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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.103「福井国体」

 10月5日(金)から9日(火)まで、福井県で「第73回国民体育大会~福井しあわせ元気国体~」が開催されました。この「国体」は国民体育大会の通称です。2023年「第78回佐賀大会」から「国民スポーツ大会」に名称変更されることが6月に決まりました。
 通称は何と「国スポ」だそうです。

 

 さて、横浜勢の福井国体での活躍ですが、残念ながら入賞はありませんでした。
 しかし、神奈川県としては優勝2種目、16種目に入賞し、天皇杯、皇后杯ともに6位という好成績でした。国体での神奈川県は安定して上位をキープしています。

 

 福井国体の会場は「9.98スタジアム」という名称の陸上競技場で、昨年日本学生陸上競技選手権大会で東洋大学の桐生祥秀選手(現日本生命)が日本人初の100 m 9秒台を達成した競技場です。その記録9秒98にちなんでこの名称となりました。

 

 この国体では、広島の山縣亮太選手(セイコー)に日本人2人目の9秒台の期待がかかりました。しかし結果は、大型台風の影響からくる5.2 m/sの向かい風を受け、10秒58という結果に終わりました。ただ、向かい風5.2 m/sで10秒58ですから、10秒そこそこはでていたのではないか思います。追い風であれば、もしかして出ていたかもしれません。次の日は追い風に代わっていましたから、もったいなかったですね。
 でも、山縣選手が9秒台を出すのは時間の問題だと思います。ケガだけには注意してほしいものです。

 

 この風速、どのように計測しているかというと、今は超音波風速計が用いられています。超音波風速計では、超音波のパルスの伝搬所要時間のズレによって算出されています。
 かつては、筒のなかにプロペラがあって、その回転数から風速を算出していました。横からの風や斜めからの風にうまく対応できず、怪しい風の時がありましたが、超音波風速計ではそういうことはありません。

 

 皆さんご存知と思いますが、100 m走・200 m走・110mハードル走・100 mハードル走・走り幅跳び・三段跳びは、風速が2.1m/sの追い風以上になると、参考記録になってしまいます。
 100m走の風速の計測は、スタート合図から10秒間計測します。その平均をレースの風速にしています。9秒台で走る選手の風速を10秒とる、というのは少しおかしいような気もしますね。
 200m走では、先頭走者が直線に入ってから10秒間の平均、走り幅跳び・三段跳びでは、助走を始めて定点から5秒間の平均です。助走距離が40m以下の場合は、助走を始めた時から5秒間です。
 ハードルは13秒間の平均をとります。周る系レースでは風速は計測しません。たまに風が周っているときがあり、良い記録が出ることがあります。逆だと最悪です。

 

 よく聞かれるのが「向かい風5m/sだったら無風だとどれくらいの記録ですか」です。
 今回の山縣選手でいうと「今回、風がなかったら9秒台がでていましたか」という質問が良く聞かれます。これに回答するのは簡単ではありません。風速は平均で計測していますし、選手の走り方や体形、体重でも影響が違ってきます。風速から100mの記録を予測する数式やネットの計算ページもありますが、あくまで参考だと思います。
 しかし、影響はあることは確実です。

 

 風が向かい風になってしまうと記録が期待できませんから、逆走と言って、競技場のバックストレートを使用して追い風の条件でレースをすることがあります。選手にとってはとてもありがたいことなのですが、いつもできるわけではありません。トラックが逆走をできるように作られているかということや、写真判定装置の移動や設置の問題などがあってできないことがあります。今回の福井の競技場も、残念ながらトラックが逆走をできない形状でした。
 逆走というと、ゴールからスタートにというように思われるかもしれませんが、陸上競技ではゴール側からスタート側に走ることは、ルールで一応違反とされています。かつては、札幌の円山陸上競技場ではゴールからスタートへの逆走も行ったことがあるのですが、基本このような逆走はやりません。実は、逆走するにはお金も余計にかかります。
 選手・コーチは、向かい風でやるよりは追い風でやってほしいのですが。

 

 10月12日(金)ニュースが入ってきました。13時30分、横浜市市長定例会見において林文子市長から2019年に日産スタジアムで“IAAF世界リレー2019”が開催されることが発表されました。
 世界リレーは、2017年までバハマ・ナッソーで開催されていた、リレーの世界一を決める大会です。この大会は、2020年の東京オリンピックの出場権をかけた大切な大会です。
 男子4×100mリレーの日本チームは、この大会には出場しなくても出場権を獲得できる可能性が高いですが、ほかのリレー種目のチームは、この大会がオリンピック出場のための重要な大会になりそうです。

 

 世界一のリレーチームを決める大会ですので、世界の強豪国が横浜の地でトップレベルの走りを魅せてくれます。世界記録が誕生する可能性も十分あります。
 まだ先のことではありますが、ぜひ競技場に足を運んでいただいて日本チームに声援を送ってください!今から楽しみです!!

 

公益財団法人日本陸上競技連盟公式サイト

 

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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