31秒70でした。女子の日本記録が3分28秒91ですからそれほど良い記録ではありません。

 

 

 福岡県チームは男子・女子・女子・男子の順でチームを組んでいました。2位山形県チームも同じでした。さらに4位福井県、6位兵庫県も同じ戦略でした。3位の北海道は女子・男子・女子・男子、5位埼玉県チームは、男子・男子・女子・女子でした。男子と女子の走力差はかなりあります。8秒から10秒は違います。60から70m差くらいなら楽に逆転されてしまいます。埼玉県チームは極端な前半逃げ切り型チームだったということです。

 

 大会後、我々はすぐに全レースの分析を行いました。各選手のラップタイム、200mの通過タイム、トップとの差の経緯など。各チームの選手がどのくらいのタイムを持っている選手なのかをすべて把握しているわけではないのでラップタイムをそのまま評価することはできませんが、この分析からいろいろなことが見えてきました。

 

 男女の走順もベスト10位のうち第1走者を女子にしているチームは北海道のみでした。北海道は、アンカーが高校チャンピオンの速い選手を配することができていることから遅れを取り戻すことができたことを考えると、第1走者に女子を持ってくることはあまりよくないことがわかります。女子を第1走者にしたチームは12チームありましたが、4組中1着になったチームは1チームもなく、4組中3組で最下位となっていました。その3組とも女子・男子・女子・男子の組み合わせが最下位でした。走力が不明なところがあるので一概には言えませんが、走順の参考になりました。

 

 また、走りのペースに関してもさまざまな要因が散見されて、大変興味深くレースを観ることができました。この男女混合リレーは、長い陸上競技の歴史の中でほとんど実施されていなかった種目であり、オリンピックや世界選手権などでは開催されたことがありません。

 

 国際オリンピック委員会は「男女平等」を掲げ、国際的にこの男女混合リレーを開催することに決めました。この動きは陸上競技にとどまらず、競泳、トライアスロンの混合リレーや柔道男女混合団体戦、卓球の混合スダブルスも2020年東京オリンピックでの開催が決まりました。まずは来年のアジア大会から、これらの種目が開催されそうです。卓球では今年6月ドイツで開催された世界選手権の混合ダブルスで金メダルを獲得していますから、また新たに日本が得意とする種目が増えるかもしれませんね。

 

 陸上競技の男女混合リレーは今のところ国内ではこの日本選手権リレーと11月初旬に行われた静岡県のエコパ陸上競技場で開催された大会でしか行われていません。少し話題になっていますが、開催にあたってはいろいろとハードルがあるようですが、国体などで県対抗を行ったら面白いかもしれませんね。

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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