vol.125「長距離日本選手権2020」
10月16日(金)から18日(日)まで日産スタジアムで「第104回日本陸上競技選手権大会・リレー競技」が開催されました。この大会はリレーの日本一を決める大会です。
私の指導する法政大学は男子4×100mリレーで4年ぶりに優勝しました。
今年は、日本学生選手権でも優勝を狙っていたのですが、3走の選手が予選でけがをしてしまいました。決勝では急きょ変更した選手がバトンミスをしてしまい、失格という結果でした。けがは突発性のものとしても、3走の準備が十分にできていなかったことは私の責任です。ですから、日本選手権での優勝は本当に嬉しかったです。
6月25日(木)から長居で開催される予定であった日本選手権は、コロナ禍により延期になり、10月1日(木)から3日(土)に長距離以外の種目が新潟で開催され、12月4日(金)に長距離種目が大阪・長居で開催されました。なぜ、長距離種目だけ12月に開催されたのかというと、実はオリンピックの出場権獲得が関係しています。
コロナ禍の影響により、11月までの大会はオリンピックに参加するための標準記録も、ポイントとなる記録も認められないことが決まっています。そして、12月となるとオリンピックの参加のための記録として認定される期間となります。
短距離種目や跳躍種目、投てき種目は、12月は寒さで記録は望めませんので、長距離のみ12月に日本選手権を開催し、オリンピック標準記録を狙わせるという日本陸上競技連盟の戦術だったのです。そしてその戦術は思惑通り、見事に実現されました。
オリンピック選手に内定する条件は、オリンピック参加標準記録を突破して優勝すること、もしくは参加標準記録を期間内にすでに突破している選手が優勝するかです。参加標準記録は、以下となります。
・男子5000m 13分13秒50
・女子5000m 15分10秒00
・男子10000m 27分28秒00
・女子10000m 31分25秒00
・男子3000m障害 8分22秒00
・女子3000m障害 9分30秒00
期間内に参加標準記録を突破しているのは、女子5000mで田中希美選手(豊田自動織機TC)が15分00秒01、新谷仁美選手(積水化学)が15分07秒02、女子10000mで新谷選手が、31分12秒99、この2人です。それぞれの種目で優勝すればオリンピック日本代表内定となります。
さて、結果ですが、3人の内定者がでました。女子5000mで田中選手、女子10000mで新谷選手、そして男子10000mで27分18秒75の日本記録を樹立し、オリンピック参加標準記録を突破した相澤晃選手(旭化成)の3人です。新谷選手の優勝記録も30分20秒44の大幅な日本記録更新でした。他の種目もわずかに標準に届かない惜しい結果でした。
男子10000mでは、2着の伊藤達彦選手(Honda)もオリンピック参加標準記録を突破、3着も日本記録を上回り、18名が27分台を記録しました。
この長距離種目の記録ラッシュは、今年、大学生や高校生でもみられています。vol.118のコラムにも書きましたが、厚底シューズが影響しているのかもしれません。そしてこの厚底シューズが、予想通りワールドアスレチックス(かつての国際陸連:IAAF)による規制が入りました。
7月15日、ワールドアスレチックスはシューズのソールの厚さについてのルールを設定しました。
そのルールは、「トラック種目 25mmまで」「ロード種目 40mmまで」
で、市販されているもので、「だれもが購入できるシューズに限る」となりました。が、このコラムを書いている途中、12月7日(月)に、デベロップメントシューズの使用が認められることとなりました。このデベロップメントシューズとは開発用(開発中)のシューズのことで、テストとして販売前に使用が可能で12カ月以内の制限があります。メーカーからの反発もあったのでしょう。ワールドアスレチックスも日々進化する状況の中、対応に追われているようです。
それでも、シューズの機能性は高く、好記録が出るようです。今年はコロナ禍の影響から大きな大会はありませんでしたから、規模の大きな大会が開催されるようになったら世界新記録が達成されるかもしれません。
といっている間にハーフマラソンの世界記録が更新されました。12月6日(土)スペイン・バレンシアで開催されたハーフマラソンでケニアのキビウォット・カンディ選手が57分32秒という驚異的な記録でゴールしました。従来の世界記録は58分01秒で、29秒もの更新です。
このレースの2位から4位までが57分台をマークし、世界記録を上回りました。そしてなんと10キロ(10000m)の通過記録は27分25秒でした。ロードの記録ではありますが、先日樹立されたトラックの日本記録10000mが27分18秒です…。ハーフマラソンの日本記録は1時間00分00秒です。日本の記録の向上は目覚ましく喜ばしいことなのですが、これは世界も同じなのかもしれません。東京オリンピックは世界新記録ラッシュになる予感がします。
話は戻りますが、長距離種目で3人の選手が日本代表に内定し、残りの代表選手は来年6月の日本選手権で多くの選手が決まっていきます。東京オリンピックの開催が危ぶまれていましたが、こうして代表選手が内定すると、いよいよ開催が近づいてきたことを実感できますね。少し安心しました。
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
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