vol.82「金総復活」
例年は6月末か7月初めに行われる高校総体(通称インターハイ、略してIH)神奈川県予選は、本大会開催が早くなったため6月22日(日)が最終日となり、会場は横浜ビー・コルセアーズのセカンドホーム・平塚市総合体育館で行われました。
横浜市民となると気になるのが女子です。
県立金沢総合高(以下金総)と県立旭高(以下旭)の戦いですね。今シーズン新人戦、関東大会予選と2戦行い1勝1敗と五分の成績ですが、そこに県立市ヶ尾高(以下市ヶ尾)も加わり、県大会女子ファイナル4(4強)のうち3チームが横浜市の高校となりました。ちなみに言えば、残りのファイナル4は県立藤沢西高(以下藤西)で、全て県立高となっています。
とは言え気になるのが名門金総です。新人戦では66-63で旭に勝ったものの、お互いのエースが怪我で苦しみながらの関東大会予選では57-53で旭が勝利してます。
そして今大会は、決勝リーグでも点差こそついたものの、決め手の3P(3ポイントシュート)が入らず、もたついた展開が多く、後半3Pが入り出してやっと一方的展開に。結果的に大差をつけたことになっただけで、中身は決して楽なものでは無かった。
何故これほど弱くなったのか?
理由は簡単で、それまで伝統を作って来た星澤純一氏(元先生、現WJBL・羽田ヴィッキーズヘッドコーチ)がウィンターカップ優勝を花道として2年前定年で退任したからです。カリスマコーチと呼ばれた星澤氏の下には全国で活躍したいという有望な中学生が集まってきたため星澤氏も力を発揮できたが、この数年、転勤話や引退話が出て優秀な選手が来なくなり、多くの選手は神奈川で星澤氏に次ぐ指導者と呼ばれる講武達雄先生と西垂水紀世美コーチのいる旭へ行くようになっていたのです。
金総はその後任に、卒業生であり数年前に新しく就任した清水麻衣先生がなった。選手としては優勝経験を持つもののコーチとしては実績がないが、数年間星澤氏の下でコーチの勉強を積んできたお陰で、それなりの成績は収めてきた。しかしこの清水先生も公務員の宿命で、この3月、県立大和東高へ転勤となり、後任にライバル校だった県立荏田高出身の今彩子先生が赴任してきた。とはいえ大学を卒業したてで先生になったばかりの今先生に全面的に任すわけにはいかない。
そこで独り立ちできるまでの橋渡し役が必要になります。それが現在ベンチで穏やかに、そしてシュートが入るとパチパチパチとゆったりと手を叩いている松木静香先生なのです。
今先生(左)、松木先生(右)
別に娘が金総で選手をしていたから、という理由だけではありません。松木先生は実は旧姓・横川静香といい、千葉の名門・昭和学院(以下昭和)のOGなんです。コートネームは「エド」と呼ばれ、昭和が初めてウィンターカップで優勝した第9回大会(1979年)の大会ベスト5(優秀選手賞)に選ばれ、てっきり実業団(今のWJBL)へ行くかと思ったら筑波大学へ進学しました。筑波でも2年次、そして4年生ではキャプテンとして関東リーグとインカレで優勝という輝かしい成績を残しています。
さて今大会、金総は決勝リーグ第1日目に市ヶ尾と対戦しました。ディフェンスが良くリードを奪うもののシュートが雑で思ったほど点差が少ない。市ヶ尾は第2Qでゾーンを引いたこともあり、お互いがうまく攻められず、金総19-14市ヶ尾と超ロースコアで前半を終了。
後半に入り金総はエース#7木山唯の3Pがやっと決まり、市ヶ尾のポイントゲッター#4西岸千雅とで入れ合い状態になったが、市ヶ尾は#4西岸にボールを集めるだけで得点が伸びず66-41で金総が勝ち1勝目をあげた。
一方旭は藤西相手に点取り屋の#5平典紗を中心に#7野上佳澄と#4金沢みどりが二桁得点し80-56と撃破してます。
決勝リーグ第2日
金総は藤西と対戦。出足こそ藤西にリードされたものの、ボールをインサイドに集め高さを活かした攻撃で逆転し、その後も強いディフェンスで点差をつけ、84-58で難なく2勝目をあげIH出場に王手をかけた。
対する旭は市が尾と対戦。旭は#5平がペネトレイトと3Pで得点するが市ヶ尾のディフェンスのプレッシャーが強く思うように得点できない。本来ならば大型フォワードとして外のシュートがうまくなった春日イザベラ瑠璃がいて、インサイドの#4金沢を含みバランス良いオフェンスを展開するはずだったが、春日が膝を怪我してプレーできない。無理をすればできるのだろうが、将来性のある選手なので、講武先生は春日をベンチに座らせたままにしておいた。
市ヶ尾は#4西岸がシュートを良く決め21得点したものの46-42で旭が逃げ切り、2勝目をあげ、金総と共にIH出場権を獲得した。
そして迎えた最終日。既にIH出場権を得た両チームだが、伝統の一戦といえるこのゲームに懸ける思いは決勝戦と同じ。
旭は春日を登録してベンチに入れたことで、このゲームへの決意を示した。
金総はこれまでの戦いで得意の3Pが入らず、さらに2年生センター#8武藤夏海の状態がよくなく心配された。
しかしティップ・オフされるとそれまでの心配は吹っ飛んだ。決勝リーグ2ゲームで37得点と好調のキャプテン#4荒井未翔が3Pで口火を切ると、不調だった#7木山も最初の3Pを決め、うれしい予感。それまで外のシュートが入らなくても「いいのよ、もっとシュート撃ちなさい」と言い続けてきたエドさんの気持ちが通じたのだろう。
#4 荒井 未翔
#7 木山 唯
旭は#5平が1on1で外から中からと攻め、互角の戦いへ。さらに旭は思い切った手を打った。残り3分を切ったところで#4金沢、#5平を残して#12高橋里穂、#16熊谷日毬、#18楠本唯奈の大型セカンドユニットを起用。これが功を奏し15-15と追いついて第1Q終了。
第2Qでは中盤に金総もセカンドユニットを投入したものの、こちらは旭のプレスにT.O.(ターンオーバー)を連発しすぐに戻された。春日がいない旭は#5平の1on1をオフェンスの中心に組立て、旭30-29金総で前半を終えた。
ゲームは第3Qで大きく展開が変わることが多い。金総は強いディフェンスからの速攻で逆転し、ジワジワと離していったが、残り4分に#7木山が3連続で外から決め、さらに#6関崎南が3Pを決め一気に49-35と14点差をつけた。あっという間だった。
旭はCTO(タイムアウト)を取ったが流れは変えられず、金総は物凄い集中力でその後のシュートをほとんど落とさなかった。それに対し旭は1on1で攻めることが多く、気持ちだけが空回りして57-37で第3Qを終了した。
勝負はここでついた。
75-54で金総が勝ち3勝0敗で優勝した。
松木コーチは「選手が集中していた。#7木山はシンスプリント(脛骨過労性骨膜炎、英: Medial tibial stress syndromeとも言う。)で休み休み使わなければならなかった」と話した。
新人戦から前日の藤西戦まで、ミスが多く何か物足らない金総を見ていて、ずーっと煮え切らないモヤモヤが私の気持ちにあったのですが、このゲームはそれを一気に吹き飛ばすナイスゲームでした。
選手達の気持ちで関東大会時とどのように変化があったのか、その疑問を荒井キャプテンに聞いてみました。実は新人戦までキャプテンは#5清田陽香でしたが、プレーに専念させるため荒井をキャプテンに起用したとのこと。
「関東大会の前にキャプテンになりました。その関東大会で敗戦を味わって、二度と悔しい思いをしたくないと思い、ミーティングをたくさんして話し合いました。何が何でも勝たなくてはいけないと、ダメなときも思いっきりシュートしようと話し合っていた。
金総は出足が悪いので、今日は最初の1本目を私が決めようと思っていた。
伝統のプレッシャーは感じているけど、私たちはプレッシャーを楽しもう、と前向きに捉えています」
荒井キャプテン
久々の決勝での大勝。とはいえ全国ではまだまだの実力です。今年のIHは千葉県八千代市で行われ、金総の2回戦の相手は優勝候補No.1の桜花学園、旭の相手は福岡大附若葉高と決まりました。
横浜からも近い会場なので、ぜひ金総と旭を応援してください。
組み合わせはこちらから
(http://www.japanbasketball.jp/wp/wp-content/uploads/interhigh2014_girls.pdf)
さてもうひとつ、どうしてもこの時期書かなくてはいけないのがNBAファイナルのことです。NBAはバスケットボールの最高峰のリーグで、6月中旬にファイナル(決勝戦)がサンアントニオ・スパーズvsマイアミ・ヒートの間で行われました。7戦制で4勝したら優勝です。
ヒートはご存知のようにNBA No.1選手ともいわれるレブロン・ジェームス(203cm年俸約21億円)をはじめ、ドウェイン・ウェイド(193cm年俸約18億円)、クリス・ボッシュ(211cm年俸約21億円)とでBig3と呼ばれるスター軍団なのに対し、スパーズはベテラン職人集団とでも呼びましょうか(笑)。
ヒートはBig3を組んで以降2連覇しており、スリーピート(3連覇。ヒートのライリー社長がレイカーズ時代に考えた造語)がかかってました。
プレー的にはヒートの個人プレーvsスパーズのチームプレーの対戦とも言われました。
そしてその結果は、チームプレーが勝利しました。
スパーズはインターナショナルチーム、多国籍軍です。ガードのトニー・パーカーとユーティリティプレーヤーのボリス・ディアウはフランス人。同じくガードのマニュ・ジノビリはアルゼンチン、フォワードのティム・ダンカンは米領バージンアイランド、センターのスプリッターはブラジル、イタリアはベリネリ等々。
それがどのように良い効果をもたらしているのでしょうか?
ひとつは、彼らはほとんどが自国の代表チームの選手です。誇りが高いだけじゃなく、勝利のために自己犠牲を払える人間だということ。
ふたつ目は、アメリカ人はパワーがありそれを全面に押し出したプレーが多いのですが、身体能力が低い分、技術とシュート力でカバーしてるからで、プレーがSMART(賢い)なのです。
といってもサボってはいるわけではありません、スパーズはNBA全30チーム中一番動いている、というデータがあります。そしてパスが多いということも。アシスト数ではヒートが1ゲーム平均18.2個なのに対し、スパーズは22.2個と、4個も多いんです。
つまりヒートはボールを持った選手が1on1をやり、そのままシュートに行くことが多い、というわけです。対するスパーズはパスをもらってシュートすることが多い。
つまり、シュートされると思って近づいたらパスされてノーマークの人がシュートした、というプレーと、ボールを持ったら必ずシュートする、という選手だったら、後者のほうが守りやすいですよね!
「パスを多用する」それはチームバスケットでありSMARTであり、ある種バスケット的です。リングを見ないでパスするだけの日本スタイルではなく、攻め込んでディフェンスを引きつけてのパスです。そこは勘違いしないでください。
ドリブルでリングにアタックして相手ディフェンスを引きつけ外へパス。そこで打てるのにもう一度パス。ディフェンスも必死に追いかけます。その上パスを受けた選手がさらにパス。そこにもディフェンスは出てゆきます。スパーズの選手はほとんど動かないのにヒートの選手が一生懸命にボールを追いかけます。それが徐々に脚を疲れさせます。
その上スパーズのシュートが入るのでヒートはガックリ、それが少しずつ溜まって、第4Qは思うように動けない状態になります。
思い出せば、優勝した時のビーコルはよくパスが回ってましたっけ…。
そういえば、そろそろビーコルも選手・スタッフの発表がある頃ですね。2014-2015シーズンも応援よろしくお願いします!
1946年生まれ。
月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。
現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。
NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。
過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。
横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。
現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。
また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。
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