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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.86「バハマ」

 4月18日から26日までバハマ・ナッソーに行ってきました。世界リレー選手権という大会に出場するためです。

 

 

 大会は、世界選手権のリレー版で、世界の強豪がナッソーに集結します。そして、今大会で決勝進出、つまり8位以内に入ると自動的に8月にイギリス・ロンドンで開催される世界選手権のリレーの出場権を獲得できます。
 世界選手権のリレーは、4×100mリレーと4×400mリレーの2種目がありますが、世界選手権に出場できる国は16か国のみで、この世界リレー選手権でまず、決勝に残った8か国が決まります。

 

 残りの8か国は、7月24日までの記録上位8か国に出場権が与えられます。
 日本は、4×100mリレーにおいて昨年リオ・オリンピックで銀メダルを獲得し、アジア記録を更新、昨年の世界ランキングは2位です。おそらく世界リレー選手権で入賞しなくても記録でそのまま出場権を獲得することができます。

 

 ということで、今回4×100mリレーの派遣は、トップ選手の派遣を見送ることにしました。日本の世界選手権代表選手選考に重要な、織田記念陸上が4月29日に控えていたということも理由の一つです。

 

 一方、4×400mリレーは、4×100mリレーのような良い記録を持っていません。現在、世界ランキング16位に位置しています。つまり、世界選手権出場ギリギリなわけです。したがって、この世界リレーに出場して8位に入賞することで、世界選手権の出場枠を獲得しようとナッソーに来たというわけです。

 

 この世界リレーは、各国重要視しているようで、多くの国が最強メンバーでチームを組んできました。そう簡単には入賞できません。日本は、ケガなどで完全なメンバーとはなりませんでしたが、現在の最強と思われるメンバーで臨みました。

 

 

 日本でもテレビで放映していましたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、結果は途中棄権でした。1走日本のエース、ウォルシュ・ジュリアン選手が120m過ぎに肉離れを起こし転倒、そのまま棄権しました。

 

 ウォルシュ選手は、大変調子がよく、かなり良いペースで走っていただけに残念な結果でした。また、3分05秒19まで決勝に行けたことを考えると、非常にもったいなかったと思います。しかし、“タラれば”はありませんので、あとは記録で世界選手権出場を狙わなければならなくなってしまいました。記録を狙うのに、ウォルシュ選手不在は考えられません。ウォルシュ選手の回復が望まれます。

 

 有効記録は、7月24日までです。昨年のリオ・オリンピックでも、日本は記録16番目で参加資格を得ることができました。今回もギリギリかもしれません。なんとか出場したいです。

 

 日本は、4×100mリレーも出場をしました。陸連の方針でU20の代表で編成しました。こちらも決勝進出は果たせませんでした。先に記したように、日本は記録を持っているので、この大会を代表クラスで組むことを避けましたが、ほかの国々は代表クラスで編成していました。「日本は、リオの代表を一人もバハマに連れてきていない」と、国際陸連の記事に書かれてしまったように、この大会の扱いについて、再考しなければならないと感じました。

 

 さて、世界リレーが終わり、日本グランプリシリーズが始まりました。陸上界注目は、なんといても「日本人初の100m9秒台」の話題です。3月に10秒04をマークした桐生祥秀選手、10秒06をマークした山縣亮太選手に、注目が集まりました。

 

 そして、4月29日広島・織田記念陸上でチャンスがやってきました。
 記録を狙いにきたのは、桐生選手。予選で10秒16をマークし、迎えた決勝。スタート後、ぐんぐん加速し、後半もその速度をキープ、そしてゴール。タイムは10秒04、風は向かい風0.3mでした。

 

 

 決勝の寸前まで追い風だったのに、この時だけ向かい風になってしまいました。向かい風の影響はどのくらいか、よく聞かれますが、なかなか明確に答えることはできません。風は一定ではないですし、体格や疾走法によっても影響が違います。ただ、さまざまな計算法があって、数式を作っている研究者もいます。

 

 日本陸連の算出法では、向かい風0.3mは0.027秒影響があるとされています。つまり、千分の1秒がわからないので正確ではありませんが、10秒04が無風なら10秒01から10秒02くらいだったという計算です。それが追い風に代わると、さらにタイムが縮まります。ということは、出ていたかもしれません。

 

 桐生選手の次のレースは、13日の中国・上海のレースです。このレースには、リオメンバーのケンブリッジ飛鳥選手、そして、今年好調のサニブラウン選手が出場します。そして、そのあと21日には、川崎でゴールデン・グランプリがあります。彼らの1大会1大会見逃せません。記録は、もう出ます。

 

 ただし、日本人選手はまだ、いつでも9秒台が出せるというわけにはいきません。9秒台には、条件がそろわねばなりません。条件の揃った広島の桐生選手は、大きなチャンスでした。

 

 以下、日本人が100mで9秒台を出すための条件を上げてみました。
 風:これが一番大事かもしれません。2.0mまで有効です
 トラック:より反発のあるトラックが好まれます
 選手の調子:もちろん良いほうがいいです
 相手選手:ライバルがいると硬くなるかも
 天候:空気は乾燥していたほうがいいです

 

 これらが完璧にそろえば、9秒台は必ずでます。いつも書いてしまいますが、彼らのすべてのレースに注目してください!!

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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