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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.63「スマイル・メークス・スマイル」

 

 

 取材場所は「日本大学高等学校・中学校」だった。初めてお邪魔した。僕は実家が川崎市多摩区だから生田中学の同級生が日吉の日大高校や、武蔵小杉の法政二高にけっこう進学している。東横線の日吉駅で下車し、ゆっくり坂を下って行くと学校敷地にぶつかった。立派だなぁ。野球部がグラウンドで練習している。今年、第99回高校野球神奈川県予選で日大高校はベスト4に食い込む大健闘だった。が、今日、ここで待ち合わせをしているのは女性アスリートだ。アメリカを拠点に戦うゴルフの中山綾香選手。

 

 僕の時代は男子校だったからすごく意外なのだが、日大中学・高校は90年代から男女共学なのだ。中山綾香選手は、ゴルフ部のOGということになる。日大中学ゴルフ部で競技を始め、2010年8月、高2で単身アメリカへ渡った。最初はサウスカロライナ州にあるIJGAに3年間のゴルフ留学である。その後、セントラルフロリダ大学(UCF。全米23位にランキングされる有名校)をフルスカラシップで卒業。今年はプロゴルファー生活の1年目だ。

 

 中山綾香さんがやって来た。お、空気が変わる。オーラというのか、パッと明るい雰囲気になる。僕は第一印象を重んじる記者だ。取材そのものは何度も現場に足を運んで、仲良くなってからのほうが深堀りがきくけれど、一発勝負、出会った瞬間に感じたことは後々、すごく大事なことだったりする。それは大概の場合、すぐには記事にならない性質のものだ。忘れないようにメモに書きとめておく。いつか、あ、あのときのあれはこういうことだったのかと「発見」する感じになる。

 

 「ゴルフを始めたのは日大中学のゴルフ部です。この学校で私はゴルフを始めました。当時はどこにでもいるフツーの中学生だったと思います。ゴルフも部活としてやってただけです。だけど、高校に上がると、ゴルフ部にスポーツクラスの子が来るんですよ。比べると自分はぜんぜん足りないなと思って、そこから取り組み方が変わりました。それで、高2の夏、アメリカに渡るんです」

 

 読者よ、僕がびっくりしたのはこの跳躍力だ。すごくないだろうか。「アメリカへゴルフ留学」って額面だけを見ると、何か一世一代の賭けに打って出たみたいなイメージがあるけど、中山綾香さんはこんなにも身軽だ。高校のスポーツクラスの部員に刺激を受け、打ち込んでるうち面白くなってしまってアメリカへ渡る。今の10代、20代のアスリートにはこういう人がいるのだ。どうせやるなら早く海外にチャレンジしたい。女子ゴルフならば日本女子オープン史上初めてアマチュア優勝し、10代でアメリカへ渡った畑岡奈紗選手が代表例だろうか。

 

 ちなみにご家族というか親御さんのサポートは必須である。スポーツ留学に限らないが、アメリカの名門大学に子どもを通わせようとすると、そもそも学費自体がちょっと日本の常識とは違う。そこに生活費やコーチの指導料等が加わると、大げさでなく家計が傾くぐらいになったりする。中山綾香選手の場合、「フルスカラシップ」を取れたのが本当に大きいと思う。フルスカラシップとは学業成績が優秀で、特に能力を認められた学生が受けられる(返済義務が全くない)奨学金制度だ。そしてもちろん、どこの大学でもそうだが、これはものすごい競争だ。競技生活でも結果を出し、学業でも「フルスカラシップ」を維持した中山綾香さんは、アメリカ社会で認められる最初のハードルをクリアしている。

 

 「ハイスクールのときからぜんぜんホームシックはありませんでした。日本と違って、生活環境のすぐ近くにゴルフがあるんです。何か良いイメージが浮かんだり、アイデアが出るとすぐ試すことができます。日本は生活から少し遠くにありますよね。大学に行ってからはゴルフでスカラシップをもらって、大学の名前をリプレゼントしてる以上、いっしょうけんめいやるのが当たり前でした。むしろ、普通じゃないほうが面白いと思ってました。ゴルフというスポーツに熱中できることがカッコいいと思ってました」

 

 全肯定だ。超ポジティブ。自分が獲得した環境や、自分のトライを効率的に全部エネルギーに変えてしまおうとする素直さがある。ためしにこれまで課題にぶつかったことはあるかと尋ねてみたら、チームメイトの練習量を見て、「なぜチーム練習以外、まったく練習しないチームメイトのほうが試合では自分より良いパフォーマンスを出してくるのだろう」と考え込んだそうだ。もちろん比較に意味がないという結論に達した。人によって必要な練習量は違う。自分のやってきたことを肯定しなくては力は発揮できない。

 

 大学のチームで全米優勝を二度経験して、卒業するときにプロになるか大学院に行くかで迷ったそうだ。日本では高校を出てすぐプロテストを受験するケースが多い。大学を卒業してからでは遅いんじゃないか。悩みに悩んで日大高校ゴルフ部顧問の大木治久先生に相談に行ったのだった。

 

 「大木先生は背中を押してくれました。『1パーセントでもやりたいと思ったらやるべき、でも、決断したときは全力でやるべき』。この言葉で私はプロの道に進むことを決めました」

 

 中山綾香選手のプロ生活は始まったばかりだ。まだ大きな戦果はない。しばらくはアメリカが舞台になるだろう。ていうかインタビューにも「英語で考えて日本語に訳して答える」ときと「日本語で考えるとき」と両方があるという。これからどんなキャリアを形成していくのか。あ、そうそう、2020東京オリンピックの日本代表は狙いたいと明言されてましたよ。そうなったら大応援だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

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