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元オリンピック陸上選手苅部俊二のダッシュ

Vol.1 「はじめまして苅部です。」

 皆さん、はじめまして、苅部俊二といいます。出身は横浜市南区です。この度このハマスポ.comのオフィシャルライターとしてコラムを担当することになりました。

 私は小学生のころはサッカー少年で、日産時代からのマリノスファンです。憧れの木村和司マリノス監督の後を務めるということで大変恐縮しています。木村監督はみなさんご存じだとは思いますが、フリーキックの名手で、コーナーキックから直接ゴールを決めたシーンは今でも鮮明に覚えています。伝説の10番、かっこよかったです。
 中学に入るとサッカーを諦め、陸上競技部に入部しました。そこから2001年まで20年間、陸上競技を続けてきました。現役生活の後は指導者として若手の育成をしています。また、男子短距離の日本代表コーチにも就いています。これらの経験からハマスポ.comを訪れてくれた皆様に様々な陸上界のニュースや地元横浜のスポーツ情報などを発信できたらと思います。どうそよろしくお願いします。

 さて、走るというと「私は走るのは苦手で」という方は多いと思います。脚の速い人というのは実は遺伝性が高いと言われています。長距離走は、それほどではありませんが、短距離走では遺伝性が高いようです。これは筋の組成が影響しています。
 筋肉は大まかに分けると、速く動かす速筋線維、ゆっくり長く動かす遅筋線維があります。中間的な筋もありますが、この筋線維の割合の遺伝性が高いのです。身長も遺伝の影響を受けやすいと言われています。最近は25%ほどではと言われていますが、いずれにしても親の影響を強く受けることになります。ですから、両親が速筋の多いタイプなら子どもも速筋タイプになりやすいのです。力を多く使う競技やスピードを必要とする競技では速筋線維が多いほうが有利ですから、短距離や重量挙げなどの種目は、両親が速筋タイプだと子どもも同じような筋組成(筋の割合)になりますから、重たいものを持ち上げたり速く走ったりするのが得意になりやすいということです。
 一方、持久力のある遅筋線維タイプはどうかというと、こちらは、筋組成はもちろん遺伝性が高いのですが、運動能力で言うとそれほど親の遺伝的影響を受けません。長距離選手などの持久力は呼吸なども強く影響しています。呼吸循環系は後からでも強化することができます。ということはトレーニングで十分強くなるのです。
 この話をすると「じゃあ、私はもう脚は速くならないのか」という夢のない話になってしまいます。しかし、そうではありません。遺伝性が高いのはあくまで筋組成です。運動能力ではありません。筋を使うのは脳などの神経系がつかさどっています。筋や身長は速く走ったり、運動したりするのに有利ではありますが、それを使えなければ意味がありません。筋肉だけでは脚は速くならないのです。


図1スキャモンの発育曲線

 スキャモンという人が1928年に発育曲線を発表しました(図1)。80年以上も前の研究ですが、この曲線は今でも子どもの発育の教育や研究の基礎となっています。ヒトは生まれて、まず神経系から急速に発達します。骨や筋はあとから成長していきます(一般型)。神経系は5歳くらいまでに成人の80%、12歳くらいではほぼ成人と同じくらいの成長を遂げます。この時、神経は過剰に作られます。そして、使う神経を残し、使わない神経は捨てていきます。さらに、使う神経は回路を形成して強化していきます。
 ですからこのころの運動経験は非常に大切です。少し乱暴な言い方ですが、「これはいる、これはいらない」な感じです。サッカーでは9歳から12歳をゴールデンエイジとして運動能力の基礎を作る重要な時期としてとらえています。さらにその前をプレゴールデンエイジと呼んで発育にあった運動をさせるように指導しています。
 このころに覚えた動きは一生忘れないと言われています。今、一輪車乗れる小学生は多いですよね。おそらくしばらく乗っていなくてもまたすぐに乗れることでしょう。大人になってから習得するのは難しいでしょう。大人になってからは、残った神経を駆使して運動を習得していくわけです。ですから、今からでも運動の習得はできます。しかし、時間がかかってしまう訳です。

 親が運動音痴だと子どもも運動音痴というのは迷信です。運動音痴の親は、自分が運動しないので子どもにも積極的に運動させないでしょう。すると子どもがせっかく神経を使い残しておこうという時期に運動しないがために運動経験が少なく、結果、運動音痴になってしまうのです。子どもの神経が発達する時に適切な運動をさせることが大事なのです。

 一流スポーツ選手やプロ野球選手に次男が多いなんで話を聞くことがあります。これは、自分より少し運動能力の高いお兄さんと遊ぶことが影響していると言われています。実は私も次男。
 世界陸上で2度のメダルを獲得した400mHの為末大選手は「子どもの頃、人の家の屋根から屋根へ跳び移って遊んでいました」なんて言っていました。本当かどうかはわかりませんが、小学生の時期の運動経験は非常に大事です。ぜひいろんな動きにチャレンジして脳に動きをインプットさせてくださいね。

苅部俊二 プロフィール

1969年5月8日生まれ、横浜市南区出身。

元オリンピック陸上競技選手。横浜市立南高等学校から法政大学経済学部、富士通、筑波大学大学院で競技生活を送る。

現在は法政大学スポーツ健康学部教授 コーチ学(スポーツ心理学) 同大学陸上競技部監督 法政アスリート倶楽部代表 日本陸上競技連盟強化委員会ディレクター兼オリンピック強化コーチ(ハードル)。

2007年から日本陸上競技連盟強化委員会の男子短距離部長を務め、世界選手権(2007大阪、2009ベルリン、2011大邱、2015北京、2019ドーハ)、オリンピック(2008北京、2012ロンドン)に帯同。

また、2014年には日本陸上競技連盟の男子短距離部長へ復帰し2016リオデジャネイロオリンピックに帯同し、日本短距離男子チームの責任者として同行した。

1990年代を代表する陸上競技者として活躍。1996年のアトランタと2000年のシドニーオリンピックに出場、世界室内陸上競技選手権大会400mで銅メダルを獲得するなどの活躍を見せた。元400mハードル日本記録保持者。

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