vol.142「新ビーコルとツイン全国大会」
先月書きましたツインバスケ全国大会(文部科学大臣杯争奪第32回日本車いすツインバスケットボール選手権大会)のリポートです。
6月22日(土)・23日(日)の2日間、東京の墨田区総合体育館で行われましたが、関東代表・神奈川JUNKSが優勝し、2連覇を遂げました。
当初、私はTO関係のボランティアの取りまとめ役でしたが、広報の分野が手薄ということで、bjリーグ時代は「横浜ビー・コルセアーズ」の現役広報(現在は名誉広報)だったことから、広報を任されました。
今回の事前告知では、ビーコルでの広報と大きく違ったことがありました。それは高円宮妃殿下、小池百合子東京都知事というVIPの出席ということです。皇室も都知事も特別な警備が必要で、更にスケジュールに関しては、警備などの問題があり簡単に発表できないという事情があり、正式発表が大幅に遅くなってしまいました。
動かせない手を使ってのシュート
そんなこともあり、大会前と当日の打ち合わせは、もっぱらその件に関することばかりでした。カメラマンとの距離や方向の問題とか、細かかったですね(笑)
特に開会式出席後はゲーム観戦をされ、小池都知事が選手たちとコート上で談話することになり、その段取りでかなりもめましたが、小池都知事取材陣に都庁の報道関係者がいたので、その方にお任せしました。
メディアが並ぶ場所、下リングと選手がいる場所、そして小池都知事の立ち位置など細かく決めましたが、小池都知事は指示する間もなく、メディアとリングと選手の位置関係を見て、写真写りが良さそうなところへ真っすぐに向かって行きました。さすが場を踏んでおられるなと感心した次第です(笑)
選手と談笑する小池都知事
お二人が帰られるとほとんどのメディアが帰ったため、ホッとして疲れがどっと出てきたような(笑)
そんなことがあり、バックヤードで食事したり休憩したり、戦評などの打ち合わせをしている間に、2回戦で波乱の展開が起こりました。
今大会のダークホースといわれていた「大阪グッパーズ」(関西代表・大阪府)が「バスターズ」(関東代表・栃木県)に63-64で敗れるという波乱があり、「千葉ピーナッツ」(関東代表・千葉県)も「博多パトラッシュ」(九州沖縄代表・福岡県)に大接戦の末49-50で敗れたのです。
両カード共に1点差という緊迫したゲームで、あまりにも歓声が大きく控室でも聞こえたため、フロアへ行ってみると終わった後でした(汗)
ツインならではのルールが有るのでTOも大変です。
BリーグのTOもいます。
さて2日目は準決勝と決勝の3ゲームです。
◆準決勝 「神奈川JUNKS」vs「博多パトラッシュ」
JUNKSは立ち上がりから、センターラインを挟んだディフェンスを特に強くしました。上シューター(障害は軽く身体能力もありPG役が多く、305㎝の上のリングにシュート)が#4堀一人だけのパトラッシュからボールを奪い、上、円内(フリースロー・サークル内から120㎝のリングへシュート)とボールを裁き、バランスよく得点し、立ち上がりからリードを奪い、前半52-10と大差をつけ、98-26で大勝し、2年連続の決勝進出を決めました。
◆準決勝 「Horsetail」vs「バスターズ」
立ち上がりは、バスターズのPG上シューター#9菊地がゲームをコントロールし、#10倉田との上シューター・コンビで得点及び円内にアシストを決めリードをしますが、第2QではHorsetailがディフェンスを強め、パスカットから#5小田と#11櫛田の円内シューターにアシストを量産し、1点差まで追い上げ前半を終了しました。
後半に強いHorsetail は更にプレッシャーを掛け、2度のショットクロック(ツインは30秒)バイオレーションを取り連続12得点し、44-33と一気に差を広げ勝利を確信しました。最終スコア68-59で5連覇を成し遂げた2017年以来2年ぶりの決勝を決めました。
チームでハドルを組んで「サア 行くぞ!!」
ゴムの手袋とそれを固定するテーピング、そうしないとボールをハンドリングできません!
◆決勝 「JUNKS」vs「Horsetail」
記録がある2010年から通算4度目の決勝対決となり、これまではHorsetailが2勝1敗と勝ち越しています。
■スタメン
「JUNKS」
#8伊東良平(2.0N)円内、#12深澤康弘(1.5)円内、#13山口貴久(2.0H)円外、#14佐々木操(3.5)上、#15橘内祐太郎(2.0H)円外 持ち点計11.0-
「Horsetail」
##5小田勇人(1.5)円内、#9成毛弘継(3.5)上、#11櫛田浩二(1.0)円内、#14佐藤善昭(3.0)円外、#17河野俊介(2.5)円外 持ち点計11.5-
お互いに強いディフェンスを信条としているためと、決勝戦特有の緊張もありなかなかボールが円内に入らず得点できませんでした。しかし気持ちがほぐれてきた5分過ぎから円内にボールが入り出し、点が動き始めました。
JUNKSは、27回大会と昨年の31回大会で得点王に2度輝いている円内#8伊東にボールを集め、それを伊東が長身の利を生かしシッカリと決め、一歩リードして第1Qを終了。
第2QになりJUNKSは、PGを得点力のある#7川瀬雄介(4.0、上)に替えると、Horsetailは警戒し#7川瀬にディフェンスを集中させます。それを見てJUNKSは円内へパスを通し#8伊東が決めますが、Horsetailも対抗して円内にボールを集め、それを#11櫛田と#5小田がシュートを決め接戦となり、24-22とJUNKSが一歩リードして前半を終了。決勝らしい好ゲームとなりました。
第3Q立ち上がり、JUNKSはシュートを決めたあと、プレスして一気に30-22と大量リード、更に強いディフェンスでボールを奪いロングパスのワンマン速攻、そしてパス回しから円内の#8伊東へボールを通し、5分間で15-3のランで一気に差を開き「勝負アリ!」かと思われましたが、Horsetailは上シューター#8成毛と円外シューター#14佐藤、更に円内#5小田を軸に猛反撃し、39-41と2点差まで追い上げ、後半に強いHorsetailの本領発揮となりました。
決勝戦 Horsetail#9成毛へのパスを狙う#14佐藤
ディフェンスはJUNKS#14佐々木
最終QもJUNKS#8伊東が得点するとHorsetailが直ぐに入れ返す、という緊迫した展開となりましたが、中盤に入り差を詰めようとHorsetailがボールにプレッシャーを掛けに行くと、JUNKSはそれを逆手にとり長いパスでHorsetailディフェンスの後ろを突き得点を重ね徐々に差を開き、65-55の10点差で逃げ切り2連覇を果たしました。
このゲームでJUNKSの#8伊東は、驚異的な45得点で得点王に輝きました。これは1ゲームでの個人最高得点と思われます。
決勝は予想通りJUNKSが優勝しましたが、どうしても気になることがありました。
それは前大会の得点王でMVPにもなったJUNKSの#15 橘内が、ほとんど得点してないばかりかシュートもしてなかったことです。円外シューターとして、やや遠めのシュートも決めるピュア・シューターなのですが、準決勝では円内#15岸本が34点、決勝では前述の#8伊東が45点も挙げています。今までなら#15 橘内が30点で、#8伊東が20点というのがパターンなのですが、#15橘内はたったの4点のみです。
JUNKS#15橘内(右)
どうしても気になり表彰式後、シュートしなかったことについて本人に聞いてみると、昨年からキャプテンになったことで、周りへの気遣いができるようになったようです。
Horsetailは全国大会だけではなく、秋に行われる関東トーナメントなどでも何度も対戦している相手なので、当然自分をマークしてくることは判っていたので、ディフェンスを引き付けておいてパスをしようと考えていた、とも言っていました。
それまでは自分で得点することしか考えていなかった彼が、人を生かすプレーができるようになったことは、チームにとってとても良いことで、ますます強くなりそうです。
自分だけじゃなく他人にもシュートさせようと思った理由を聞くと、ニヤリとして「キャプテンなので!!」
得点王とMVPのJUNKS#8伊東。
受賞されるのが障害者なら、授与する方も障害者です。
■表 彰
優 勝 神奈川JUNKS
準優勝 Horsetail
MVP 伊東 良平(神奈川JUNKS)初
得点王 伊東 良平(神奈川JUNKS)3度目
ベスト5 橘内 祐太郎(神奈川JUNKS)2度目
佐々木 操(神奈川JUNKS)3度目
小田 勇人(Horsetail)5度目
櫛田 浩二(Horsetail)初
成毛 裕継(Horsetail)4度目
◆2019年関東車いすツインバスケットボールトーナメント大会
チャンピオンのJUNKSも出場する関東トーナメントは9月28日(土)29日(日)の両日、新横浜の「障害者スポーツ文化センター横浜ラポール」で行われます。ちょっと覗いてみてはいかがですか?
■横浜ビーコルセアーズ■
7月8日、Bリーグは今シーズンのスケジュールを発表しました。
それによると、横浜ビーコルセアーズの開幕戦は10月6日(日)で、昨シーズン因縁の相手レバンガ北海道との対戦で、アウェーでのスタートとなります。
ホームのスタートは、その週の金曜日10月11日に聖地・横浜文化体育館で「秋田ノーザンハピネッツ」を迎えて2連戦行います。いきなりマーシー(細谷将司)との対戦になりますね!
今回水曜日開催は12回と多く、特に終盤の3・4月は毎週のように行われるのがきついです。
さてさてスタッフが決まりました。GMに河内、コーチにウィスマンは変更がありませんが、アシスタントGM的存在に、ビーコルの顔だった山田謙治が帰ってきました。嬉しいですね。「ビーコルの頭脳」的存在でしたからね。正式役職名は「チーム編成・強化担当兼アシスタント・コーチ」です。
山田謙治
もう一人、アシスタント・コーチに就任したのが、我があんたかファミリーの福田将吾です。
彼は2009年、最長身者が192㎝の無名に近い鹿屋体育大学男子部を率いて、インカレで法政大、中央大を破り7位にした男です。元々はプリンストン・オフェンス(バックカットが有名なプレーで、能力の低いチームが勝つためには最高の作戦と言われてます)を考案したピート・キャリルに話を聞くため、わざわざアメリカへ行ってきた男です。他にもシアトル・パシフィック大やノースウエスタン大などで、アシスタント・コーチを経験している勉強熱心なコーチで楽しみです。
まあスタッフはどうでも良いのですが、皆さん気になるのは選手のことですよね。
昨シーズンから転出した選手は以下のとおりです。
No.0細谷将司 176cm 55G 7.2ppg
No.1川村卓也 192㎝ 59G 15.6ppg
No.2高島一貴 188cm 48G 1.8ppg
No.5湊谷安玲久司朱 192cm 45G 2,4ppg
No.6中村太地 190cm 43G 2.3ppm
No.33アーサー・スティーブンソン 204cm 35G 15.1ppg
No.34ブランドン・コストナー 203cm 29G 19.7ppg
この他、中途移籍者はエゲケゼ、イベ、マックレア、ホームズ、ガルシアの5人です。得点だけでも64点分マイナスです。
日本人としてチーム最高得点者で中心選手だったタク(川村卓也)を移籍させたことで、チームを根本から変革しようとしていることが読み取れます。
それに対し、新入団選手は以下の通りです。スタッツは過去3シーズンの平均です。
◆アキ・チェンバース
190cm 29歳 カリフォルニア大マーセド校 元千葉 6.1ppg 2.7rpg 1.2apg
◆秋山皓太
188cm 23歳 東海大 元B2金沢 1.8ppg 0.8rpg 0.3apg
◆牧全
188cm 27歳 ソノマ州立大 元北海道 3.1ppg 1.6rpg 0.8apg 3p43%
◆生原秀将
180cm 25歳 筑波大 元三河 4.3ppg 1.7rpg 1.5apg 3p33%
◆ジェイソン・ウォッシュバーン
208cm 29歳 ユタ大 13.4ppg 6.5rpg 1.1spg
※ppg:1ゲーム平均得点 rpg:1ゲーム平均リバウンド apg:1ゲーム平均アシスト
アキ・チェンバース 秋山皓太 牧全
生原秀将 ジェイソン・ウォッシュバーン
数字的にいうと、得点に関してJウォッシュ(ジェイソン・ウォッシュバーン)以外は大した数字はなく、日本人4人の得点を足してもタク一人にも届きません(汗)
またタク、アレク(湊谷安玲久司朱)のような華がある選手たちでもありません(笑)
チェンバースは日本代表合宿を見た時、一番声を出していました。声といっても日本的な意味のない掛け声ではなく、プレー上で必要な「スクリーン行ったぞ」とかの声で、いかにもアメリカの大学でシッカリと教わってきているな、と感じるうまい選手で、玄人好みの選手です。
生原は、筑波大時代に満田丈太郎(名古屋、元ビーコル)と同期で、現在NBAサマーリーグで話題になっている馬場雄大の1年上になります。得点力があるだけではなく、3年生のインカレではアシスト王を獲得すると同時に、4年生では2年連続の優秀選手賞にも輝いており、バスケIQが高い選手です。
牧は母親がアメリカ人のハーフで、高校からアメリカへ留学しており、3Pが得意で当たりに負けしないプレーが強みです。
若い秋山は、ここぞという時には積極的に3Pを撃つ選手です。
ガツンと点が取れる選手は少ないのですが、この日本人4人に共通していることは「ディフェンスが良い」ことです。
つまりウィスマン・コーチが目指す「ディフェンスが強く、多様なゾーンを敷けるチーム」のメンバーとしての資格が十分な選手たちということです。
ディフェンスはシュートのような波がありません。コンスタントに力を発揮できるものなのです。
初期bj時代のビーコルは「ディフェンスのビーコル」といわれたもので、2シーズン目に優勝できたのも強いディフェンスのおかげでした。
今、河内GMはラスベガスのサマーリーグに行っています。そこで得点力のある外国人を獲得できたら、今シーズンのビーコルは面白くなりますよ!!
1946年生まれ。
月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。
現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。
NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。
過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。
横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。
現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。
また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。
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