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えのきどいちろうの横浜スポーツウォッチング

vol.6「風のなかのランナー」

 第4回横浜国際女子マラソンを見に山下公園へ行った。イチョウ並木が色づき、最高の雰囲気だ。前日、大雨が降って天候が心配されたが、ランナーの誰かが「晴れ女」なのだろう、快晴に恵まれた。唯一、気がかりだったのは風速4mの北風が吹きつけていたこと。どうも木枯らし1号であったらしい。「オリンピックイヤーの大会」だから、決戦も終わって、遠い目標をにらんだノンビリした感じかなぁと思ったら来年夏、モスクワで行われる世界選手権の代表選考レース第1弾ということだ。アスリートは多忙である。

 ポスト「ロンドン五輪」の物語として注目を浴びたのは赤羽有紀子選手。ロンドン五輪代表選考レースの名古屋マラソン(今年3月)で終盤に失速、本番では補欠に甘んじた。この大会は再起戦だ。ご主人がコーチを務めるおしどりランナーぶりは読者もTV等でご存知だろう。日本人ランナーでは他に中里麗美、伊藤舞、早川英里、那須川瑞穂らが期待を集める。

 外国人選手にはリディア・チェロメイ(ケニア)、マリサ・バロス(ポルトガル)ら実力派の招待選手に加えて、今年はハリケーンの影響で中止になったニューヨークシティ・マラソンからの転戦組、エレナ・プロコプツカ(ラトビア)、キンバリー・スミス(ニュージーランド)らが一般参加の形でエントリーした。つまり、ノンビリどころかハイレベル必至の大会になったのだ。


横浜国際女子マラソンのスタート前

 僕はマラソンを現場で見るのが初めてだった。スタート前、イチョウ並木でアップする選手らを眺めてドキドキしてきた。スタート時の緊張感はどんな感じだろう。それから、周囲のファンはどんな声援をかけるのだろう。スタートとゴール、普段はTVでしか見られないシーンをこの目で見るのだ。

 マラソンを初めて見るというのは本当を言うと正確ではなくて、94年、この大会の前身である東京国際女子マラソンを見ている。第16回大会、ワレンティナ・エゴロワ(ロシア)が2連覇を飾ったときだ。当時、僕は脳腫瘍という大病で内幸町の慈恵医大に入院していて、術後の経過が良くて、看護師さんにナイショでこっそり病院を抜けだしていた。

 日曜日、パジャマ姿でよろよろ日比谷通りを歩いていたら、何だか知らないが朝日新聞の小旗を渡されて、気がついたらマラソンだった。だから、体調的にはいっぱいいっぱいでエゴロワとかロザ・モタとか谷川真理を見たのだ。点滴押しながら見たからね。あれを1回とカウントするなら今回は二度め。ランナーは照明に照らされてあっという間に駆け抜けていった。谷川真理さんがめっちゃ美人だったのが心に残る。

 まぁ、だから点滴押さないで初めて見るマラソン大会なのだ。押さないほうがいいねぇ、そんなもんは。だけど、その東京国際女子マラソンのときも「昔のファンキーなアフロヘア外人」みたいに巨大なラジカセ担いだ人がラジオ中継聴きながら沿道にいたり、あれは「マラソンおっかけ」っていうのかな、マニアの世界を垣間見たのだ。あと、僕が長年「併走バカ」と呼んでいる、もう、マラソン見ると嬉しくなって、つい沿道を走りだす若者も見た。僕はマラソンの観客っていうのは案外面白いぞという印象を持つに至った。

 今年の横浜国際女子マラソンも当然、観客に目がいく。山下公園のスタート地点は人でごった返していた。そもそも秋の観光スポットだ。マラソンなんて知らないで遊びにきて、たまたまやってたからスタート地点へにじり寄った感じの「野次馬」系ファンも多い。あと一般参加ランナーのご家族、お友達が集結してますね。僕は人ごみのなか、お父さんに肩車された女の子に向かって「大丈夫? 終わるまでガマンするって約束したよね?」とスタート地点から声をかけてるママさんランナーにグッと来た。アナウンスが1分前を告げると辺りがシーンとする。「野次馬」系の皆さんもしわぶきひとつ上げない。

 で、号砲一発、スタートだ。氷川丸が汽笛を鳴らしている。「がんばれ〜!」「がんばれ〜!」色とりどりのウェアはあっという間に遠ざかっていく。コーチもご家族もお友達も「野次馬」系もみんなランナーたちを一心に後押しする。素晴しい光景だった。

 それから僕は関内駅に戻って京浜東北線で根岸駅へ移動した。まぁ、このレースは去年から今のコースに変わって、何度も折り返して山下公園へ戻ってくるのだけど、やっぱりこの際、「電車で先回りしてランナーを待ち受ける」をやってみたいじゃないか。本当はあちこち先回りするつもりでJR東日本のフリーパスを購入したんだけど、当日、京浜東北線は人身事故で遅れが出ていた。


上位集団に拍手を送る

 何とか根岸駅へ到着した頃は、もう、先頭集団は第1折り返し点を戻っていた。あわてて沿道へ出る。しばらくしてトップのチェロメイ選手が見えた。まだ15キロ通過くらいの距離なのにペースメーカーではなく、チェロメイ選手が先頭を走っている。これはケニア人ランナーがペースを上げたのだ。強風のレースだから自重して、風よけの位置取りをキープするのがセオリーかと思ったら、単騎駆けする選手が出現した(!)。


一般ランナーにも拍手

 僕は根岸交差点ポイントで全ランナーに拍手を送った。先頭のチェロメイ選手から最後尾の一般ランナーまで。まだ15キロ過ぎだというのに苦しそうな顔の人がいたり、快調に飛ばす人がいたり、表情が実に多様だ。最後尾のランナーは僕の拍手に「あ、どうもすいませんね〜」みたいに会釈して、感じとしては妙にヘコヘコしていた。きっと性格のいい人だ。その先のコースでは脱落するか足切りにあうかしちゃったと思うけど、根岸交差点はみんな元気でした。

 で、その後、ゴール地点の山下公園に戻ったんですよ。ランナー速いなぁ。電車で先回りぜんぜん出来なかった。これならフリーパスじゃなくて、フツーにきっぷ買うんで十分。ゴール地点はスタート時より混雑していた。大変だよね、単に観光に来て道が渡れない人も大勢たまってる。

 だからがんばって戻ったけど、優勝したチェロメイ選手のゴール(大会記録の2時間23分07秒)には間に合わなかった。この目で見たのは赤羽有紀子選手の8位入賞のゴール。赤羽選手は直前に足を痛めて不本意なレースだったようだ。僕はいっしょうけんめい拍手で迎えた。苦しくてもやり遂げた。再起の第一歩はこの悔しい負けから始まる。僕はチャレンジする魂をまぶしく見つめたのだ。


8位入賞した赤羽有紀子選手

えのきどいちろう プロフィール

コラムニスト

1959年8月13日生まれ
中央大学在学中にコラムニストとしての活動を開始。以来、多くの著書を発表。ラジオ・テレビでも活躍。

Book
「サッカー茶柱観測所」「F党宣言!俺たちの北海道日本ハムファイターズ」ほか

Magazine/Newspaper
「がんばれファイターズ」(北海道新聞)/「新潟レッツゴー!」(新潟日報)ほか

Radio/TV
「くにまるジャパン」(文化放送)/「土曜ワイドラジオTOKYO」(TBSラジオ)ほか

Web
アルビレックス新潟オフィシャルホームページ
「アルビレックス散歩道」

Web
ベースボールチャンネル
「えのきどいちろうのファイターズチャンネル」

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