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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.102「アジア大会2018」

 8月18日(土)から9月2日(日)までインドネシア・ジャカルタで第18回アジア選手権が開催されました。陸上競技は、8月25日(土)から30日(木)の日程で行われ、私もインドネシアに行ってきました。
 インドネシアは親日的な印象で、日系企業もたくさん進出しています。

 

 

 日本は全体で、75個の金メダルを獲得しました。前回の仁川大会では47個で、前回の獲得数を大幅に上回りました。
 陸上競技は、前回の金メダル獲得数は3個でしたので、今回の目標は金メダル4個獲得としていました。結果、金メダル6個獲得で、目標はとりあえず達成できました。また、銀メダルは2個、銅メダルは10個獲得し、陸上競技としては2020年東京オリンピックに向けて、手ごたえを感じさせてくれるものとなりました。

 

 

 陸上競技で獲得した金メダル6個は、①男子マラソン、②男子200m、③男子4×100mリレー、④男子10種競技、⑤男子棒高跳、⑥男子50キロ競歩で、いずれも男子種目でした。
 女子は、マラソンで銀メダルを獲得しましたが、少し寂しい結果でした。女子強化が少し遅れているような印象を受けざるを得ません。

 

 今回の陸上競技では、まずまずの結果となりましたが、近年のアジアの陸上競技レベルは上がってきており、日本は簡単には勝てなくなってきています。
 前述したように、前回の仁川大会では金メダルは3個しか獲得できませんでした。
 中国やインドは以前から強かったのですが、韓国や台湾が力をつけてきたこと、ヨーロッパに属していた旧ソビエトから独立したウズベキスタンやカザフスタンといった、中央アジア諸国がアジアに参加してきたことなどがアジアの陸上競技のレベルを上げてきました。なかでも、中東アジアがアフリカの強い選手を自国に国籍変更させる強化を始めたことが、アジアのレベルを大きく向上させる要因となりました。

 

 2007年、男子100mで、アジア人初となる9秒台で走ったのはカタールのサミュエル・フランシス選手ですが、彼はアフリカのナイジェリア出身です。現アジア記録の9秒91を持つのもカタールのナイジェリア出身選手のフェミ・オグノデ選手です。オグノデ選手は、ナイジェリアU18選手権100m、200mに優勝していた選手でした。今回のアジア大会で日本の山縣亮太選手と同記録で2位に入ったトシン・オグノデ選手は彼の弟です。
 今回400mHで金メダルを獲得した、今シーズン世界ランキング1位のカタールのアブデラマン・サンバ選手は、アフリカのモーリタニア出身の選手です。彼は現在世界歴代2位の記録を持っており、ケビン・ヤング選手(アメリカ)の持つ46秒78の世界記録を破るのは彼であろうといわれています。サンバ選手は、2015年からカタールに移住しています。

 

 女子マラソンで金メダルを獲得したのは、バーレーンのローズ・チェリモ選手です。出身はケニアで、2015年に国籍を変更しています。
 男子マラソンでも井上大仁選手とメダル争いをしたバーレーンのエルハサン・エルアバシ選手はモロッコからの移籍選手です。ほかにもたくさんの帰化選手がいます。

 

 

 こうした帰化選手に歯止めをかけようとする動きもあります。
 国際陸上競技連盟で、国籍変更についての規定を見直しが検討されている今現在は、国籍変更は凍結されているはずです。
 ただ、助っ人的に帰化させることもありますが、結婚による国籍変更などもありますし、その規定は複雑になるかもしれません。

 

 一般的にアフリカの選手は運動能力が高いといわれています。
 アフリカの中でも、ケニアやエチオピア、ウガンダなど、東側の国は持久力に優れた選手が、ナイジェリアやセネガルなど西側の国や、南アフリカやボツアナなどの南の国は短距離に優れた選手が、数多く輩出されています。
 北側から中間であるモロッコやアルジェリアは中距離の選手が多いように感じます。
 サッカーでもチュニジアやセネガル、カメルーンといった中央アフリカは非常に強いですし、セネガルはバスケットボールも強豪ですよね。バスケットボールはアンゴラも強豪です。
 完全に運動能力が分かれているわけではないですが、アフリカ内でも得意な競技があるのかもしれませんね。

 

 

 アフリカの人はみな運動能力が高いのでしょうか。
 これは単なる先入観にすぎないともいわれています。もともと運動能力が高いのではなく、育った環境がそうさせるのだという研究者もいます。
 私は現役の時、黒人種(ネグロイド)の選手はみんな速いという先入観がありました。しかし、一緒に走ってみると普通に私の方が速かったりすることもありました。「足の遅い黒人種の選手もいるんだ、戦えるぞ」と感じたものです。
 当然ですが、足の遅いアフリカ人もいるんです。
 ただ、骨格や筋の質などで人種的な違いは報告されていますので、ネグロイドのほうがモンゴロイドよりも手足が長く、運動能力が高い人が多いというのはあるかもしれませんね。

 

 人類学の学説に人類の「アフリカ単一起源説」があります。人類はアフリカで誕生し、世界に広まっていったという説です。
 北に移動したものは寒さに耐えなければなりません。手足の長いものは熱を放出してしまうことから手足の長いものは淘汰され、手足の短いものが生き残っていきました。
 一方、アフリカに残ったものは熱を放出しなければならないために手足が長いものが生き残ったというのです。
 生物学ではアレンの法則(Joel A. Allen,1877)があります。近似種の恒温動物において、寒冷地で生息するものは手足、首、尾などの突起物が短くなるという法則です。例えば、同じサルでもニホンザルの尾は短いですよね。キツネやウサギの耳も、寒い地域のほうが小さいことが知られています。

 

 また、アフリカ人は狩猟民族で運動能力に優れており、日本人は農耕民族で運動能力に劣り、胴が長くなったなどという人もいます。これはマユツバものですが。

 

 これらはあくまで説ですが、ネグロイド種のトップアスリートの運動パフォーマンスはすばらしいですよね。アジアのレベルは間違いなく上がっています。
 私たちは「どうせ劣っているから」などという先入観や思考は捨てて、勝負していかなければなりません。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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