vol.69「氷闘!かながわ・よこはま」
今年は国体のアイスホッケー競技が横浜市開催だと聞いて、心待ちにしていた。「氷闘!かながわ・よこはま冬国体」(会期2018年1月28日~2月1日)である。今年はいちばんメインとなる秋開催の大会は福井県(「福井しあわせ元気国体」)で予定されている。それに先駆け冬季競技の大会が様々な県にて行われる。同じスケートでもアイスホッケーは神奈川県、フィギュアスケートは山梨県だ。スキーは新潟県の妙高だ。
神奈川で国体アイスホッケー競技会が開催されるのは昭和39年の第19回大会以来、54年ぶり2回目ということだ。ちなみに今大会は第73回。アイスアリーナ等、インフラが整ってるわりに半世紀ぶりなんだなぁ。特に新横浜スケートセンターは、日本リーグ、アジアリーグの会場としてホッケーファンになじみがある。
会場はその「KOSE新横浜スケートセンター」と、東神奈川の「横浜銀行アイスアリーナ」の2カ所。開会式及び全国会議は新横浜プリンスホテルが当てられたからちょっとした国際大会級だ。競技は男子のみ、実質高校生チームの「少年の部」と大学生、社会人の「成年の部」に分かれる。
最初に見に行ったのは1月29日の成年男子2回戦の好カード、「北海道×栃木県」だった。僕はアジアリーグの日光アイスバックス関係者(数年前までは取締役、現在はディレクター)であり、チームOBが何人も出場している栃木県を応援してしまう。アイスバックスは小なりといえど、国内唯一のプロチーム(他は基本的に実業団)なのだが、面白いことに引退後、選手(北海道出身が多い)が栃木に居着いてしまう。日光市役所や宇都宮市役所、日光消防署、日光市議まで出た。そういうのが県のユニホームを着て国体に出てくるのだ。まぁ、みんな身体が動かなくなってて、強豪・北海道にはボロ負け(1対6)だったが。
その日の午後はシャトルバスで横浜銀行アイスアリーナに移動して、今度は少年の部1回戦、「神奈川県×長野県」「福岡県×岡山県」を見た。神奈川県は武相高校と慶応義塾高校の混成チームだった。武相はアイスバックスのGK・小野航平の出身校だ。このアリーナは東横線でいえば反町下車で、武相は妙蓮寺か白楽だからとんでもなく近い。コウヘイはここでやってたんだな。試合は神奈川の圧勝だった。何となく(オリンピックも開催してるし)長野は強いと思ってたから驚いた。現在、神奈川県には(コクドアイスホッケー部の休部以降)アジアリーグのトップチームがないけれど、関係者の努力で育成年代が力をつけている。
が、少年の部は北海道が他を寄せつけない強さを誇っている。それもそのはずで、駒大苫小牧、苫小牧工業、白樺学園、武修館等々の北海道高校選抜オールスターチームなのだ。昨年大会、この北海道と接戦を演じたのは栃木県だった。興味深いのは日光明峰高校の単独チームであることだ。埼玉県が埼玉栄の単独チームで構成されているのも同じ作戦だ。北海道のオールスター軍を打破するために、チームワークにすぐれた単独チームを当てようという発想だろう。
1月31日、大会準決勝は少年の部、「栃木県×青森県」(横浜銀行アイスアリーナ)を見に行った。ここまで来ると実力伯仲である。どっちが勝ってもおかしくない。栃木県の監督は元日光アイスバックスの中西翔一教諭だ。もう監督も日光明峰高校、選手も日光明峰高校である。まぁ、「旧・日光高校」(通称「ニチコー」)と言ったほうが僕なんかは話が早い。古河電工&アイスバックスの歴代主力選手を輩出してきた高校だ。そのせいか、アイスバックスのファンがスタンド席にちらほら混じっている。青森県チームは八戸工業第一高校と八戸商業の混成だ。日光vs八戸。これは高校生版の「日光アイスバックス×東北フリーブレイズ」戦と見立てることもできる。
栃木は再三、危ないシーンを迎えるがGK・椎名拳志の頑張りで何とかしのぐ。栃木は長年、日光アイスバックスが磨いてきた堅守速攻だ。耐えて守って、ワンチャンスに懸けるガマンのホッケー。僕は技術的には青森に分があったと思う。が、栃木のほうが粘り強かった。ジワジワ得点を重ね、最後は勝ち切ってしまった。これで少年の部・決勝は2年連続「北海道×栃木県」である。
翌2月1日、決勝の舞台はKOSE新横浜スケートセンターだった。フェースオフの時刻がすごい。朝の8時半だ。僕は時間が自由に使えるフリーランスだからいいけど、平日の朝8時台って誰も来れないんじゃないかなと思ったら、会場は盛況だった。何人も顔見知りのアイスバックスファンに会う。「1ピリだけ見て会社行きます」という剛の者がいて爆笑であった。日光明峰高校はバスを仕立てて、同級生が応援に駆けつけた。ご父兄もいらっしゃってる。やっぱり関東開催だから栃木県のほうがにぎやかだ。といって、しっかり北海道の応援席も埋まっている。
ガイドブックの選手名簿を見て愉快になった。栃木県の監督がアイスバックスOBの中西翔一なのは既に書いたが、北海道の監督も元アイスバックス(正確にはコクドSEIBU→王子→日光)の外崎慶だった。いつの間にかアイスホッケー界に知り合いが増えたなぁとしみじみしていたら、声をかけてきた男がいてこれも元アイスバックス(正確にはコクドSEIBU→日光)の現・東洋大監督、鈴木貴人だった。僕は国体の決勝を元日本代表主将というか前日本代表監督というか、平昌オリンピックのNHK解説者と並んで見ることになった。
聞いたら決勝戦の両チームにこの春、東洋大入りする選手がいるそうだ。なるほどね、それは監督さんは見ておきたいね。「国体はいつも見に来るの?」と聞いたら、鈴木貴人は「いや、久しぶりに来ました。いいですね、国体。全国からチームが集まって、日本リーグの復活につなげたい熱気があります」と嬉しそうだ。「現役時代、国体って出た?」と尋ねると、大学時代、東京都代表で出場したそうだ。鈴木貴人は北海道苫小牧の出身だけど、東洋大学に進学し、東京都民として成年の部に出場した。「だから、東京都強かったですよ。関東大学リーグの現役が出るんです」。
と、話してる間に第1ピリオドが始まって、北海道があっさり先制した。さすが北海道オールスター、場慣れしている。栃木は緊張でガチガチになっているが、北海道はむしろ呑んでかかっている。試合開始と同時に圧をかけ、相手にホッケーをさせない。そうそう、強豪チームがやる手だ。頭でガツンと叩いてしまう。栃木はミスが出て、瞬く間に失点を重ねる。鈴木貴人に解説してもらおう。「本当はこんなにスコアが離れるほど力の差はないと思うんです。やっぱり経験ですよね。北海道は強い高校があって、普段から切磋琢磨している」
僕は1回戦で見た「福岡県×岡山県」の話をした。チーム全員で7人、セットチェンジもままならない西日本の高校生チーム。しかも7人でGKが2人だった。つまり、試合中、セカンドゴーリーは遊んでしまうのだ。なぜプレーヤーを増やさないのかなと考えたんだけど、たぶんGKが2人いないと練習ができないのだろう。だけど、僕は感動したのだ。セットチェンジもままならないチームで、県の看板背負って戦うホッケーマンの熱さ。
国体アイスホッケーはそういう風に機能している。広がりと幅。元アイスバックスの選手らがそうであるように、現役後も皆、ホッケー愛を下の世代につないでいこうとする。僕自身もかつて手弁当でアイスバックス再建の仕事をした。盛んになるといいなぁ。世界的には大メジャーな人気スポーツなんだから。
コラムニスト
1959年8月13日生まれ中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。
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「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか
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