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あんどうたかおのバスケにどっぷり

vol.24 「ミックステープツアー」

 ショー・バスケットと言うと、年配の方はトロッターズ(ハーレムグローブ・トロッターズ)を思い出すでしょうが、もう少し若い人は80年代レイカーズがマジックを中心に華麗なプレーでNBAチャンピオンになったときの「ショータイム・バスケット」のことを思い出すでしょう。
 そして今の人には、、、、

 ピンとこないでしょうね〔笑〕。
 今の人には「ミックステープ」とか「アンドワン」です。

 ミックステープツアー(MixTapeTour、略してMTT)と言うバスケット・イベントが8月20日代々木第二体育館で行われました。
 知らなかった方のためにMTTについて簡単に説明しましょう。

 アメリカではストリート・バスケットが盛んなことはご存知ですね。街中にあるプレーグランドと呼ばれる屋外バスケット・コート(半面ではありません、フルコートです。)でするバスケットのことです。

 90年代後半には、単に勝負を競うだけじゃなく、ドリブルを含めたハンドリングの上手さや華麗さを、競い合ったり見せびらかしたりするプレーが出てきました。左右に大きく振るクロスオーバー・ドリブルは序の口で、ステップしながら股の下でのドリブルや前後のドリブル、挙句の果ては相手をおちょくるように頭越しやフェイントを交えて、見事なムーブ(テクニック)を見せてくれる選手が多くなりました。

 その素晴らしさをビデオにとって、ハイライトシーンを繋ぎ合わせ、同じストリート発祥のヒップホップ音楽とファッションを融合させ1本のビデオにしたのがMixTapeと言う訳です。
それに目をつけた新興バスケットボール専門ブランドのAND1(アンド・ワン)はそのテープをプロモーション用にスポーツ・ショップに置いたところ、全米で大人気。

 第二弾も好評だったため、2000年にはストリートのリジェンドと呼ばれるスターたちを集め”TEAM AND1”と言われるチームを作り、全米各地をツアーしたところ人気はますます上がりました。
 そのことからMTTのことをAND1と呼ぶ人が多いですね。正式には「AND1MixTapeTour」と言うらしいですけど。

 

 NBA選手たちもMTTは大好きです。特にドリブルのムーブは普段の練習でも良くやってます。ドリブルの良いトレーニングになりますからね。ゲームでもドリブルで抜くときに良く使われます。

 私が最初にMTTを見たのは04年にNYに行ったときでした。
 友人がオーナーをしているABAチームのトライアウトに日本から選手を参加させた関係でNYへ行っていた時で、会場はMSG(マジソンスクエアー・ガーデン)で、たまたま見ることになったのですが、驚きの連続でした〔笑〕

 その時はまだMTTについて知らなかったため、観客数はたいしていないだろうと思ってましたが、2万人近く入るMSGが8分の入りです。ここをホームコートとするNBAのニックスでこれほど入ったのを最近見たことありません〔笑〕
 他のイベントと違うのは、会場の周りでもゲーム前までストリート・ゲームをしたり、オープンランと言うMTT独特のオーディションも行っています。場内だけじゃないのです。

 オープンランと言うのは対戦相手や出場選手をそこで決める、と言う大胆な手段です。
MTTの人気が高くなるにつれ、真似をする選手が多くなり、上手い選手が全国に生まれることになり、その中からMTTチームに入りたい、と言う選手が多くなったことのへ対策でもあるかもしれませんが、自分もゲームに出られると言う「近さ」を作り上げることで、親近感を増し人気を高める効果があったと思います。

 NBAでは、応援リード用にエレクトーンで「ジャン ジャン ジャン ジャン」と音響は流れますが、完全なミュージックはゲーム中には流れません。
 ところがMTTではゲーム中ズーーッとヒップホップ・ミュージックが大音響で流され、もっと驚いたことにはDJと呼ばれるアフロヘアーの進行係が、マイクを持って実況したり、けし掛けたりしながらコート内を走り回っていたことです〔笑〕

 プレーはドリブル1on1が中心になりますが、抜きかけても簡単に抜かず、抜けても戻って、また抜こうとして、と様々なムーブでディフェンスを翻弄し、場内が盛り上がってくるのを確かめて初めて抜きに掛かります。

 ドリブルで抜いたからって、簡単にシュート出来る訳はありませんし、簡単なレイアップ・シュートなんてしません〔笑〕
 ヘルプディフェンスが来たところを待って、空中にボールを投げ上げます。
 それを逆サイドから走りこんだ長身選手がアリウープで決める、これがお約束なんです。

 基本的にはアフリカ系の選手で構成されてますが、そこに一人だけ白人が入っています。
 「プロフェッサー Professor」と呼ばれる178cmしかないひ弱そうなベビーフェイスの選手がいます。
 可愛い顔に似合わずドリブルのムーブは凄く、日本では特に人気があるんです。

 昔見たトロッターズは観客を巻き込んだ楽しいお笑い系でしたが、それに対してMTTはテクニック系と言うか、今風に自己顕示力の強いショーバスケットと言えるでしょう。
 しかし両者に共通していることは「家族で、そしてバスケットを知らない人でも楽しめ、バスケット競技の面白さや素晴らしさを教えてくれる」ことです。

 もう一つ両者に言えることは、高いレベルのバスケットを経験した上で、ドリブル等に高度な技術を持った人や、驚異的なジャンプ力を持った人でなければ選手になれない、ということです。

 今回来日した選手の出身校を調べると、ジョージタウン大(NBAでも屈指のペネトレーターであり1on1が強いと言われるアレン・アイバーソンやユーイング、モーニングもいて84年に全米大学選手権で優勝した名門大)、ルイビル大(2度も全米選手権で優勝している名門大)、セントジョーンズ大(初代ドリームチーム・メンバーのクリス・マリンがいた大学)、アラバマ大バーミンガム校(常にNCAAトーナメント出場)、UTEP(テキサス大エルパソ校、南西部地方の名門大)と名門でプレーしてきた選手が中心です。

 その極めつけは、昨シーズン・ファイナリスト、オーランド・マジックのスタメン・ガードのレイファー・オルストン。
 彼こそ「スキップ・トゥー・マイ・ルー」として知られる伝説のMTT選手だったのです。

 最初に書いたように、ストリートボールとMTTとは兄弟のような関係を持っていて、殆どはストリートボール出身です。そのストリートボールも殆どは大学でプレーしてきた選手です。
MTTやストリート・ボールに憧れていた横浜の高校生をNYへ連れて行ったことがあります。05年でした。
 ニックスのトレーナーに身体の鍛え方を教わり、ストリートの強いチームのコーチにプレーを見てもらいました。コーチが言うには「プレーは上手いけど、先ず大学へ行ってもっとバスケットを学びなさい」と言うことでした。
 ドリブルやシュートが入るだけではMTTの選手になれない、と言うことなんです。

 もっともそのMTTもアメリカで解散してしまい、二度と見ることが出来なくなりました。
 残念です、、、、、、、。

あんどうたかお プロフィール

1946年生まれ。

月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。

現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。

NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。

過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。

横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。

現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。

また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。

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