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あんどうたかおのバスケにどっぷり

vol.144「ワールドカップの日本」

 
 
 最近のバスケブームは凄いものがあり、昔からのバスケ関係者としては嬉しい限りです。

 TVや新聞でも数多く、そして大きく取り上げられています。

 数年前までは考えられなかったことですね。これは、八村塁と渡邊雄太のNBA選手のおかげです。
 

 
 

 2リーグ分裂から始まった、日本バスケ界の混乱と低迷を川淵三郎氏が救い、Bリーグができました。そこに、前述の2人とニック・ファジーカスが帰化し、このBig 3でワールドカップ(以下WC)予選を崖っぷちから這い上がり、オリンピック開催国枠を認められた頃から人気が出てきましたね。
 
 

 さて今回のWC、日本チームは敗けばかりでした。そのことで批判や非難する人が多かったのですが、その方々は「世界のバスケ」を知らなさすぎです。メディア、特にTVなどのマスメディアの話を鵜呑みにして、期待が膨らみ過ぎたのでしょうね。どこかの番組ではメダルも期待できる、なんて言っていた人もいましたからね(笑)。
 
 

 今回の日本チームを例えると、身長と運動能力が高い選手を集め、中にはアメリカ留学をしていた選手もいて、そこに外国から実績のあるコーチを呼んだ大学チームだと思ってください。練習ゲームをしたら勝ったりもして、これはいけるぞと大きな期待を抱かせたわけです。

 フレッシュさが売りですが、実は個人としてもチームとしても、大した経験も実績もないのです。

 そのチームが、Bリーグのプレーオフに出場するような、強豪チームとゲームしたようなものなのです。相手には元NBAやヨーロッパのプロチームでプレーしてきた、うまく老獪(ろうかい)なプレーと正確なシュート力、とくに3Pシュート(以下3P、またはスリー)がうまい長身選手とPG(ポイントガード。コート上に司令官)がそろっています。と考えれば、日本の立ち位置が判ってくると思います。
 
 

 彼らは一生懸命に練習し、うまく強くなりました。これで世界と戦えると思ったのですが・・・。

 世界は日本が考える以上に先に行っていました。

 よく聞く話なのですが、3月にビーコル・ユースを引きいて、スペイン遠征をした白澤卓ビーコル・アカデミー事業部ディレクターも、帰国後「世界のバスケは日本が考えている以上に進んでいて、差は開いています!」と言っていました。アメリカやスペインなどに何度も勉強や遠征している彼の感想です。

 それを知らないのは日本人だけ。「井の中の蛙」状態でした。
 
 

 今大会、技術的なことで言いたいことは数多くあります。

 身体のぶつかり合いが少ない、ディフェンスの当たりが弱い、ATBが少なく下手、シュートの種類が少ない、パスが弱い上に下手、ドリブルの個人プレーでの攻めが多すぎる、パスが回ってないなど色々ありますが、その問題は今回棚上げにしておきます。何しろ発展途上なのですから。
 
 

 今回私が言いたいことは2点!

 「経験が少ない」
 「スリーが入らない」
 
 

 バスケは経験のスポーツとよく言われます。相手と同じコートで入り混じってのプレーで、ボールの移動も早いため、瞬時に多くの情報を得て判断しなければなりません。得点が数点で決まるスポーツなら偶然などもありますが、大量に得点するスポーツなので、積み重ねが大事になってきます。

 そこで経験がものをいいます。多くの競技がそうだとは思いますが、歳を取るほどにうまくなる。中高生でも3年の引退後にうまくなるとよくいわれますが、最後の大会で一生懸命プレーすることで、今まで以上に吸収力が増したこともあると思います。
 
 

 まあ生徒たちの話は別にして、多くのカテゴリーでベテランといわれる人たちは「うまい」とか「ズルいプレーをする」と言われますね。「ズルいプレー」とは「うまい」と同義語なのです。経験を多く積むことで相手のプレーが読めてプレーの狙いが判るため、遠回りせず直接結果を導き出せたり、裏を突いたりする対応ができるのです。
 
 

 以前から言っていましたが、「男子は20代終盤からうまさが出てきて、30代初めから円熟味が出る。」と思っています。30歳過ぎて体力は衰えても、それをカバーする知恵を持っています。
 
 

 話はそれてしまいましたが、経験が多いと「引き出しが多い」とよく言われますが、どういう意味なのでしょうか?

 バスケに限らず多くの競技では、カテゴリーが高いほど「自分が好きなプレーやできるプレー」をさせてくれないものです。簡単な話「右方向へのドリブル」を得意としていたら、右方向のドリブルは徹底的に抑えられることがよくあります。そんな時に、左方向へもドリブルしたり、ワン・ドリブルでプルアップ・ジャンパー(急ストップからの素早いジャンプ・シュート)をしたり、フェイントをかけたり、無理してドリブルをせず、一度パスしてすぐに走り込み(ギブ&ゴー)リターンパスをもらうとか、相手に合わせてプレーできることなのです。

 PGなら相手のディフェンス形態(ゾーンだとかマンツーマンだとか)を見て、その弱みを見つけそこを攻めるように指示します。マッチアップにきた相手が、自分より身長が低ければミスマッチを突いてポストアップするなどなど、攻め方を数多く持ち、対応できるってことです。
 
 

 それでは引き出しを多く持っていると、何が良いのでしょうか?

 チームの状態が良い時は「イケイケドンドン!」で、若手中心の勢いに乗った攻撃ができます。

 しかし自分たちの調子がでない、相手ディフェンスに抑えられて攻め込めないとか、リズムに乗れない時、引き出しがないと一本調子になってしまい、立て直すのは難しくなりますが、ここがベテランの力を出すところです。

 ディフェンスの状態を見て、慌てて攻めずにゆっくりとボール回しをしたり、ファールを取りに行って時計をちょくちょく止めたり、ファールトラブルに陥らせ強い圧力をかけられないようにしたり、相手ディフェンスの裏を突いたり、我慢するところは我慢して自分たちの流れになるのを待つことができるのです。
 
 

 経験と言っても色々あります。

 自国だけのバスケ経験では経験数は増やせませんが、他国のリーグでプレーすることも経験を増やすのにうってつけの方法です。

 国によって強弱は違っても、体格やプレースタイル、ジャッジの基準も違いますが、それに対応することで経験値に繋がり、我慢強さも出てくるでしょう。

 そのよい例はヨーロッパです。他国のプロリーグでプレーするのは当たり前になっています。ユーロになったこともありますが陸続きですから、国を超えるということの違和感は少ないようで、多くの国でプレーする選手が増えています。

 その上、「ユーロリーグ」というシーズン中でも国同士の大会があり、日本からすると、しょっちゅう国際ゲームをやっているようなもので、ますます経験を積むことができる訳です。
 
 

 その上、トップ選手となればNBAがあります。現在ヨーロッパから多くの選手がNBAで活躍していて、今大会は17の国から54名のNBA選手が出場しています。5年前にスペインで開催されたワールドカップに出場したNBA選手は45名でした。また現役選手だけではなく、ドラフトで指名された選手、NBA経験者も合わせた数は2014年の大会では92名でしたが、今大会は103名にもなったとFIBA(国際バスケットボール連盟)が発表しています。
 
 

 そしてそのトップ選手といえば、2018-19シーズンMVPに輝いたミルウォーキー・バックスのヤニス・アデトクンボでしょう。そしてNBAファーストチーム(5人の優秀選手賞)に選出されたデンバー・ナゲッツのニコラ・ヨキッチは、セルビアチームから出場しています。そのセルビアとフランスには5人のNBA選手がいて、スペインにはマルク・ガソル、リッキー・ルビオというビッグネームが出場しています。
 
 

 それでは日本はどうかというと、Big3を除けばせいぜいアメリカのGリーグ(NBAの下部リーグと考えてよい)や比江島慎が行ったオーストラリア程度。

 ニックは別としても、八村はいまだNBAではプレーしてないし、渡邊も数ゲームだけです。

 日本は経験が少なすぎたのです。

 アメリカとは言いません。ヨーロッパでもアジアでも海外のリーグでプレーしましょう!
 

 
 

 もう一点、スリーポイント・シュートの事。

 世界のトレンドはインサイド(ゴール下の四角く色付けられた場所辺り。以下I/Sと略す)中心の得点から、外からの3Pシュートで得点する傾向になってきました。

 これはNBAゴールデンステート・ウォリアーズのスプラッシュ(滝)ブラザーズと呼ばれるステフィン・カリーとクレイ・トンプソンのガードコンビが、2人とも3Pをガンガンと撃ち40%を超える成功率でNBAチャンピオンに何度も輝いていることから、I/Sで2点取るよりも、確率が若干悪くても3点になるスリーを撃った方が得点は1.5倍と多くなるので、3Pを選ぶようになってきました。

 スリーの場合、リバウンドは大きく跳ね返る確率が高いので、ゴール下まで潜り込めないオフェンスにとっては取りやすくなります。
 
 

 これも実はユーロが関係しているのです。マイケル・ジョーダンからNBAファンになった人も多いようですが、ジョーダンと入れ替えにシカゴ・ブルズに入団したクロアチア出身トニー・クーコッチ選手は、208㎝と長身ながらスリーをガンガン決めて注目されました。アメリカ的には当時、その身長ならI/Sでプレーすることが当たり前だったからです。

 その後、ドイツ出身の身長213㎝のダーク・ノビツキ―もスリーを当たり前のように決めていて、この頃から長身選手のスリーが注目されていました。

 そんな下地があり、最近はアメリカ人もどっしり構えた旧来のセンター・プレーヤーが少なくなり、走れて跳べて外から撃てるオールラウンド型の大型選手が多くなりました。

 大型選手ですらスリーを決める時代ですから、ガード、フォワードという旧来のシューターたちも、スリーの確率が高くなくては使ってもらえません。11年前の3P確率上位5人を見ると1位46.4%、以下43.1%、42.5%、41.8%、41.1%となっていますが、昨シーズンは1位47.4% 、45.5%、45.5%、43.7%、43.3%と平均的に高くなっています。
 
 

 さて今回のWCでは、相手にスリーを撃たれ過ぎ、というイメージが強くないですか?

 緒戦のトルコのように懸命に守っているのに、ボールを回された挙句にスリーを決められたという場面が多かったですね。ただ、数字的には1ゲームを通して観ると9/25本、確率36%でそれほど高くありませんが、前半の大事な場面で決められたため、スリーのイメージが強いのでしょうね。

 今回、ニュージーランド戦までの4ゲームのトータルで相手に49/124(39.5%)本、得点は147/384点(全得点の38.2%を占めている)取られています。

 一方、日本は4ゲームトータルで27/78本、確率34.6%、総得点269点中81点で全得点の30.9%と割合は低いですね。世界のはやりに乗り遅れています。
 
 

 今回のメンバーでBリーグ2018‐19シーズンの3P確率の高い選手として、比江島慎やニック・ファジーカス、安藤誓哉が挙げられますが、1ゲーム平均試投数が3本以下で少ないです。

 3Pシューターといわれる「試投数が多く確率も高い選手」は安藤周人だけなので、3Pシューターといわれる選手がもう数人いても良かったのかなと思います。
 
 

 今回ネガティブなことを書いてしまいましたが、このチームは今までの中で最強チームといっても過言ではないですが、今は世界的に弱いチームです。

 しかし、このまま続けて経験を積んでいけば、5年後のオリンピックはどうなると思いますか?

 八村26歳、馬場28歳、渡邊29歳、田中32歳、比江島34歳で円熟味が出ます。そこに若手のシェーファー・アヴィ幸樹は26歳、安藤周人は29歳、神奈川の星・田中力は22歳ですよ。ここが第一次のゴールデンチームになるのではないでしょうか!
 
 

 そして9年後のオリンピック、やっと先進国並みに海外で鍛えられた選手が活躍するときです。

 考えただけでもワクワクが止まりません!!

 日本バスケはWCで敗れた今がスタートなのです。

あんどうたかお プロフィール

1946年生まれ。

月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。

現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。

NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。

過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。

横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。

現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。

また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。

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