vol.31「師走・横浜決勝!」
2014年12月13日、日産スタジアムは天皇杯決勝の舞台になった。新鮮だった。記憶にある限り、ずっと「元日・国立決勝」を墨守してきた天皇杯だ。それはもう、お正月行事といっていい。こたつと御雑煮、おせちと年賀状、百人一首と天皇杯だ。大体、僕は年賀状の返事を書くときは天皇杯か箱根駅伝の結果を書くようにしている。2014年元日の第93回大会なら横浜F・マリノスの21年ぶり優勝だから「(中村)俊輔はリーグ戦の悔しさを晴らしましたね!」みたいな感じ。あ、つまり2014年は1月と12月、二回の天皇杯決勝が行われた年ということなりますね。面白いなぁ。何ですかこういうの「サッカーうるう年」?
「サッカーうるう年」じゃありません。前倒しの師走開催はアジアカップ2015(@オーストラリア)の日程を考慮したもの。そして横浜開催は国立競技場の建て替え工事の関係ですね。正式名称「第94回全日本サッカー選手権大会」。横浜線で小机駅を降りるとき、何かクラブW杯を見に行く錯覚に陥りました。今日はレインボーカラーのマフラーは誰もつけてないんだなぁ。色目はブルー。青と黒が今季三冠を目指すG大阪、青と白がJ1昇格を決めたばかりの山形。
カードとしても新鮮だ。「今季J1優勝チーム」と「J2プレーオフ勝者」。日産スタジアム周辺で圧倒的に目立つのは気合の入った山形サポだ。プレーオフ準決勝(磐田戦)をロスタイム、GK山岸範宏のヘッドで見事突破してから、山形は神がかり的な進撃を続けている。先週のプレーオフ決勝(千葉戦)はFWディエゴを負傷で欠き、大丈夫かなぁと思ったが、完全に勝ち切った。今日もジャイアントキリングを起こす気満々だ。対してガンバは本当に充実している。先週、重圧のなかスコアレスドローでリーグ優勝を決めた(J1最終節・徳島戦)から、今日は快勝で三冠を達成したい。興味深いことに去年はこれがJ2のカードだったのだ。そして、来年はJ1のカードになる。下剋上か三冠か。
僕は12月中旬開催はアヤになるなぁと思った。そもそも天皇杯の開催時期についてはサッカー界で議論があった。例年、Jリーグ勢はシーズンを終え、契約更改の後、変に間延びした状態で天皇杯・準決勝、決勝を戦った。主力のブラジル人選手が既に帰国していたり、監督さんや選手の契約満了(チームを去ること)が決まっていたり、チームのモチベーションを保つのが難しいという意見があった。まぁ、それにマジメに勝ち残れば勝ち残るほど、選手のオフが短くなってしまうのも問題だった。スポーツ選手はオフに身体を休め、英気を養うのも仕事のうちだ。というわけで、そろそろ「元日決勝」のスケジュールを見直すべき時期じゃないかと言われていた。かつてサッカーが不人気ジャンルだった頃は(他の競技が開催されない)元日に決勝戦を開催し、社会的な注目度を上げる意味があっただろう。今はもうそんな時代じゃないという主張だ。
たぶん師走の横浜開催は今後へ向けてテストケースになるのだろう。僕はリーグ戦やプレーオフから中1週というリズムで、チームがコンディション調整できるところに注目した。これは普段のリーグ戦の延長で試合に臨める。ガンバ有利じゃないかな。そもそも地力の差は否定しようがない。山形としては(先週、昇格プレーオフを争った千葉がそうだったように)ガンバの試合間隔が空いて、ちょっと固くなってくれると有難かった。それが中1週のルーティンで「幻の第35節」のように調整してくる。
試合の入りは山形のテンションが異様に高かった。やっぱり昂ぶるものを抑えきれないのだ。山形・石崎信弘監督はスポーツ紙の取材に「カメ作戦」とコメントしていた。今季、リーグ戦では高い位置からのプレスでボールを奪い、ショートカウンターで攻める形を貫いてきたけれど、それではガンバの餌食になるというのだ。ガンバはボールをつなぐ技術に優れている。プレッシングが簡単にいなされ、ウラを取られる。だからプレッシングは封印して、カメのように引いて守ると。僕はその報道を見て、おお、持久戦に持ち込むのか、これは延長戦、PK戦があり得るな、そのつもりで腰を据えてかかろうと考えた。で、試合が始まって仰天したのだ。山形がいつものようにハイプレスをかけている。報道は煙幕だったか。石崎さんは今季続けてきたサッカーで真っ向から勝負を挑むのか。
だもんで前半4分、あっさりガンバ・宇佐美貴史に先制点を決められたときはその気負いが逆目に出たかと思った。今シーズン、宇佐美は素晴らしいパフォーマンスを続けたんだけど、この試合もずば抜けていた。対人の強さ、読みづらい独特のリズム、アイデア、勝負に行く意思、そしてガンバへ向ける思いの強さ。サッカーファンは2014年の宇佐美を記憶すべきだろう。同22分にはFWコンビを組むパトリックに今度はアシストし、追加点をものにする。
が、一方的な試合ではなかった。後半17分、左クロスのこぼれ球をロメロ・フランクが押し込んで1点差。そのときの山形ゴール裏は地鳴りのような盛り上がりだ。追う山形に勢いがあって、勝敗の行方はまったくわからなくなる。山形が不運だったのは終盤、山田拓巳の足がつって10人での戦いになった一瞬だ。またも宇佐美がこの隙を見逃さなかった。試合を決定づける3点目。まぁ、最高の仕事じゃなかったか。
ガンバ大阪の三冠達成! しかもJ2から昇格したシーズンに偉業を成し遂げた。サッカー界にこれ以上、派手な出来事はない。そして、その派手な舞台が横浜市・日産スタジアムだったんだなぁ。資料を見ると国立競技場が使用されるようになった第47回大会以前は(主に明治神宮競技場等、東京開催ではあるものの)西宮市、刈谷市、仙台市、藤枝市、京都市、甲府市、大宮市、広島市、大阪市と天皇杯開催地は転々としている。その歴史に横浜市が加わったのだ。
コラムニスト
1959年8月13日生まれ中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。
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「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか
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