vol.52「FIFAワールドカップブラジル大会」
2014 FIFAワールドカップブラジル大会は、決勝戦を残すのみとなりました。決勝は日本時間14日(月)の朝4時ですから、このコラムが掲載されるときには優勝国が決まっていますね。(※編集部注:ドイツ1-0アルゼンチン、ドイツが通算4回目の優勝)
「ゲルマン魂サッカー」のドイツか、リオネル・メッシ選手率いるアルゼンチンか、非常に楽しみです。それにしてもブラジルが7得点も取られるとは。ネイマール選手とチアゴ・シウバ選手の抜けた穴は大きかったですね。
私は小学生の時、サッカー少年でした。朝早くから小学校に行き、校庭で毎日練習していました。土曜日夕方からは必ず三菱ダイヤモンドサッカー(テレビ)を見ていました。「マラドーナは神」世代です。将軍ミシェル・プラティニ(フランス)、カール・ハインツ・ルンメニゲ(西ドイツ)のプレースタイルが好きでしたね。あ、わからないですよね。でも、プラティニは今、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)会長で、FIFA(国際サッカー連盟)副会長でもあり、かなり偉くなっています。
このあたりの話をすると長くなりますので、今回の話を少ししますが、皆さんご存知のとおり、日本は残念ながらグループリーグ敗退。正直もう少しやれるのではと期待していたのですが…。世界のレベルはやはり高い。FIFAランキング(日本は46位)なんてあてにならないと思っていたのですが、そうでもないのですね。でも、かつては参加することが目標だった日本が、今やワールドカップで勝負しようとしているのですから、私が海外サッカーに夢中になっていたときとは全く違います。横浜F・マリノスからはハマのメッシこと齋藤学選手が日本代表に選出されていましたが、こちらも残念ながら出場機会はありませんでした。2018年のロシア大会に期待しましょう。
ワールドカップを観ていると足の速い選手がたくさんいますね。運動能力の高さを感じます。ワールドカップには、世界の運動能力トップが集結しているのではないでしょうか。スペイン紙『ムンド・デポルティーボ』で4月に発表された、FIFAの調査による世界最速の選手10人によると、第1位はマンチェスター・ユナイテッド所属のアントニオ・バレンシア選手(エクアドル代表)で、時速35.1kmだそうです。秒速換算すると秒速9.7mですからそこまで速くはないですが、ボールを持っている時ですからね。ちなみにウサイン・ボルト選手の最高速度は時速44.17kmと報告されています。これは秒速12.27mに相当します。このランキングにはウェイン・ルーニー選手(イングランド代表)やアリエン・ロッベン選手(オランダ代表)、クリスティアーノ・ロナウド選手(ポルトガル代表)、リオネル・メッシ選手(アルゼンチン代表)、フランク・リベリー選手(フランス代表)などが上位にランキングされています。やはり良い選手はフィジカルも強いのですね。ボールをドリブルしながら時速35kmなら普通に走ったらかなり速いと思います。
私は以前、インテル・ミラノの長友佑都選手の練習に付き合ったことがあります。長友選手は足の速さには定評のある選手です。もちろん足も速かったのですが、それよりも驚いたのが走り方を教えるとすぐに実践できる対応能力でした。このとき、ゼロ(静止状態)からのスタートにロスがあったので少しだけ加速の方法を教えました。すると、すぐにうまくなりました。実際のサッカーでは静止状態からトップスピードに持っていくようなことはあまりしないと思うのでためになったかどうかはわかりませんが、少しでも彼の力になっていればいいですね。
長友選手は練習の最後に「じゃあ、せっかくだから100mでも走ってみますか」という軽い気持ちで、うち(法政大学)のオリンピック選手である金丸祐三(100m10秒32:400mの選手)、世界選手権代表の小林雄一(100m10秒41:当時)と3人で100mを走りました。手動で、追い風も吹いていましたが、10秒9台で走りました。もちろんスパイクは履いていません。正式な写真判定なら11秒そこそこでしょうか。ちゃんと練習してスパイクを履けば10秒台は出せると思います。ほんとに運動能力が高いですね。
サッカー選手の走り
サッカー選手の走りと我々陸上競技選手の走りはかなりの違いがあります。私はたまにサッカー選手やラグビー選手の走指導をしますが、彼らにはその違いを認識してもらいつつ指導をしています。まず、根本的に違うのは、短距離走は急に止まったり、フェイントをかけたり、方向転換したりしないということです。ですから、重心の位置は比較的高い位置に持っていきます。球技の選手の走りは重心を多少低くすることで横方向などへの対応やコンタクト(接触)にも対処できるようになります。走りに緩急をつけることも短距離はあまりしません。ピッチとストライドの割合も異なってきます。
陸上競技選手の走り
ただ、陸上競技のような走りは必要ないかというとそうでもありません。2つの走りを身に着けることでプレーに幅ができると思います。球技の選手で興味のある皆さん。走るのは苦手という方も多いと思いますが、スピードがあることは大きな武器となります。速く走るのには能力もありますが、コツもあります。ぜひ陸上競技の走トレーニングも取り入れてほしいですね。
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
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