vol.4 「シューズ」
いよいよ本格的な夏となりましたが、みなさん体調はいかがでしょうか。季節の変わり目は、身体がその次の季節の気温にまだ設定されていないので、たとえば夏前でしたら、身体はより暑さを感じてしまいます。この時期は体調を崩される方が多いので気をつけてください。
さて、ジョギングブームと呼ばれてから数年が経ち、公園やロードでランニングする方を見かけるのはごく当たり前の光景になってきました。これから始めてみようかなという方も多いのではないでしょうか。みなとみらいコースなんて平坦で景色もよく、初心者にはお勧めです。
ランニングを始めるにあたって、1番初めにやらなければならないことはなんでしょう?そう、シューズ選びです。家に眠っている古いシューズを引っ張り出してきてもいいですが、シューズ選びは非常に重要です。また、最近のシューズは専門性が高く、多くのテクノロジーがつまった機能シューズが多数開発されています。
ということで、今日はシューズの話をしたいと思います。陸上競技の選手にとってシューズはとても大切なアイテムです。ウエアにこだわるという方もいるかとは思いますが、シューズにこだわりを持っている選手はかなり多いと思います。私もその一人です。
走っていて地面に足がついて、その時脚はどれくらいの衝撃を受けるでしょうか。わずか0.2〜0.3秒くらいの地面との接地時間で脚にかかる力は、一般に体重の3〜4倍という研究報告があります。走るスピードにもよると思いますが、体重60kgの人がランニングするとき、片脚に180〜240kgもの力がかかるということです。大変な衝撃ですよね。ちなみにウォーキングは1.2〜1.5倍といわれています。
その衝撃があるからこそ地面からの反力を受け、身体を前に進めてくれているのですが、その衝撃、つまり地面反力をいかに身体に受け入れるかによって身体への負担が変わってきます。ですから、身体とその衝撃の間にあるシューズの存在は非常に重要な役割を担っているわけです。
先にも書きましたが最近の科学的分析によって、ランニングやウォーキング、トレッキングなど用途に合わせたシューズが発売されるようになってきました。用途に合わせ、自分に合ったシューズを選ぶことは快適な運動を可能とし、怪我や故障の少ないスポーツライフを実現させてくれます。
ではまず、シューズの名称を少しだけ覚えておきましょう。下の図(図1)を参照してください。このくらいはすらっと言えるといいですね。
(図1)シューズの名称
次に本題です。ランニングシューズ選びのポイントを3つ紹介します。本当はもっと細かいですが、絞って要点だけ。
Point 1 ソールの硬さをみる
軟らかすぎは×です。軟らかいと脚への衝撃が減って、と考えられると思いますが、それは間違いです!! 特に、指で押してみて「グシャ」っとつぶれ反発のない、さらに言えば左右につぶれやすいものは絶対にやめましょう。ただ単に「軟らかいソール」はよくありません。ランニングでの障害で一番多い障害はオーバーユース(使い過ぎ)による障害です。この原因の一つにシューズによるプロネイションというものがあります。プロネイションとは、「内側へのひねり」のことで、脚が地面についた時、足首は内側にひねられます。そのひねりが障害の原因になるのです。軟らかいソールはこのひねりが大きく、ひねられたままの状態が戻らず、このソールがつぶれた状態で地面からの反力を受けてしまいます。大きくひねられた状態で体重の3〜4倍の反力を受けてしまうことになります。
では硬い方がというと上級者以外は硬すぎも良くないと思います。実は私は一番硬いものにしていました。履いてみて沈み込んで反発がかえってこないようなソールは避けましょう。
Point 2 かかと(ヒール)のホールド
かかとにヒールカップがあるなしにかかわらず、かかとの部分がしっかりと包まれているようなホールド感のあるものを選びましょう。ここがズレるとすべてがズレます。外くるぶしに強く当たらないで(長く走ると痛い)、しっかり“はまる”ものがいいです。特に内側のかかとと土ふまずの境目くらいがしっかりしているものが良いと思います。
Point 3 つま先には少し余裕を残す
足を入れてサイズぴったりというシューズはランニングにはよくありません。最低でも0.5cmくらい大きめのものを選びましょう。
1cm弱大きくても問題ないと思います。ただし、Point 2が前提条件です。かかとがしっかりしていれば前に多少余裕があってもズレません。
両足のサイズが異なる人は結構います。シューズの左右を違うサイズで購入することは難しいので、必ず大きいほうの足で足合わせしましょう。
足を入れてみて、指で押してみる。そして指を中で動かして余裕を確認。という流れです。
以上の3Pointが最大重要ポイントです。あとは甲の高さや幅、アウトソールのグリップ性、デザインなども選ぶポイントになりますね。上級者になると選び方は多少変わってきますが、今回は割愛します。
先に書いたように、私はソールは薄く硬くにして地面からの反発をよりダイレクトに感じられるものにしていました。また、インソールというソールを足とシューズの間にかませていました。実はインソールも重要です。現在、インソールを重要視して開発されている汎用シューズはほとんどありません。足と直(じか)に接しているのはシューズの中です。ヒトの足の裏の形状は真っ平(たいら)ではありません。インソールは今後、個人の足の形状に合わせて変化できるようなものが開発されるかもしれません。
横道にそれましたが、まとめますと、お店で気になるシューズがあったら、
① まず持ってソールの硬さ反発、ひねられ具合を指、目で確認。かかともさりげなく
チェック。
② 足を入れてつま先を指で押し、中の指も動かす。
③ 歩いてみてかかとのホールド感をみる。
以上。
玄人っぽいですね。
自分に合ったシューズを選択することは、疲労も少なく、怪我もしにくくなります。そして何より快適に走れることが大切です。まずは「形から入る」。これも重要ですよね。
では皆さん、健康的で心地よいジョギングライフを楽しんでくださいね。
1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。
元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。
現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。
2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。
また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。
1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。
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