vol.21「スポーツ基本法制定」
「スポーツは、世界共通の人類の文化である」
今年8月に施行された「スポーツ基本法」の前文の冒頭に書かれている文言です。「スポーツ基本法」は、スポーツに関する法律としては「スポーツ振興法」(1961年昭和36年)以来の法律制定で、50年ぶりの全面改正です。「スポーツ基本法」では、すべての人にスポーツを楽しむ権利を認め、スポーツ推進は国の責務であると明記しています。また、障がい者スポーツへの支援や地域スポーツの推進も国の責務として明記されました。
昨年(2010年)8月には文部科学省によって「スポーツ立国戦略」が策定されています。これらによって、トップ選手の国際的な競技力向上や地域のスポーツクラブの推進などが決まり、日本のスポーツ政策の基本的な方向性が定められることとなりました。
スポーツ界にとっては大きな一歩を踏み出したことになります。
さて、私はトップアスリートにも地域スポーツにもかかわっていますが、今回はトップアスリートに目を向けてみます。
今、日本のトップアスリートは来年に迫ったロンドンオリンピックに向けて日々トレーニングしています。トップアスリートに対して、これらの法改正で何が変わるのか、変わったのかというと正直まだ実感はありません。しかし、近年、国立スポーツ科学センターやナショナルトレーニングセンターができ、トップアスリートの練習環境はだいぶ整ってきました。国立スポーツ科学センターは今年で設立から10周年だそうです。ナショナルトレーニングセンターはまだ3年目くらいだったと思います。この2つの施設は隣接していて、東京都北区西が丘にあります。駅でいうとJR赤羽駅からバスで10分位のところです。
国立スポーツ科学センター
ナショナルトレーニングセンター
陸上競技の男子リレーにはマルチサポートというJOC(日本オリンピック委員会)の支援があり、予算が付いています。このマルチサポートは、選手の動作の分析やレースの解析からメディカルチェック、心理サポートまでオリンピックで活躍するために様々なサポート体制を組んでいただいています。このマルチサポートは全競技中17競技にしかついていません。陸上競技では私たち男子リレーと女子マラソンだったと思います。メダルが狙える競技種目ということです。ちなみにマルチサポートを受けている競技は、夏季競技14競技で陸上競技、水泳(競泳、シンクロ)、体操競技(体操、トランポリン)、レスリング、セーリング、自転車、フェンシング、柔道、カヌー、トライアスロン、卓球、射撃(ライフル射撃)。冬季競技は2競技、スケート(スピード、フィギュア)の 計17競技です。最近の活躍が目覚ましい競技ばかりですね。
選手たちはトレーニング拠点の確保、多角的な科学的サポート、メディカルサポートと、今はかなり良い環境でトレーニングができるようになりました。
12月3日から5日までこのナショナルトレーニングセンターで合宿をしてきました。この時もマルチサポートの科学班による分析から冬期練習の課題についてディスカッションしました。日本最先端の機器を使用し優秀なスタッフによる分析を受け、大変内容の濃い合宿となりました。こうしたサポートを受けられるということは大変ありがたいことです。
このナショナルトレーニングセンターを少し紹介しますと、ホームページをご覧になった方が詳しく載っているかとは思いますが、屋根つきの400mトラックや3本の角度の違う坂走路、80mの砂走路、充実したウエイトトレーニング場、プールなど練習環境は、日本の最先端の施設・用具が整っており、抜群に良い環境です。また、食事ももちろん栄養面など考えられたメニューが出てきますし、宿泊施設もホテルなみです。私たちはオリンピック前や世界大会の前は必ずここで調整合宿をします。
屋根付き陸上競技場
ナショナルトレーニングセンターは、陸上競技だけでなく多くの競技の選手が使用しています。ですから様々な競技の日本を代表する選手がここでトレーニングをしており、普通にすれ違ったり、隣にいたりします。他の競技の方との交流も良いものです。ナショナルトレーニングセンターの宿泊棟の中はテレビや雑誌などのメディアは入ることができません。ですから皆さんにはあまりなじみがないと思います。
「少し恵まれ過ぎでは」と思ってしまいますが、欧米諸国を始めアジア諸国でもナショナルトレーニングセンターを持っている国はたくさんあります。私たちが現役のころはオーストラリアのナショナルトレーニングセンターにまでトレーニングに行っていました。多くの国がすでに国家戦略としてスポーツを捉えています。日本は遅れているのです。地域スポーツクラブにしてもヨーロッパでは当たり前です。
とにかく、日本のスポーツ振興が本格的に動き出しました。ロンドンオリンピック、さらにその先に向けての強化体制は着実に良くなっていくことが予想されます。
ただ、選手やコーチの責任もこれに伴って大きくなるということは、しっかりと認識していかなければならないでしょう。
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
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