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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.43「第68回国民体育大会」

第68回国民体育大会が東京で開催されました。陸上競技は10月4日(金)から8日(火)までの5日間、調布市にある味の素スタジアムで競技が行われました。

陸上競技の天皇杯(男女総合)は地元・東京都が146点を獲得して優勝。神奈川県は86.33点で第6位でした。

天皇杯得点(陸上競技)
1位 東京都 146点
2位 静岡県 141点
3位 京都府 125点
4位 埼玉県 120.5点
5位 北海道 87点
6位 神奈川県 86.33点

皇后杯(女子総合)も東京都が81点で優勝しました。神奈川県は33点で15位でした。

皇后杯得点(陸上競技)
1位 東京都 81点
2位 静岡県 72点
2位 京都府 72点
4位 埼玉県 64.5点
5位 群馬県 50.5点
6位 新潟県 50点


15位 神奈川県 33点

女子は少し苦戦しましたね。他の競技を含めた全体では天皇杯が第6位、皇后杯が第7位でした。

さて、今大会の神奈川県の優勝は2つ、少年男子A 110mハードルと少年男子B110mハードルです。学年でいうと少年男子Aは高校2年、3年生。少年Bは中学3年生、高校1年生です。大学生以上は成年になります。

少年男子A 110mハードルに優勝したのは高校記録をもつ、相洋高校2年の古谷拓夢君で、14秒03の大会新記録をマークしました。少年男子Bは川崎橘高校1年の金井直君です。記録は14秒17でした。少年男子AとBでは高さが違います。2人とも立派な記録です。
横浜市の選手では優勝こそいませんでしたが、少年共通男子円盤投で瀬谷西高校2年の松井俊樹君が第4位、少年女子共通800mで白鵬女子高校の加藤美菜さんが第7位、少年女子B走幅跳で希望が丘高校1年の伊藤由莉愛さんが第8位、少年男子共通棒高跳で横浜清風の岡本拓巳が同じく第8位に入賞しました。もっと上を目指していた選手もいたと思いますが、よく頑張りました。
成年にも横浜出身の選手が入賞を果たしました。

さて、今日はハードルの話を少ししましょう。110mハードルの話です。

110mハードルの世界記録は、昨年アリエス・メリット選手(アメリカ)が出した12秒80です。110mハードルは、100mよりも10mも長い110mを走り、なおかつ106.7cmの高さのハードルを10台越えていかなければなりません。それを12秒台で走ってしまうのです。速いですよね。
世界で110mハードルを12秒台で走った選手は今まででわずかに14名しかいません。ちなみに100mを9秒台で走る選手は世界で80名を越えています。

人類で初めて110mハードルを12秒台で走ったのはレナルド・ニアマイア選手(アメリカ)で、1981年のことです。記録は12秒93でした。現在の世界記録は12秒80、ニアマイア選手が世界記録を出してから30年あまり経っていますが、0秒13しか記録は更新されていません。
当時(1981年)の100mの世界記録は高地記録で9秒95(ジム・ハインズ:アメリカ)、平地ではカール・ルイス選手(アメリカ)の10秒00です。現在ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)の世界記録は9秒58で100mでは0秒37記録は更新されています。

2012年メリット選手の記録更新は12秒87(ダイロン・ロブレス:キューバ)からの更新で、それまではわずかにニアマイア選手の記録から0秒06しか更新できていませんでした。メリット選手が更新した0秒07は実は1台目のハードルまでの歩数を1歩減らしたことがその大きな要因でした。

ですから、110mハードルという種目は陸上競技の中で、最も記録が伸びない種目といっても過言ではありません。

110mハードルという種目は実に特殊な種目で、1台目までは8歩、そこから3歩でインターバルを刻み、ゴールまではだいたい6歩で走りますが、この歩数、日本の中学生でも変わりません。インターバルを4歩でなければいけない選手も中にはいますが、普通の選手であれば世界のトップとほとんど同じ歩数で走るのです。
ですから、記録を短縮するにはピッチ(脚の回転)やハードリング速度を上げるしかありません。インターバルは9m14cmで決められていますので速度を上げるには脚を回すしかありませんし、ハードリング技術もある程度完成形を迎えています。したがって、記録を短縮する要素が少ないのです。
そこで、メリット選手は1台目までの13m72cmを8歩から7歩に減らすことで世界記録を達成したのです。この7歩の技術はまだ完成形を迎えていません。記録はまだ少しずつ短縮すると思います。しかし、ある程度記録が更新されたらまた停滞するものと思われます。
110mハードルで大幅に記録を短縮するにはインターバルを2歩でいくとか、走高跳でフォスベリー選手(アメリカ)が背面跳びを発明したように画期的な新たなハードリング技術が生まれるとかしないと達成は困難だと思います。

世界の記録が伸びづらいこの種目、日本人選手が世界との差を縮めるにはチャンスと思われます。しかし、実は日本記録も足踏みしてしまっています。
国体で優勝した古谷君、金井君にはがんばってもらって、ぜひ世界との差を縮めてほしいですね。

そして東京開催の決まった2020年オリンピックを目指してほしいものです。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

ブログ

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