vol.89「フル・ロースターのビーコル」
#15ウォーレン・ナイルズ(G・194cm)、#33ジャーフロー・ラーカイ(F・203cm)、#50ウェイン・マーシャル(C・211cm)と他チームより少ない3外国籍選手でスタートした今シーズンの横浜ビー・コルセアーズ(以下ビーコル)でしたが、スタートは3勝2敗とそこそこの成績でした。しかし10月19日、青森ワッツとのゲーム-2でインサイドの要#50 W・マーシャルが膝を悪くし、調子を崩した影響で6連敗を喫してしまいました。11月15日のライジング福岡戦に83-77で勝ったものの、#50 W・マーシャルの怪我が悪化して欠場。外国人3人相手にビーコルは2人で奮闘しました。しかしこの後、さらに最悪の事態に。
11月23日の岩手ビッグブルズ戦で#33ラーカイが膝を打撲し、11月29日の奈良戦からついに外国人がガードの#15ナイルズ1人という事態に。
このゲーム、#15ナイルズがチーム史上個人最高記録となる43得点を上げる頑張りを見せたものの、インサイド(以下I/S)を外国人に頼っていたビーコルはゴール下を攻められ苦戦が続きました。
#15 ウォーレン・ナイルズ
12月に入り#23カイル・マーシャル(F・200cm)と契約しましたが、サイズ不足を補うには至らない上、外国人2人体制ではやはり苦しく、チーム史上最悪の12連敗を記録してしまいました。
#33 ジャーフロー・ラーカイ
やっと12月20日の新潟アルビレックスBB戦から#33ラーカイが復帰、当初の3人体制へ戻ってきた…と思ったら、今度はチームの要・キャプテンであり司令塔の#13山田謙治が怪我で2014年最終節を欠場する事態へ…(涙)。
しかし12月28日vs大分ヒートデビルズのゲーム-2で勝利して連敗をストップ。良い形で新年を迎えることができました。
ここまでは前号で書いたとおりです。
そして3週空いた新年最初のゲーム、1月17日の信州ブレイブウォリアーズ戦、ビーコルはやっとフル・ロースター(メンバーが揃った)になりました。
というのは、欠場していた#13山田が戻り、さらにあのゴール下の魔神#50 W・マーシャルが怪我から復帰したのです。
#50 ウェイン・マーシャル
その上12月まで信州で活躍していた#22カール・ホール(F/C・201cm)と契約しました。得点Avg.13.5点、リバウンドAvg.9.3個というインサイドに強い選手で、2013年NCAAトーナメント(全米大学選手権)ファイナル4入りしたウィチタ・ステート大のスタメン・パワーフォワードです。「ファイナル4」って言ったら超強豪校ですよ。201cmの身長ではインサイドの選手としては少しばかりサイズが足りませんが、スピードと運動量、そして恵まれた体格、それが強豪揃いのNCAAトーナメントで活躍できた要因です。
(寂しいことですが外国人が少ない時にがんばってくれた#23 K・マーシャルは契約解除となりました。)
#33ラーカイも同じく、身長こそ低いもののI/Sの動きが得意。そしてこちらも復帰した魔神#50 W・マーシャルが加わりI/Sはタイプが違うものの3人のビッグマンが揃った!!
となればアウトサイド(以下O/S)ですが、ここには2月1日に開催されたTKbjオールスターゲーム3Pコンテスト準優勝の#3蒲谷正之、そしてリーグ得点ランキング6位の#15ナイルズ、さらに言えば最近富みに攻撃的になった#13山田、#11齊藤洋介と、優秀な3Pシューターが揃っています。
I/S、特にリバウンドが強ければ外からのシュートは確率が上がる、というのはよく知られたことです。この3Pを活かすためにはI/SとO/Sの連携を強めなくてはなりません。
バスケットでは「インサイド・アウト」という言葉がよく使われます。これは一旦I/Sの選手へボールを入れて相手ディフェンスを収縮させ、ワイドオープン(マークのいない状態)になったO/Sの選手へパスを出すことです。これによりO/Sの選手は楽にシュートすることができます。またディフェンスは必死にO/Sまでマークに来ることになります。
昨シーズンのNBAファイナル、サンアントニオ・スパーズvsマイアミ・ヒート戦では、レブロン・ジェームス、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュと勢いのあるスーパースター3人を擁するヒートが有利と思われていましたが、名将・ポポヴィッチヘッドコーチ率いるベテラン揃いのスパーズが4勝1敗と圧勝でヒートを下し優勝しました。
この時のスパーズの作戦の一つがこのインサイド・アウトなのです。ただスパーズが違うのは、一旦O/Sに出したボールを他のO/S選手にパスしたりATB(Attack the Basketの略=ゴールへ向かってドリブルで攻め込むプレー)したりすることです。しかしここまでなら他の強豪チームでもよくあるプレーです。ディフェンスの良いヒートは、ここまで対応することが多々あります。そこでスパーズはさらにO/Sにパスを回します(このパスをエクストラ・パスとかワンモア・パスとか表現します)。
さすがにここまで来ると、ほとんどワイド・オープンになることが多く、クワイ・レナードなどの3Pシューターがドスンドスンとスリーボール(3Pシュート)を決めたり、外側に広がったディフェンスの逆を突いてATBしたり、再度I/Sへパスを通したり、そこからもう一度I/Sへ短いパスしたりと、完全にヒート・ディフェンスを翻弄していました。
この時ヒートはボールに喰らい付いて必死に追い回しますが、逆にこれで脚に疲労がたまり、後半の追い上げができずに敗れたというわけです。
スパーズにはNBA現役最強のI/Sといわれるティム・ダンカンをはじめ、マット・バナーやティアゴ・スプリッターという、地味ながら基礎ができたバスケIQが高く上手いI/Sが揃っていることと、マニュ・ジノビリ、トニー・パーカーというドライブもうまい曲者3Pシューターとレナード、ダニー・グリーン、マルコ・ベリネリなど、3P名人が揃っています。
これってビーコルのロースターと似てませんか?
外国人が2人になった11月15日から昨年末までの14ゲームの成績は、書きたくもないのですが(笑)、2勝12敗、勝率はなんと14.2%です(涙)
しかし外国人4人になった1月17日からの4ゲームでは2勝2敗と五分になってます。
そこで12月6日からの8ゲームと4人揃った1月17日からの4ゲームのスタッツ(個人記録)を作成しました。私はリーグから出る公式スタッツを基に「IF40」という数値を出します。通常はAvg.(1ゲーム平均値)はプレータイム(出場分数)に関係ないので、長くプレーしている人の値が大きくなるため、本当にその選手の評価になるのか疑問でした。
そこで「もし40分間フル出場したとしたら」という数値を出すことを思いついたのです。出てきた数値での判断を「力」と表現してみました、得点なら「得点力」、リバウンドなら「リバウンド力」という具合です。
数式はとっても簡単です。得点だったら
<総得点÷プレータイム×40>
例えば#73久山智志。外国人がいない時は大きな外国人相手にゴール下でディフェンスしていました。この期間、プレータイムを平均23分ほどもらっていて、得点Avg.は4.5得点でした。ところが外国人が4人に増え出番が少なくなり、得点Avg.は1.3点と激減したのですが、IF40ではともに「7.7点」と変わらないのです。時間が平均6.5分と短くなったのでAvg.は下がりましたが得点力は下がらなかった。つまりプレーの内容は変わっていなかったというわけです。
昨年末を境に12月中の8ゲームと1月中の4ゲームでの「ビフォア・アフター」を調べてみました。
【プレータイム】
激減は#73久山です。外国人相手のディフェンスとして身体を張ってがんばってくれました。
次は#15ナイルズです。外国人が彼1人というゲームが多かったので、必然的にプレータイムは多かったですよね。
そして#7堀川竜一と#32前田陽介です。特に#7堀川は外国人専用のディフェンダーとして活躍してくれました。
前の数値がビフォア8ゲーム。「→」以降の数字がアフター4ゲームです。
1)#73久山 23.3分→6.5分 △16.8分
2)#15ナイルズ35.4分→24.8分 △10.6分
3)#7堀川 8.3分→1.0分 △7.3分
4)#32前田 7.3分→0.0分 △7.3分
※#3蒲谷、#11齊藤、#13山田が3分ほど増えてます。
【得点力】
一番目につくのが#3蒲谷の得点力UPです。Avg.もUPしています。ビフォアでは#15ナイルズに次ぐチーム得点王ですからマークが厳しかったのでしょう。ラーカイはビフォアは4ゲームなのですがI/Sは1人だったのでプレッシャーは半端じゃなかったと思います。2Pの成功率では11ポイント近く上昇してますからね。#11齊藤と#13山田、#37河野が微増で#15ナイルズと#73久山は変わりません。#32前田は対象外ですね。
1)#33ラーカイ 16.3点→21.6点 +5.3点
2)#3蒲谷 11.9点→15.9点 +4.0点
その他3Pの試投数や成功率、リバウンドもありますが、それはいつの日にか。
チームのスタッツも覗いて見ましょう。
【得点Avg.】 66.5 → 77.0 +10.5点
【失点Avg.】 87.5 → 70.5 △17.0点
【3P試投数 IF40】 22.0 → 20.2 △1.8本
【3P成功率】 29.0 → 35.8 +6.8%
【2P試投数】 42.3 → 39.2 △3.1本
【2P成功率】 44.7 → 51.0 +6.3%
【リバウンド】 34.7 → 46.2 +11.5本
ということで今回は数字を使って見ましたが、格段によくなっています。
現在はまだ全員が揃って間もないため、噛み合っていない部分もありますが、これからはよくなるばかりです。
そんなビーコルを応援するチャンスはすぐ近くなのです。
6日金曜日と7日土曜日は待望の、そして今シーズン初となる横浜文化体育館でのホームゲームです。部活後やお仕事後にぜひ関内まで足を運んでください。
土曜日はゲーム後のショッピングやお食事を計画している人もかなり多いと聞いてます。
応援お願いします!!
1946年生まれ。
月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。
現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。
NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。
過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。
横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。
現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。
また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。
※タイトル・本文に記載の人名・団体名は、
掲載当時のものであり、閲覧時と異なる場合があります。