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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.81「靱帯損傷」

 

 

 11月某日、小雨の降る朝事件は起きました。

 

 忘れ物を取りに行き、急いで戻ってきたところ家の前の階段で「ずるっ」と滑ってしまい、階段から落ちてしまいました。

 無理な体勢から転ぶまいと3段ずり落ち、それでも転ばないようにと踏ん張った時でした。さらに足を滑らせてしまい、膝が内側に「ぐにゃっ」と曲がり「ブチッ」という音ともに激痛が走りました。
 「やってしまった、、、」と思い、立ち上がろうとすると左足をつくことができません。結局転んでしまうし、、、。

 

 内側側副靭帯損傷です。

 

 その日は出かけなければならず、満足にケアをせずに出かけると、まともに歩くことができません。無理して移動したところ膝が腫れだしました。

 翌日お医者さんに診ていただくとやはり内側側副靭帯の損傷でした。半月板はかろうじて大丈夫のようです。

 内側側副靭帯は、大腿骨と脛骨を膝の内側で結んでいる靭帯です。手術はしないことになりましたが、しばらく松葉杖の生活です。松葉杖の生活は初めての経験です。

 

 

苅部1

 

 

 松葉杖の毎日で、いろいろなことが経験できました。街に出ると不自由なことがたくさん見えてきます。

 

 階段の上り下りができないので、エスカレーターやエレベーターを使用するのですが、これらがないとこともあります。遠い時もあります。あったと思ってエスカレーターのところに行ったら逆方向だったりと、普段ではあまり気にしないことに気を遣います。

 

 遅く歩く私を、たくさんの人が追い越していきます。普段みんなこんなに速く歩いているんだ、と驚かされます。階段を歯を食いしばりながら下りていくと「遅いぞ」とばかりに、私をすごい勢いで抜いていきます。「怖い、、、、。」

 

 電車待ちで一番前に並んでいても、一番に電車に乗ることができません。「ああ、私はなんとジャマな存在なのだろう」と感じてしまいます。

 優先席に座ることができないでいると、優しい紳士が「どうぞ」と声をかけてくれます。でも全く見ないふりをする人もいます。

 

 松葉杖生活で見えてきたものは、まだまだ身体の不自由な人にとって十分な設備が整っていないということと、人の様々な対応でした。

 松葉杖をついた自分に対して、人はどのような対応をするのであろうかということを、私は毎日観察しました。良いこともありましたし、残念なこともありました。

 
 
 怪我をして10日ほどで松葉杖を使用することはやめましたが、貴重な経験をしたと思っています。そういう方を見かけたら私はどう対応してきただろうか、そしてこれからどう対応していこうかと、外に出るたびに考えていました。

 

松葉つえ

 

 

 2週間たちましたが、まだ足を引きずっています。かなりひどく損傷してしまったようです。そんな中、横浜市南区で陸上教室が開催されました。

 私は講師で行ったのですが、もちろん満足に動くことはできません。迷惑をかけてしまいました。来週も相模原の小学校に行くのですが、まだ動くのが不自由です。なんとか治さねば!

 

陸上教室

 

 

 街に出ると、車いすの方、松葉杖の方など身体に不自由を抱えている人を見かけます。

 私は松葉杖で外出した時に、それほど周りの人に気遣いをしてほしい、助けてほしいと思うことはありませんでした。逆に迷惑かけて申し訳ないという気持ちのほうが大きかったです。

 まず自分で解決しようとしました。身体に不自由がある多くの方は、自分で何とかしようと考えているのかもしれません。

しかし、その時その人に何が必要であるのかを察知して、思いやる心を持つことが大事であると思います。それは、身体の不自由な方だけに限らず、周りのすべて人を思いやる気持ちが必要なのだと思います。あ、当たり前のことですね。

 

 今回膝を怪我して、まだかなり痛むのですが、多くの勉強をさせていただいたと思います。

 ケガをしたことで、今まで見えなかったことも見えてきました。本当に貴重な経験をしました。

 ケガして良かった! 良くはないか。

 

 皆さんもケガには気を付けてください!!

 

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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