vol.57「肉離れ」
11月14日(金)、横浜市立坂本小学校で「走り方教室」をしてきました。これは横浜市と公益財団法人日本オリンピック委員会とのパートナー都市協定に基づく事業のひとつです。
小学校1・2年生、3・4年生、5年生、6年生に分けた4回の教室で、「早く走るにはどうしたらよいのか」をテーマに、基本的な動作から応用まで、走り方の「コツ」を伝授してきました。
ハマスポでも紹介していただきました。
https://www.hamaspo.com/sportsblog/2014/11/bmid_2014111611053000004.html
いつもながら小学生たちは活発で、いつも元気をもらっています。
さて、その「走り方教室」ですが、実は私、教室の1週間前に腓腹筋の「肉離れ」をしてしまい、うまく動けない状態でした。生徒さんたちにバレないように、必死で隠しながら無事?に教室を終了しました。うまくだませたつもり…。
しかし、やりたかったことができなかったこと、また、うまく見本を見せられなかったのではないかと思うと申し訳ない気持ちになります。本当はもう少し動けるのですよ。
ということで、今回は「肉離れ」についてお話ししましょう。「肉離れ」と改めてその言葉を見てみると「肉」が「離れる」。なんと恐ろしい言葉なのでしょう。
「肉離れ」は医学的に正式な名称ではありません。正式には「筋損傷」や「筋断裂」「筋挫傷」などと呼ばれています。ランニングでの「肉離れ」は、ハムストリングス、大腿四頭筋、腓腹筋が大半を占めます(下図)。私も今回腓腹筋を痛めました。
症状は、痛み(疼痛)、内出血(皮下出血)などが挙げられます。
私の場合、右脚の腓腹筋の内側を受傷しました。発生時はまともに歩けませんでした。脚を引きずる感じです。強い痛みがありましたが、内出血は認められませんでした。この歳で「肉離れ」とは恥ずかしい限りですが、この歳で動くからケガをするのですよね。
発生時の処置はRICE処置をします。
RICEとは、
R(Rest):安静 I(Ice):冷却 C(Compression):圧迫 E(Elevation):挙上
それぞれの頭文字を取ったもので、受傷したらこの処置を早急に行います。早ければ早いほど治りも早く、綺麗に治ります。
このRICE処置は「肉離れ」のみならず、傷害の応急処置の基本中の基本です。覚えてくださいね。
「肉離れ」をしてしまったら…
[1]まず、症状を確認します。受傷の程度を確認します。筋組織だけで済んでいるか、靭帯や腱はどうか、内出血の有無は、など。あまりにひどい状態(陥没しているなど)であれば救急車を呼ぶことも考えなければなりません。
[2]そして、動かさないことが重要です。でも気にして伸ばしてしまいがちですよね。私もついやってしまいます。これがRICE処置のR(Rest)安静です。
[3]次にI(Ice)冷却。アイシングです。アイシングをすることで血管を収縮させ出血を抑えます。痛みを軽減させる効果もあります。冷やす時間は20分程度です。90分ほど空けてアイシングを繰り返します。腫れが引くまではこれを続けます。
[4]C(Compression)。圧迫は、アイシングをしながら伸縮性のある包帯(バンテージなど)で強めに巻くようにします。腫れを抑える効果があります。アイシングの休みの時間も圧迫は続けます。ずっと圧迫しても良いのですが、あまり長くやりすぎるのもよくない場合があります。圧迫しながら寝てしまうこともありますが、その場合はあまり強くしすぎないことです。
[5]E(Elevation)。挙上はこれも出血を抑えるものです。患部を心臓より高く上げるとよいとされています。
私は受傷後すぐにこれらを繰り返しました。[5]の挙上はあまりやりませんでしたが、アイシングと圧迫は繰り返し行い、就寝するときは軽い圧迫をして寝ました。
適切な処置を即座に行うほど治りも早いことは先に書きましたが、「肉離れ」は身体の内部で筋が損傷しているのですから出血を伴います。血液にはカルシウムがあり、それが筋内に沈殿して「しこり(硬化)」となってしまうことがあります。「しこり」は治癒してもそのまま残り、いつも「そこが気になる」という状態になってしまいます。
あとは治るまで安静です。これが一番です。激しい動きは避けます。私は2週間くらいで治りました(強引に治したかな…)。
受傷したら即RICE処置。基本です。
かつてスポーツ選手だった人や、スポーツが得意だった人は「肉離れ」や「腱損傷」に注意が必要です。運動するための神経回路は若いうちに作られますが、その回路は歳をとっても身体に残っています。
つまり若い時の運動の感覚やイメージを身体が覚えているということです。
しかし、それを動かす筋力は低下しています。昔の感覚で身体を動かそうとして筋や腱に命令が行くのですが、実際には命令通りに動くことはできず、バチッとやってしまうのです。
私ももうダッシュなどはできませんから、「肉離れ」をしても小さな炎症ほどですぐに治ってしまうのですが、今回は結構ひどかったのか、かなり痛かったです。。。
ハマスポを読んでくださっているシニアの皆様。これは他人事ではありません。
昔の動きはできません。くれぐれも無理はしませんように。
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
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