vol.27「インカレ」
早いものですね、あっという間に師走です。
バスケット界で師走というと、高校生の全国大会のウィンターカップが有名です。
今年も横浜市からは女子の金沢総合高が神奈川県を代表して出場します。
ウィンターカップほど有名では無いのですが、12月初めに大学NO.1を決めるインカレ(第61回全日本大学バスケットボール選手権大会)が大阪で行われました。
今年は春先から、慶応義塾大がダントツの優勝候補といわれていました。
というのも昨年優勝したメンバーがほとんど残っているからです。コレに関しては今年1月15日のVol.16で書いてあるので、詳しくはそこを読んで下さい。
思ったとおり春の関東大学トーナメントでは優勝してトリプルクラウン(春のトーナメント、秋のリーグ戦、冬のインカレ)への第一歩を踏み出しました。
ところがリーグ戦ではまさかの準優勝でした。
ということで、今回のインカレは雪辱戦のはずでしたが、またも準優勝。
優勝したのは、両方とも日本大です。
なぜ日大が勝ち、慶應が負けたのか、検証しましょう。
一番大きな原因は「ベンチ・メンバーの差」と私は考えます。
バスケットという競技は、ご存知のように運動量の多いスポーツです。数mの範囲を瞬時に移動したり、コートを全力で何度も往復します。走るだけじゃなくジャンプもするし、身体の押し合いもあります。
コート自体はサッカーやラグビーのように大きくありませんが、全員でダッシュしなくてはならないのために結構きついんです。だからバスケットは選手交代が何度でも出来るようになってます。
その上近年はディフェンスを強化するチームが多くなり、より体力の消耗が激しい競技となってきました。ですから40分フルに出場することは有り得ません。もし40分出ていたら、どっかで手を抜いてるはずです[笑]
単に1ゲームだけならば、精神力だけで持ちこたえられますが、長丁場のリーグ戦や連日で行うインカレでは、そうはいきません。
高いレベルのゲームでは、どのチームでも必ずスタメン(主力選手)をベンチに下げ、体力温存や回復を図ります。そこでその間に出てくる控え選手の活躍が問題となるわけです。
例えば同点でメンバーチェンジをしたとして、次のようなケースが考えられます。
① ある程度のビハインドは覚悟して、何しろ主力を休ませることが大事。
② 数点のビハインド程度で、上手くしたら同点で主力に引き継ぐ。
③ 逆にリードを奪って主力に引き継ぐ。
となるのでベンチ・メンバー(控え選手)の存在が大きくなるのです。
そこで改めて両チームのメンバーを調べましょう。
慶應 C岩下達郎(205cm)はユニバシアード代表、F小林大祐(188cm)は学生界屈指のシューター、PG二ノ宮康平(173cm)は日本の学生を代表するスーパースターです。そしてF田上(188cm)、酒井(187cm)もスタークラスです。
ただ彼らに次ぐ選手となるとF家治敬太(188cm)くらいなので、ゆっくり休むことが出来ません。割り切って①を選択する手もありますが、スタメンへの負担が大きくなるため②を選択したくなりますが、控えメンバーの力不足を考えると、コーチは傷が浅い内、又は傷つく前に交代させることになり、どうしても主力メンバーのプレータイムが長くなり、負担が重くなります。
一方日大は、スーパースター・クラスというとPG篠山竜青(177cm)がユニバシアード代表になっただけです。F栗原貴宏(193cm)、F上江田勇樹(195cm)、C中村将大(195cm)、F熊澤恭平(180cm)が残りのスタメンですが、いずれもスタークラスです。
ところがベンチからメンバーチェンジで出てくるG種市幸祐(190cm)、F森川純平(192cm)、PG石川海斗(173cm)、C熊(197cm)もスタークラスなのです。各ポジションにスタークラスを揃えている、簡単にいうと同じようなレベルで2チーム出来ることになります。
ということはスタメンがゆっくり休める、体力を温存できる、ということになります。
ですから慶應と同じように強いディフェンスを長く続けられます。
慶應のプレースタイルは、相手を抑えたり押したり止めたりするフィジカルなディフェンス、そこからボールを奪い速攻に持ち込む早い展開を持ち味としてます。
オフェンスは、速攻による得点以外には、外郭からの高いシュート率です。
小林、田上は3P(3点シュート)が得意で、やや近場からは酒井、チームに攻め手が無く困ったときは二ノ宮が3Pを決めてくれる。たとえ一発目のシュートが入らなくても、リバウンドは岩下やフォワード陣が飛び込んでもぎ取って入れてくる、結果的に100得点近いゲームで勝つ、そんなチームです。
つまり簡単にいうと体力勝負のバスケットなんです。そのためきつい練習をして体力には自信を持ってます。
昨年慶應は2部リーグでした。相手のディフェンスはそれほど強くありません。走るだけなら体力はそれほど消耗しませんが。
ところが今年は1部リーグです。1部と2部の差はディフェンスの強さの違い、という人もいるくらい1部のディフェンスはフィジカルで強いものです。強いプレッシャーを振り切るためにはモノ凄く体力が要ります。まして今年は全チームがディフェンスに力を入れているため、勝ったとしても楽ではありません。
その疲れが徐々に蓄積されてリーグ戦終盤に脚に効いてきました。
ジャンプして打つ3Pは微妙に影響が出て、高いシュート確率を誇る慶應のシュートが狂い出したのです。
キーとなった終盤第6週目、法政大第2ゲーム。法政大のシュート確率が47%なのに対し、慶應はたったの34%です。
翌週で最終週の7位筑波大戦、優勝を逃した大事なゲームで、筑波大が44%なのに対し、慶應は36%で81得点です。
ちなみに強豪校の東海大と青山学院大と対戦した4ゲームで、慶應は平均96得点しています。
インカレは5日連続でゲームします。特に後半の3日間は同じようなレベル同士で競った展開が多くなり、精神力と体力勝負になります。
強豪チームは勝負が決まったらメンバーを下げて、ベンチ・メンバーで戦い、主力の体力温存を図りますが、慶應はそれが出来ない台所事情があります。
確かに相手チームがスカウティングして、小林を徹底的に抑えに来たかもしれませんが、以前の小林だったら無理な体勢からでも3Pを決めていました。たとえ競ったゲームでも、後半、特に第4ピリオドになれば小林が3Pを決めて勝利をもたらす、コレが慶應のパターンだったのです。
インカレ決勝戦は日大vs慶應です。
秋のリーグ戦で慶應が86-74、87-81と日大に2勝しています。
慶應は2勝したものの、90点以上取れなかったのは日大だけだったのです。日大は特にディフェンスが強く、スローペースに持ち込んだ結果でした。
準決勝の日大は、東海大に前半大差をつけられながらも逆転勝ちしてムードは最高です。慶應も青学大に立ち上がりリードされながらも引っくり返して後半は逃げ切る形となり、決勝へ進出してきましたが、このゲームで控え選手のプレータイムの合計はたったの7分。コレが決勝に影響を与えるとは、、、、
昨年の覇者であり、今年は優勝して当然の筈が、秋のリーグでまさかの2位となった慶應。
絶対に優勝しなければならないという、大学や先輩を背負った強い使命感がプレッシャーを与えたのか?
一方勝ちたい、という素直な心境でプレッシャーが無くゲームに望んだ日大。
立ち上がりからリラックスして積極的にゴールをアタックして得点を重ねる日大に対し、緊張のためかゴール下のイージーシュートまで外してしまう慶應。第1ピリオドで10点も差がついてしまいました。
その後も日大は慶應のお株を奪う強いディフェンスで慶應を苦しめ、6年ぶり12回目となる優勝に輝きました。
「勝負事は下駄を履くまで判らない」とはよくいわれることですが、スポーツは難しいものです。
春先に日大の優勝を予見した人はいないでしょう。
なにしろ日大の監督ですら「4強に残れるように頑張る」と言っていたのですから[笑]
1946年生まれ。
月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。
現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。
NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。
過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。
横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。
現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。
また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。
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