vol.85「宮崎合宿」
3月24日から30日まで、日本陸上競技連盟の男子短距離合宿を行い、コーチとして行ってまいりました。例年は沖縄県で実施していましたが、今年は、宮崎県での実施です。私の知る限りでは、男子短距離の合宿を宮崎県で行うのは初めてではないかと思います。大歓迎を受けました。ありがたいことです。
日本代表の冬の合宿は、例年温暖な地で行いますが、光栄なことに、様々なところから合宿の誘致を受けます。今回も、宮崎県から誘致を受けて、実際に合宿を行うことになりました。
宮崎県というと、以前は新婚旅行で人気の地でした。今は、プロ野球やJリーグのスポーツ合宿が盛んな、観光やスポーツに力を入れているところです。
我々も様々なところで合宿をしていますが、さすが受け入れに慣れてらっしゃるだけあって、良い合宿を消化することが出来ました。
ニュースにもなったと思いますが、合宿期間中の28日、我々は練習を公開しました。昨年、リオデジャネイロ五輪で銀メダルを取った影響か、平日にもかかわらず、3,500人もの観客にいらしていただきました。リレーメンバー全員が一緒に練習することは稀なので、良い練習を観ていただけたと思います。
ただ、あんなに反響があるとは、予想しておりませんでしたので、ただ練習を観ていただくだけではなく、何か練習の説明や解説などすればよかったと反省しています。いらしていただいた方、申し訳ありませんでした。お忙しい中、足を運んでいただきありがとうございました。
代表の合宿は、一先ず宮崎合宿で終了します。これからは、シーズンに入り大会が始まります。今年3月、オーストラリアの大会の100m走で桐生祥秀選手(東洋大学)が10秒04、山縣亮太選手(セイコー)が10秒06をマークしました。この時期にしては、大変良い記録です。昨年、私が「もうすぐにでも出る」と言っておきながら結局出なかった100m9秒台ですが、今年こそは出してくれると思います。
桐生選手、山縣選手とも、4月29日の織田記念陸上100mにエントリーしています。ケンブリッジ飛鳥選手(ナイキ)も出場予定です。その他にも、出雲陸上(4月22日)や水戸陸上(5月5日)、布勢陸上(6月4日)など、記録を狙える大会がいくつかあります。本当に「いつ、だれが、どこで出すか」という状態にあると思います。彼らの出場する大会すべてが、見逃せません。
さて、4月に入り暖かくなってきましたが、季節の変わり目は、体調の変動に留意しなければなりません。このコラムでも、「4・5月は、以外に熱中症が多い」という話をしました。今回も、水分補給について少しお話ししたいと思います。
かなり前に水分補給のことを書いた覚えがありますが、水分補給といっても実は様々な考え方があります。単に水を飲めばいいとか、ミネラルの含まれているスポーツドリンクがいいとか、考え方は様々です。
厚生労働省は、熱中症対策として飲料の塩分濃度は0.1~0.2%を推奨しています。これは、100ml中40~80mgのナトリウムが含まれているということです。糖度は、5%を超えると水分の吸収を低下させると言われていますので、3~5%が良いと言われています。
詳しく知りたい方は、厚生労働省の熱中症予防対策マニュアルを参照してください。
また、水分補給を考えた場合、浸透圧についても考慮しなければなりません。専門的な話になりますが、水分補給、つまり水分の身体への吸収は、浸透圧によって決まります。
水分は、腸で吸収されます。このとき、摂取した水分の浸透圧が、体液の浸透圧よりも高い場合、身体は、摂取した水分の濃度を低くするため、体液を分泌して薄めようとします。
つまり、水分を吸収するのではなく、分泌しようとするのです。
スポーツドリンクなどで糖質やナトリウムなどの電解質が多く含まれたドリンクは、体液よりも浸透圧が高いので、身体は摂取された濃い液体を薄めようとして、体液を送り出してしまいます。
ということは、水分を摂取ではなく、逆に出してしまっていることになります。その後、ちゃんと吸収されます。したがって、吸収に少し時間がかかってしまいます。
ハイポトニック飲料の原理
逆に、浸透圧が低い飲料は、水分を身体に吸収しやすいということになります。市販されている飲料でハイポトニック飲料と言われる飲料があります。聞いたことのある方もいらっしゃると思います。
これは、ナトリウムの含まれている量はそれほど変わりませんが、糖質を抑え、浸透圧を下げた飲料です。経口補水液として販売されている飲料も、浸透圧が低い飲料で、水分の吸収に優れています。
では、浸透圧の高い飲料は意味ないのか、というとそうではありません。浸透圧の高いスポーツドリンクは「ハイポトニック飲料」に対して、「アイソトニック飲料」と言われていますが、ハイポトニック飲料よりも糖質を多く含むため、運動前や運動中のエネルギー補給を含めた水分補給には、優れていると言えます。運動中の水分補給は、ハイポトニック飲料が良いでしょう。
難しい話になってしまいましたが、用途に合わせて水分の補給を考えていくのが良いと思います。冷たい飲料を大量にがぶ飲みするのではなく、その状況や必要性に応じて、こまめに水分補給をしていきましょう。
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
ブログ
※タイトル・本文に記載の人名・団体名は、掲載当時のものであり、閲覧時と異なる場合があります。