vol.116「マラソン問題」
11月7日(木)日本陸上競技連盟の強化委員会会議があり、『ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア』に行ってきました。『ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア』は、東京都新宿区の『新国立競技場』の真横に建てられ、今年5月に開館しました。ここに日本の多くのスポーツ団体の協会が入っています。かつてこのようなスポーツ団体は原宿の岸記念体育館内に入っていました。
日本陸上競技連盟も元は岸記念体育館にありましたが、その後新宿に移り、今回、その新宿から『ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア』に引っ越してきました。近代的でとてもきれいな建物です。
『新国立競技場』も大分完成に近づいてきました。ここで走ることのできる選手がうらやましいですね。
強化委員会は、ドーハ世界選手権の報告と東京オリンピックへ向けた強化方針や予算が主な内容でしたが、会議が終わり会議室を出ると外には大勢の記者さんたちが集結していました。私はそのまま帰りましたが、おそらく今世間を騒がせているマラソン・競歩問題の強化委員会としてのコメントをとりに来られたのだと思います。
今回のマラソンと競歩開催地の変更は日本陸上競技連盟にとって、とても大変なことでした。日本陸上競技連盟の担当の友人も困惑し、忙しそうにしていました。
日本陸上競技連盟の強化委員会のマラソン担当の方は、最初に開催地変更の話を聞いたのは記者さんからだったようです。日本陸上競技連盟には何の相談もなかったのです。
今年9月末に開催されたドーハ世界選手権の女子マラソン、男子50キロ競歩は確かに過酷で途中棄権者が多く出てしまいました。それを受けて国際オリンピック委員会(IOC)は、猛暑が予想される東京を避ける札幌開催案を提案(半ば強制的に)したのです。少し経緯を見ていきましょう。
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9月27日 ドーハ世界選手権開幕
女子マラソン谷本観月選手(天満屋)7位入賞
完走40名、途中棄権28名
9月28日 男子50キロ競歩
鈴木雄介選手(富士通)金メダル獲得
完歩28名、途中棄権14名、失格4名
9月29日 女子20キロ競歩
岡田久美子選手(ビックカメラ)6位入賞、
藤井菜々子選手(エディオン)7位入賞
完歩39名、途中棄権3名、失格3名
10月4日 男子20キロ競歩
山西利和選手(愛知製鋼)金メダル獲得、
池田尚希選手(東洋大学)6位入賞
完歩40名、途中棄権7名、失格5名
10月5日 男子マラソン
完走55名、途中棄権18名
この結果をみると日本チームが東京オリンピックを見据え、暑さ対策に万全な準備をしていたことがわかると思います。
10月16日 国際オリンピック委員会から東京都に札幌開催案を打診
ドーハ世界選手権の結果を鑑みて東京での開催は危険であると判断し、
参加選手を守る「アスリートファースト」として札幌代替案の打診
10月26日 国際オリンピック委員会コーツ調整委員長が小池都知事と会談
10月30日 国際オリンピック委員会による調整委員会開催
11月1日 国際オリンピック委員会、組織委員会、日本政府、都の4者会談により
札幌開催決定
この間、日本陸上競技連盟は蚊帳の外です。現場の意見を無視された感じがしますね。しかし、これは本当に「アスリートファースト」なのでしょうか。
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日本陸上競技連盟は1日に会長のコメント、6日に強化委員会としてのコメントを発表しました。
これは、疎外された感のある日本陸上競技連盟として、何もアクション起こさないままに決定されてしまうことに耐えられないことと、次への気持ちの切り替えという意味での発表だったそうです。札幌開催については、決まったことはやるしかないというのが日本陸上競技連盟の現在の見解です。
しかし、もう少し意見が言える立場になれなかったのかという残念な気持ちもあります。新国立競技場建設の時もトラックをなくす云々のときに日本陸上競技連盟の発言力は弱かったように思います。
そしてまた、日程まで変更という案が出てきています。これはこれから審議に入るのだと思いますが、どれだけ選手が振り回されればよいのでしょうか。この混乱に影響されることなく(もう影響を受けてしまっていますが)選手には東京オリンピックに集中し、自らのパフォーマンスを十分に発揮してもらいたいですね。
国際オリンピック連盟は、歴史と権威あるオリンピックで事故があったら責任が取れない、などと考えて消極的になったように感じてしまいます。しかしこの問題、陸上競技だけでなく、トライアスロン(スイム1.5キロ、バイク40キロ、ラン10キロ)や自転車のロードレース(男子約244キロ、女子約147キロ)などは無視?なのは整合性がなく、納得がいきませんよね。
オリンピックは興行の意味合いが色濃くなってしまいましたね。私たちの現役の時もおかしな時間にレースが設定されており、不思議に思うことが良くありましたが、アメリカのテレビの時間に合わせてその時間にされていたそうです。
運営資金やコース、チケットなど問題は山積しています。まだまだ、世間をにぎわせてしまうことでしょう。どうか、選手だけには大きな負担にならないようにしてほしいものです。
これから夏季オリンピックの開催地はどうするのでしょうか。2024年パリ、2028年ロサンゼルスは、暑くないのですかね。パリは涼しいかもしれませんが、ロサンゼルスも夏は30度近いのではないでしょうか。
次は、マラソンはもう冬季オリンピックにしたほうが、なんていう案が出てきてしまうかもしれませんね。
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
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