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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.118「箱根駅伝2020」

 2020年1月2日、3日に第96回東京箱根間往復大学駅伝競走が開催され、青山学院大学が10時間45分23秒の大会新記録で総合優勝しました。
 往路も青山学院大学が5時間21分16秒で優勝し、復路は5時間23分47秒で東海大学が優勝しました。総合優勝を含め、往路、復路ともに大会新記録です。ちなみにうちの大学(法政大学)は総合15位で残念ながらシード権を失い、来年は予選会からになります。

往路スタート

 箱根駅伝は2日間で10区間を走りますが、区間においても新記録が続出しました。
 往路では5区間中1区を除く4区間で、復路でも5区間中3区(6区、7区、10区)で区間新記録が達成されました。人数でいうと往路が2区1人、3区3人、4区1人、5区3人の8人、復路が、5区2人、6区1人、10区2人の5人で、2日間で13名が今までの区間記録を上回りました。

復路スタート

 風のない快晴で絶好のコンディションではありましたが、この人数はさすがに異常です。今年の箱根駅伝は超高速駅伝となりました。実は昨年暮れに京都で開催された全国高校駅伝や1月1日に群馬で開催されたニューイヤー駅伝でも同じような現象が見られました。

 長距離のレベルが飛躍的に向上し、喜ばしいことなのですが、その飛躍の要因にはシューズの影響があるのではと言われています。そのシューズとは、ナイキ社製のナイキズームXヴェイパーフライネクスト%というシューズです。

 東京マラソンの日本代表を決定する選考レースであったMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)でも、優勝した中村匠吾選手(富士通)をはじめ、服部勇馬選手(トヨタ自動車)、3位大迫傑選手(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)の上位3人もヴェイパーフライを履いていました。最近のロードレースでピンクや黄緑のシューズが目立っているのがヴェイパーフライです。厚底シューズともいわれていますが、陸上界ではVFと訳されることが多いですね。

 このシューズが注目され始めたのは2017年のことです。今までは薄いソールのシューズがロードレース用シューズの主流でしたが、厚底にするという今までの常識を覆すロードレース使用のシューズをナイキが開発しました。今までは、厚底にすると足が地面に接地した時に、ソールがつぶれ、ひねり現象が起こることで、アキレス腱やふくらはぎを痛める可能性がありました。そして何より厚底にすることでシューズが重くなってしまうことがネックでした。
 しかし、このシューズは厚底でもひねり現象が少なく、軽量化にも成功しています。その秘密はカーボン素材にあります。

 カーボンファイバープレートという軽量化かつ反発力の高い素材をソールに採用し、いわゆるばねのような効果をもたらし推進力を得られるようになっています。カーボンは競技用義足にも使用される素材で、その機能、効果は周知の通りです。

 私は履いたことがありませんが、履いた学生に聞いてみると、前に体重がかかり高い推進力を得ていると感じると話してくれました。

 シューズでそんなに変わってしまうのかと疑問に思ってしまいますが、最新のテクノロジーはすごく高い技術があるのでしょう。これだけ多くのトップアスリートに支持されているのですから。

 
 
 今、ナイキの一人勝ち状態で、ほかのメーカーはこのヴェイパーフライに対抗すべく新しいシューズの開発に取り組んでいることでしょう。しかし、これだけ効果があるとわかってしまうと思い浮かぶのは規制です。かつて競泳で2008年の北京オリンピックで世界新記録を続出させたスピード社のレーザー・レーサーという高速水着がありました。この水着は、素材、形状ともに2010年には禁止されてしまいました。ヴェイパーフライも第2のレーザー・レーサーになってしまう可能性も否定できません。

 乱暴な言い方ですが、競技能力よりもシューズの能力が先行してしまうのは競技の本質とは離れてしまうのかもしれません。ただ、メーカーもより良いものを消費者に提供するため、日々開発が続けられています。そして、競技者もより良い道具を求めるのは当前のことです。難しいところですね。今のところ規制が入るという話は聞いていません。

 ヴェイパーフライは、履きこなすのが難しいという話も聞きますが、今のところこれだけ多くの選手が履いているのでそれほど人を選ばないのではないかと個人的には思っています。試してみないとわからないですね。一度履いてみたいものです。皆さんはどう思われますか?

(2020年1月10日原稿執筆)

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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