vol.53「ビーコル快進撃」
今年に入ってからの横浜ビー・コルセアーズは強いぞ!
2011年10月8日から始まったbjリーグ、始めのうちは2連戦を1勝1敗の5割のペースでしたが、アウェーで浜松に2連敗してから様子がおかしくなり、挙句の果ては年末のホームでの富山2連戦を両方とも落としてしまった、それも年内最終戦となる第2戦は85−61と情けない負けっぷり。私は信じられませんでした。
これにはさすがのコーチ・ゲーリーも怒ってしまい「正月は1日から練習だ!」
これが効いたのか、年が明けて埼玉に勝ってから快進撃。と言っても正月返上で練習したからではありません。ちゃんとお正月休みはありましたから(笑)。
強くなった原因は、いくつか要因があります。
その前にメンバーを簡単に紹介しましょう。
主力のガードは#3蒲谷正之(183cm)と#13山田謙治(180cm)、共に強豪大学で活躍した選手です。山田は高校の名門・能代工高のスタメンで、法政大では春のトーナメントでMVPを獲得、蒲谷は日本大時代に学生選抜に選ばれています。
#3蒲谷正之(左写真)と#13山田謙治(右写真)
そこにアメリカ人の#10マーカス・シモンズ(200cm)が加わりますが、彼はアメリカの西海岸で強豪と言はれるUSC(University of Southern California)の出身で、USCが所属するパック10と言うカンフェレンス(リーグ)の最優秀ディフェンス選手賞(The Defensive Player of the Year)を獲得しています。いわゆるエースキラーです。
#10マーカス・シモンズ
フロントラインと呼ばれるフォワードとセンターは、やはり名門ウェークフォレスト大(スパーズの名選手ティム・ダンカンの出身校)出身#1チェイス・マクファーランド(215cm)。
東海岸のみならず、全米でも強豪と言はれるビッグ・イーストと呼ばれるカンフェレンスの中堅セントジョーンズ大(ドリームチームメンバー、クリス・マリンの出身校)出身の#24ジャスティン・バーレル(207cm)は4年生の時、ビッグ・イーストのベスト・シックスス・マン賞(最優秀控え選手賞)を獲得しています。
#1チェイス・マクファーランド(左写真)と#24ジャスティン・バーレル(右写真)
この5人が主力となりますが、5人だけで勝てるほどバスケットは甘くありません。ベンチ・メンバーと呼ばれる控え選手が重要なんです。
ガードの#7木村実(185cm)は前所属チーム東京アパッチが活動停止となり、トライアウトを受けて入団しました。高校・大学・社会人と目立った経歴はないものの、ビーコルで一気に伸びた選手。
フォワード#33青木勇人(193cm)は色々なチームを渡り歩いてきたチーム最年長の苦労人で、真摯な練習態度でチームを導いています。
#7木村実(左写真)と#33青木勇人(右写真)
3Pシューターの#73久山智志(183cm)は日本人では一番若く、思い切りの良いシュートだけではなく、ディフェンスの良さも認められています。
外人枠ながら関東学院大卒の#6ファイ・パプ・ムールはチームプレーとディフェンスをマスターして重要なオフェンス・リバウンバーに成長しています。
一人結果を残していないのが#15堀田剛司(196cm)。開幕から怪我が続き、プレータイムは少ないが、日本体育大時代は日本代表に選ばれた期待の大型シューター。
#73久山智志(左写真)、#6ファイ・パプ・ムール(中央写真)、#15堀田剛司(右写真)
このようにインサイドの高さもあり、能力の高い選手が揃っているので「ビーコルは普通に強いチーム」なんです。
だから目先の勝利を得ようと思ったら、選手の能力だけを生かす作戦を立てればよかったのです。
しかし初代ヘッド・コーチに選ばれたレジー・ゲーリーはそうはしませんでした。「100年先まで続くチームの基礎を2年間で創る」ためにアメリカから呼ばれたわけです。
そうそう、このコーチ・ゲーリーは凄い経歴の持ち主なんです。皆さんも知っているあのNBAのデトロイト・ピストンズとサンアントニオ・スパーズでプレーしていたんです。それだけじゃなく、バスケットの名門の一つアリゾナ大の選手でした。アメリカでの名門大はバスケットが上手ければ入れる、と言うわけではありません。人間的にもシッカリとして勉強もできなくてはならないのです。
例えばアメリカの超名門大の一つ、マイケル・ジョーダンの出身大としても有名なノースカロライナ大のコーチは「卒業するとNBA入りか大学院のどちらかに進む。」と自慢しているほどです。
そしてプレー・スタイルは基本プレーやフォーメーションが多く、個人プレーが少なく、ディフェンスをシッカリと守る「オールドスクール」タイプがほとんどです。
そう、これはプロのNBAで通用する選手を作り出すポイントなのです。
その考えをコーチ・ゲーリーがシッカリとビーコル・メンバーに叩き込んでくれました。
◆まずディフェンス主導のチーム作りです。
マンツーマンもゾーンも多様なパターンを持っています。皆さんにはゾーンと言うと「脚を動かさなくて楽なディフェンス」と言うイメージがあるかもしれませんが、それは違います。かなりキツイディフェンスです。
能代工でゾーンをやっていた#13山田は「ゾーンになるとイキイキしている」と#3蒲谷は笑います。
◆オフェンスでは多くのフォーメイション(システム)を持っていて、ほとんどのフィニッシュはペネトレイトかペイント内(ゴール下)シュートです。
しかし11月—12月はこれの弊害が出てしまいました。
ディフェンスもオフェンスも数多くのシステムを持つため、動きを覚えるのが精一杯で「自分で考えて動く」と言うところまで行っていませんでした。また、オフェンスでは「ビーコルはゴール下を攻め込む」とスカウティングされ、ゴール下を重点的に守られましたが、それでもゴール下まで行こうとして潰されてしまったんです。
でも3ヶ月間ほどしてやっとコーチ・ゲーリーのシステムがわかり、自分で考え動けるようになって、変わってきました。
またこの頃からコーチ・ゲーリーもシステムが理解されてきたと判断して「オフェンスではもっと自由に、自分の得意なポジションだったら打て!」と指示を出しました。
元々シュート力のある#3蒲谷、#13山田、#24バーレルは3Pや中距離のシュートを多用するようになったのです。
チームが強くなったもう一つの原因は#7木村の成長です。元々真面目な男ですが、バスケットが上手い、と言う選手ではありませんでした。
上級レベルでの経験が少なく、当初はT.O.(ターンノーバー、ミスで相手ボールになること)も多く、シュートも安定してなく、ひたすら真面目にディフェンスをするだけ、と言う選手でした。自信がなかったのかもしれません。
それが#3蒲谷が怪我で欠場している時にプレータイムが多くなり経験を積んだのが良かったのでしょう、プレーも安定してきました。そして思い切りよく3Pを打つようになってシュートも入りだしました。
お陰で#3蒲谷が怪我から復帰してもスタメンのままで、#3蒲谷は6番手となったのです。まあこれは若干戦略的な要素があります。
実は#3蒲谷みたいな「力があって元気な選手」がベンチに控えていることはチームを強くさせるんです。NBA及びバスケット界では「ベスト・シックススマン(Best Sixth Man)」と言う言葉があり「ベスト・シックススマン賞」と言う賞もあるくらいで、スタメンだけじゃなく控え選手の重要性を認識しています。
上手くなったと言えば#6パプが良くなりました。学生時代は身体能力だけでプレーしていて、大してバスケットを教わってきていません、でもたった200cmではbjリーグの中ではセンターとしてやっていくにはスキルが足らなさ過ぎでした。
しかしコーチ・ゲーリーから動きをシッカリ教わりチームプレーも理解してきてディフェンスも良くなりました。元々闘争本能の強い選手なのでオフェンス・リバウンドに良く飛び込んで、時間当たりの獲得数は2位#1チェイスの1.3倍もあり、1月の秋田戦では彼のオフェンス・リバウンドが勝因になりました。
#1チェイスが新潟戦で頭を打撲して欠場したためスタメンの座が滑り込んできましたが、彼が先発になってから一度も負けていません。
#7木村と#6パプ、2人の進歩がチーム快進撃の要因でもあります。
もちろん最大の理由は#24バーレルの得点力と#10シモンズのディフェンス力ですが、他にも原因はあると言うことを知ってほしかったのです。
以前からメディアの人には「1月頃から強くなりますよ。」と私は言い続けてきました。
「1月の根拠」と言われても困ってしまいますが(汗)、ディフェンス中心で、なおかつシステムで動くバスケットは「速急には強くなれない、数ヶ月はかかる」とわかっていたからです。
英字新聞ジャパンタイムスのEd Odeven記者がこんなタイトルで記事を書いてくれました。http://www.japantimes.co.jp/text/sk20120203n1.html
「Geary has Yokohama in Gear halfway through season」
「コーチ・ゲーリーはシーズン半ばで横浜チームを良い感じにさせた」←正確な翻訳ではありません(汗)。
In Gear とは歯車が噛み合っている状態を指し、ゲーリーと掛けています。
まさに歯車が噛み合ってきてますね。
さあもう一つ、良いお知らせがあります。
それは新たにアメリカ人が加わったことです。彼の名前はドゥレイロン・バーンズと言うディポール大出身のシューターです、それも3Pが得意なんです。大学時代は1ゲームで8本の3Pを決めたこともあります。それも8本打っただけで、つまり3P確率100%を達成してるんです。
実はビーコルの弱点はシューター不在、と言うことだったんです。#3蒲谷はシューターと言うよりオールラウンダーでどこからでも打てる選手で、#24バーレルは3Pがそれほど得意ではありません。本来は#13山田がピュアシューターだったのですが、彼はポイントガードへ変身中なので、シュートよりパスに重点を置いています。
だから#2バーンズの加入は大きな意味を持っているんです。その上ディフェンスも得意と言っていますから、ますますビーコル向きの選手です。
ますます勝ち続けるビーコルです、皆さんも応援に来てください。ホームゲームはあと10ゲームだけとなってしまいましたよ!!!
スケジュールはコチラをご覧ください。 http://b-corsairs.com/schedule
1946年生まれ。
月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。
現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。
NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。
過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。
横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。
現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。
また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。
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