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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.127「日本室内陸上」

3月17日(水)から18日(木)に大阪城ホールで「第104回日本陸上競技選手権大会・室内競技 2021日本室内陸上競技大阪大会」が開催されました。
この大会は室内(インドア)の日本選手権で、本来は2月6日(土)から7日(日)に開催される予定でしたが、政府から発出された1都3県の緊急事態宣言の影響により延期されていました。もちろん無観客で、感染対策など講じられた中、開催されました。


大阪城ホール・室内のようす


大阪城ホール・外観

また、この大会は日本では数少ない室内の公認大会で、この大会の成績(順位と記録)は東京オリンピックの出場に必要なランキングのポイントとなりますので、重要な大会として位置づけられています。
無観客で寂しい大会だったのですが、日本選手権として開催された12種目(男子6種目、女子6種目)のうち11種目が大会新記録、1種目が大会タイ記録を樹立、そのうち、日本新記録が3種目(男子60mH、男子走幅跳、女子60mH)、日本ジュニア記録が1種目(女子60m)と、記録的には大変盛り上がった大会となりました。

男子60mHで7秒50の日本新記録をマークして優勝した泉谷駿介選手(順天堂大学)は、横浜市出身の選手です(横浜市立緑が丘中学校-武相高校)。
泉谷選手は、まだ東京オリンピックの参加標準記録を突破していませんが、この室内での記録は110mH東京オリンピック参加資格標準記録の13秒32を十分に狙える記録と思います。


60mH決勝。
5台目のハードルを1位でハードリングしている泉谷選手(左)、それを追って、石川選手、金井選手と続いています


決勝ゴールシーン。
泉谷選手(6レーン)が日本新記録で一着。二着石川選手、胸差で金井選手が三着

男子110mHは、泉谷選手のほかに、すでに東京オリンピック参加標準記録を突破している高山峻野選手(ゼンリン)や今回2位に入った石川周平選手(富士通)そして、今回3位、私の指導する金井大旺選手(ミズノ)など力のある選手が大勢います。まさに群雄割拠の様相です。4月29日開催の織田記念陸上(※1)や、6月24日(木)~27日(日)開催の日本選手権(※2)が楽しみです。

※1:サトウ食品日本グランプリシリーズ 広島大会 第55回織田幹雄記念国際陸上競技大会
※2:第105回日本陸上競技選手権大会兼 東京2020オリンピック競技大会 日本代表選手選考競技会第37回U20日本陸上競技選手権大会 兼 ナイロビ2021 U20世界陸上競技選手権大会 日本代表選手選考競技会

 

海外では多くの室内陸上競技場があるのですが、日本国内には周回できる室内陸上競技場は常設では1つもありません。周回コースのないものや屋外の陸上競技場に併設された直線のみの公認競技場は国内にもいくつかあります。

今回の大阪の室内陸上は、大阪城ホールにボードを敷いてその上に走路を作成した仮設の競技場です。
かつては大阪と同じくボードを敷いた周回トラックのある陸上競技場大会が、群馬・前橋と横浜で開催されていました。

群馬は、競輪場(グリーンドーム前橋)の内側に陸上競技場を設営したもので、1999年にはワールドアスレチックス(当時IAAF)の世界室内陸上競技選手権大会も開催されています。
横浜の室内陸上競技大会は、新横浜の横浜アリーナで開催されていました。室内の日中対抗陸上競技大会が1993年から2004年まで交流大会として毎年開催され、私も何度か出場させていただきました。

大阪のトラックは1周160mなのですが、横浜と群馬の室内陸上競技場は1周200mあります。室内陸上競技場は1周200mが世界の基本基準(屋外は400m)です。
したがって、現在、世界基準の室内陸上競技大会は日本では開催されていません。横浜アリーナには、室内競技用のトラックボードがまだ倉庫に眠っているらしいのですが、高額な設置費やトラックボードの老朽化により使用することは難しいそうです。

 

海外では日本と同じようにトラックボードを設営して室内競技会を開催しているところもありますが、周回トラック常設の室内陸上競技場も存在します。アメリカやヨーロッパでは大学で周回の室内陸上競技場を学内に設置しているところも多くあります。
しかし、日本では周回の室内陸上競技場を持っている大学はありません。いや日本に周回の室内陸上競技場がありません。東洋大学や中京大学、鹿屋体育大学など直線の室内陸上競技場を持っている大学は存在します。常設の周回トラックの陸上競技場は、場所の問題や建設費用、維持費の問題もあり、日本では普及しないのかもしれません。

 

近年、直線の室内陸上競技場は日本にも素晴らしい競技場がたくさんできてきました。近郊では豊洲に「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」が直線60mで、埼玉の熊谷の陸上競技場にはバックストレートに公認の直線100mのトラックがあります。群馬ではベルドームという棒高跳用の公認室内陸上競技場があります。

残念ながら、横浜には公認の室内陸上競技場はありませんが、日産スタジアムには短い室内トラックがありますし、コンクリートですがコンコースは屋根のあるところを走ることができます。
大和市の陸上競技場も良い感じの室内走路があります。
公認の競技会は無理だとしても、雨天時も走トレーニングしたい方にとっては、このような競技場を使用するのも良いと思います。

 

室内の陸上競技大会は観客から近いですから臨場感を感じられます。海外でもあるようなトラックの中でほかの球技ができるようにするとか、ウエイト場を作ってしまうとか、またトラックのバンクを電気で上がるようにする(ヨーロッパではこのようなものが存在します)とか工夫を凝らして是非とも室内陸上競技場を作ってほしいものです。

日産スタジアムの下にでも作ってくれませんかねぇ。あそこは災害時などに使用する多目的遊水地なので難しいかなぁ。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

ブログ

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