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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.22「考えること 気づくこと」

高校女子バスケの名門として金沢総合の名は耳にしていた。が、京急富岡駅のホームに立って、女子バスケの現場は初めてだなぁと考えた。男子だったらNBA公式戦やNCAAトーナメントをアメリカまで行って見ている。さいたまスーパーアリーナで行われた世界選手権、ヤングマン(U-21)世界選手権も見に行った。bjリーグはこの連載が縁で横浜ビー・コルセアーズを応援している。

が、女子バスケはぜんぜん見たことがない。これは何だろうか。ようやく春めいてきた風に吹かれて、京急富岡の駅前通りを歩く。まぁ、やっぱり気をつかう部分はあったと思うなぁ。例えば高校女子バスケですよ。親でもOBでもない、単なるスポーツ好きの中年がね、仕事ならまだしも趣味ではなかなか入って行きづらいと思うんです。これが同じ高校バスケでも男子だったら気兼ねなく試合を楽しめるもんな。

余談だけど、こういうのね、今、すんごい気をつかうんです。昔だったら例えば小学校のグラウンドでサッカーやってたら、ぼんやり眺めていて別に問題なかった。散歩のついでに足をとめてよく練習風景に見入ったものですよ。それが今はめっちゃ警戒されるようになった。指導者や親御さんの「あんた何?」って無遠慮な視線にさらされる。まぁ、彼らも子供を守らなきゃいけないから仕方ないんですけどね。学校現場がピリピリするくらい物騒な世相ってことですね。

などと考えていたら正門前に立っていた。神奈川県立金沢総合高校。部活動の成果を示す垂れ幕が校舎から下がっている。そのうちひとつは女子バスケ部のものだ。神奈川県で女子バスケといえば金沢総合の名前が最初に挙がる。何しろ全国制覇を成し遂げた高校だ。今、私立の強豪校が有望選手を自由に集める状況下にあって、公立校が伍していくのは並大抵じゃない。

で、学校の第一印象は「フツーの高校だなぁ」だった。ちょっと拍子抜けするくらいだ。敷地は広々してるけど、校舎や学校施設はむしろ古びている。この施設面ってやつも公立校の泣きどころだろう。有望選手を国内外から集め、実績ある指導者を招聘し、その上、充実した練習環境を用意できれば、ある程度のチーム強化は保証されたようなものだ。つまり強化はコストに比例している。これはスポーツ界の一面の真理だと思う。オリンピックのような国際大会においては経済大国が、プロスポーツにおいてはビッグクラブが常勝の名をほしいままにするんだなぁ。

が、スポーツはそれだけではない。いっせーのせで財布の中身を比べれば勝敗が決するんじゃ面白くも何ともないだろう。金沢総合の存在は輝いている。公立校の可能性を示し、スポーツの醍醐味を教えてくれる。それは体育館へお邪魔し、チームをひと目見た瞬間に理解できる。選手らの身体が小さいのだ。3月中旬、コートにいたのは3年生が抜けた1、2年生だけのチームだった。皆、平均的な身長に見えた。つまり、金沢総合は公立校の制約をはね返す戦いを続けているのだ。公立校には公立校のやり方がある。

「練習は平日は16時から2時間半、土日は午前午後に分けて9時からと15時からの2時間半です。1年を通じて19時完全下校です。だから短い時間でいかに効率よく練習するかですね。1秒も無駄にしないのがうちの伝統です。練習メニューが『5分』『2分×3』と分刻みで決まっていて、どんどん切り替わっていきます。新入部員は最初、そのスピードに面食らってますけど、慣れてくると当たり前になるんです」

「コートの広さも、土日は今日みたいにフルコート使ってますけど、平日は男子部とコートを半分ずつ分け合って使うほうが多いんです。このハーフコートの練習にいちばんうちの特徴が出てるって言われますね。時間もスペースも限られている。じゃ、短い時間、狭いスペースで何ができるかです」

「例えばアップは練習開始前に各自でやっておきます。そのほうが自分に合った準備ができるからです。選手に求めているのは「考える練習」です。考えること、気づくこと、それからあいさつや礼儀ですね。バスケを通じて今後の人生につながることを身につけてほしいと思います」(清水麻衣監督)

実際に練習を見学してみて、その切り替えの速さ、集中の高さに舌を巻いた。これは「一糸乱れぬ」って状態じゃないんだな。全員が機械的に同じことをやってるわけじゃない。よく見ると各自が分刻みのメニューのなかで何をするか判断してるフシがある。これは身体もきついが、頭もくたびれる練習だな。

ディフェンスが身体を入れるメニューでは、清水監督がいったん練習を止めて集合をかけた。「ちっちゃいんだから身体を張って守んなかったら守れるわけないじゃんよ! 練習でやらなかったら(試合で)できるわけないじゃんよ!」。清水監督は全国制覇したときのOGだ。今の選手は器用さや技術は自分たちの代より持ち合わせているという。足りないのはひたむきさ、愚直さだ。

「高校バスケは全国でただ1チームを除いて、皆、負けて卒業するんです。でも、私の代は最後まで勝って卒業できた。こんな幸せなことはないと思いました。選手たちにあの感激を味わわせてやりたいですね」(清水監督)

わずかな取材時間ではあったが、僕はすっかり金沢総合のファンになってしまった。どうやら高校女子バスケの最もチャレンジングな現場を取材する機会に恵まれたらしい。食わず嫌いを反省する。これからは積極的に女子バスケを見に行きたい。

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
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Web
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