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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

vol.20「なげる」

 10月15日(土)、2012年正月2、3日に行われる第88回東京箱根間往復大学駅伝競走の予選会が立川市昭和の森記念公園で開催されました。結果はというと、今年の1月のコラムで「必ず箱根路に帰ってきます」と宣言しておきながら法政大学は落選してしまいました。公言不実行、申し訳ありません。本戦出場は9大学でしたが、総合10位で次点でした。実は2年連続で次点です。今年はその差わずか29秒。1人20キロ、1時間と少し走って10人の合計を集計しますが、その差が29秒です。29秒を埋めるための長い1年が16日から再び始まりました。長い戦いです。箱根駅伝には学連選抜というチームを編成しています。本戦出場の9校より下の大学から10名が選抜され箱根駅伝を走ります。この学連選抜で1名もしくは2名が法政大学のユニフォームを来て走ると思います。しかし、チームとしては走ることができません。残念です。が、再び言います「再来年は必ず箱根路を走ります」。
 ということで、箱根の話題を書きたかったのですが、変更して別の話題にしましょう。今年も新横浜の日産スタジアムでジュニアオリンピックが10月28日(金)から 30日(日)の期間で開催されました。今年で第42回となります。

 ジュニアオリンピックがどういう大会かは昨年のハマスポをご覧ください。
 この大会は文字通りジュニアの大会です。高校生や一般の種目とは違う種目がいくつか存在します。その代表がジャベリックスロー(Javelic Throw)です。みなさん聞いたことありますか?やり投げは聞いたことがあると思います。やり投げと似た感じなのですが、ターボジャブという簡易的なプラスチック製ヤリを投げます(写真:下はヤリです)。長さは約70cm、重さ約300gで先端はゴム製です。陸上競技のヤリよりも安全な作りとなっています。やり投げの元世界チャンピオンが考案したそうです。このターボジャブ、小学生中学生が投げるトレーニングを行うことにも有効とされています。2008年には、使いやすさと安全性から全国障害者スポーツ大会の正式種目にも取り入れられました。それまではやり投げが採用されていました。このターボジャブはやり投げと比較して肘関節の内反トルクが小さいため、障害の発生する可能性は低いと研究報告されています。

 さてこのジャベリックスロー、中学男子の最高記録は75m87で 北原郷大くん(つるぎ町立半田中)が2003年にジュニアオリンピックで記録しました。女子は、55m86で金原莉沙さん(袋井市立袋井南中)で 2007年に、こちらもジュニアオリンピックでマークしています。75mとは驚異的です。今年はというと、優勝は石川県上野台中の船本貴寿くんでした。75m26という大会記録にあとわずかの好記録でした。そして女子は、なんと岡山県吉備中の田中来夢さんが56m11の大会記録で優勝しました。女子でもかなりの距離を投げますね。
 女子の投げといえば、女性はあまり投げるのがうまくない印象があると思います。あまり良い言い方ではありませんが、いわゆる「女投げ」というやつです。下半身をあまり使えていないので「手投げ」とも言われます。


図1 

 図1は、男性と女性の遠投の動作の違いです(投げる科学:大修館書店より)。女性だから投げられないのか、骨格の違いからか、はたまた筋力か、と思われるかもしれませんが、実は違います。もちろん筋力差はありますが、女性でも男性と同じように投げられるのです。ジュニアオリンピックで田中さんが実証してくれていますよね。投動作の発達を見ますと、幼児期に男女差はほとんどありません。その後、男の子は遊びの中に投動作が多く入っていきます。一方女の子は物を投げる動作をあまりしなくなります。ここで差が生まれてしまうのです。私も父と道路や公園でよくやりましたが、男の子はお父さんとキャッチボールをするでしょう。この経験によって男の子の投動作はどんどんうまくなっていくのです。女の子はあまり物を投げたりしませんよね。ですから投動作の発達はここで頭打ち状態となってしまいます。幼児期から間の期間に投経験がないので、幼児の時の投動作となってしまう訳です。


図2

図2は幼児の動作(上)と女性の投動作(下)です(角田ら:投能力の発達1976)。もちろんトレーニングすれば投げられるようになりますが、以前話したように幼児期や児童期の運動経験は非常に大切で、その後の運動実践に大きく影響します。この時に投げる動作の基礎を身につけておかなければならないのです。ここで未熟な動作でしか投げられなかった、もしくは投げなかった子どもは成人になっても未熟な動作となってしまいます。これは男女問わず、です。女性だからうまく投げられないのではありません。男でも「女投げ」はいるのです。投動作の経験不足が「女投げ」を生んでしまうのです。もう「女投げ」などと言ってはいけませんね。
 私は大学で体育の授業を持っていますが、投げる動作がうまくない男子学生が結構います。しかし、サッカーはうまい。幼児期や児童期に投げるという動作をしなくなっているのかもしれません。そういえば子どもたちが公園で野球しているのをあまり見なくなった気もします。
 お父さん!今こそお子さんとキャッチボールですよ。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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