vol.37「トラックシーズン」
4月7日、国立競技場で第46回東京六大学対校陸上大会が開催されました。2013年、いよいよ陸上競技もトラックシーズンに入りました。
大会当日は悪天候が予想されましたが、なんとか雨はあがり、無事に開催されました。ただ、風が強く、円盤投げ、走り高跳び、棒高跳びが中止となってしまいました。円盤投げはネットが倒れてしまう危険性がありネットが出せず、走り高跳びはマットが跳んでしまうほどでした。棒高跳びはマットもそうですが、風の影響を大きく受ける競技の為、危険性を考慮し中止となりました。選手たちは残念でしたでしょうが、この強風ではどうしようもありません。
この東京六大学対校陸上大会、文字通り六大学で競われます。各種目1位から8位までに得点が与えられ、その合計得点により総合順位が決まります。今年の総合優勝はなんと法政大学でした。まったく予想していなかったので驚きました。近年、早稲田大学が5連覇をしていました。「今年も早稲田さんでしょう」という予測から、得点計算をまったくしておらず、最終種目の時に「気が付けば優勝」という驚きの結果でした。法政大学の優勝は40回大会以来です。
この大会は、オリンピック選手が2名出場しています。100m、山縣亮太選手(慶應義塾大学)とやり投げのディーン元気選手(早稲田大学)です。2人とも難なく優勝し、今シーズンの好調をアピールしました。特にディーン選手の記録は80m15で、なんと今年の世界ランキング10位(4月7日現在)です。素晴らしい投てきでした。
実はやり投げは向かい風の方が跳ぶのです。今回のようにあまりに強いと良くないですが、向かい風により揚力が生じて、やりが上に上がりやすくなるのです。ですから、やり投げは向かい風の方向に投げるように競技が行われます。もちろん投げる走路がない競技場では出来ませんが。
陸上競技では、走り幅跳びや三段跳び、高跳び、棒高跳びは追い風になるように設定します。砂場が両方にあるのはそのためです。
さて、100mですが、向かい風4.0mの中で行われました。優勝したのはもちろん山縣選手。記録は10秒47でした。
向かい風による記録の影響はいくつかの風速予測換算計算式が報告されていますが、おおよそ向かい風1.0mにつき0.1秒くらいでしょうか。となると無風で10秒07。体格や筋力、フォームなどで単純計算はできませんが、良い記録であることは確かです。
この100m、今年は注目の種目と思います。もしかしたら9秒台の声が聞けるかもしれません。
人類で100mを9秒台で走ったのは世界で80名余りいます。そのほとんどが、黒人種の選手たちです。白色人種はわずかに1名。フランスのクリストフ・ルメートル選手が記録しています。
日本記録は10秒00で、1998年伊東浩司選手がバンコク・アジア大会で記録しました。日本人はまだ100mを9秒台で走れていないのです。黄色人種としても9秒台選手は存在しません。
男子100mの世界記録・日本記録の変遷(PDF:132KB)
日本歴代男子100mは、以下となります。
[1]10.00 伊東浩司(富士通)
[2]10.02 朝原宣治(大阪ガス)
[3]10.03 末續慎吾(ミズノ)
[4]10.07 江里口匡史(早稲田大)
[5]10.07 山縣亮太(慶應義塾大学)
[6]10.09 塚原直貴(富士通)
このうち現役選手は末讀選手、江里口選手、山縣選手、塚原選手です。9秒台まであとわずかのところまで記録を伸ばしてきています。これに高校生選手が加わります。昨年は高校記録がマークされました。春に大瀬戸一馬選手(小倉南高校)が10秒23で18年ぶりに高校記録を更新すると、秋には高校2年生の桐生祥秀選手(洛南高)が10秒19に記録を更新しました。この記録はなんとユース世界新記録でした。大瀬戸選手はこの春から大学生です。法政大学です。
北京オリンピック400mリレーで銅メダルを獲得した末讀選手や塚原選手らベテランがいて、中堅、若手とバランスの良い勢力構成です。
勝負にこだわるオリンピックが昨年終わり、今年は記録を狙う年でもあります。また、グランドの走路もより反発のある素材が使用され、スパイクの質もかなり向上しています。
「いつ」、「だれが」だすかという状態にあると思います。
春は条件の良い大会がいくつかあります。今シーズンの記録の出そうな大会を紹介しておきましょう。
4月21日(日) 出雲陸上(浜山・島根)
4月29日(月) 織田記念陸上(広島広域公園・広島)
5月5日(日) ゴールデングランプリ東京(国立・東京)
5月12日(日) 関東インカレ(国立・東京)
6月8日(土) 日本選手権(味の素スタジアム・東洋)
6月30日(日) 布施スプリント(布施・鳥取)
ぜひ注目して下さい!!
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
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