vol.22 「IH」
もう直ぐ梅雨が明けそうですが、明けると急にカーっと暑くなります。
暑くなると夏、夏と言えばIH(インターハイ、高校総体)です。
その出場を賭けた神奈川県予選は先月行われました。神奈川県からは男女共に2校ずつの出場です。
何度か書きましたが、女子は横浜市がダントツに強さを誇っています。そうです!県立金沢総合高です。
それを脅かしているのが同じく横浜市の県立荏田高で、咋年に引き続いてこの両校がIH出場権を獲得しました。
数字上でこそ大きくリードしている金総ですが、今年は内容が今一つピリッとしません。
スタメンは良いのですが、控えメンバーの覇気が感じられない、とコーチの星沢先生は叱咤します。
とはいえ目標は予選のこの大会じゃなく、7月28日から大阪で始まる本大会ですから、それに向けてしっかりと準備はしているはずです。
さて2年連続出場となった荏田高ですが、コーチが替わって最初の年に当たります。
元々は講武先生が強くしたチームですが、現コーチの中村先生が荏田高に就任したのは昨年。
講武先生と元ジャパンエナジー選手の西垂水さんの下でアシスタント・コーチとして1年間ベンチに入っていて、今年春の講武先生の異動に伴い、中村先生1人でチームを見るようになりました。上手く荏田高の伝統を受け継いだわけです。
過去のIHでは2回戦止まりの荏田高は「IHベスト8」を目標に掲げ今年スタートしました。
昨シーズンも良いチームだったのですが、主力だったガード陣の身長が低く、全国では1回戦止まりだったのです。しかし、今年のPGは162cmの黒川で点も取れる選手。外からのシュートを得意とするのは163cmの新野と167cmの小田部で、昨年に比べると5cm以上も高くなってます。
不安だったインサイドは服部(172cm)と藤平(173cm)の二枚看板。2年生の藤平は昨年に比べて大きく進歩しており、荏田の攻撃に安定感を与えていますが、「この予選で急激に上手くなった」と中村先生は説明してくれました。
一回戦の相手は佐賀清和高、そして大阪薫英女学院と大分県の明豊高との勝者と、それに勝てばベスト8入りをかけて(おそらく)岐阜女高と対戦することになります。
ディフェンスを頑張ってそこから速攻を出して得点するのが持ち味の荏田、大阪で走りまくって旋風を起こすか?
とはいえ本命はやはり金総です。
1回戦は香川県の英明高、2回戦は東京都の実践学園と東京学館新潟高の勝者と対戦です。この分で行くとファイナル4へは行けそうで、準決勝を優勝候補筆頭で第1シードの桜花学園(愛知県)と争いそうです。
元気の良い女子に対し、平成15年の横浜商科大高と桐蔭学園がアベック出場して以来、この5年間IH出場が無い男子勢です。
ところが今年はやってくれました。
IH予選は各ブロックを勝ち抜いてきた4チームがリーグ戦を行い、IH出場する2チームを決めるシステムになっていますが、そのリーグ戦に横浜から2校も入っています。
VOL.17で紹介した横浜清風高はブロック準決勝で敗れてしまい、残ったのはその清風を破った慶應義塾高と県立市ヶ尾高、東海大相模高、法政大二高の4校です。
リーグ初日は法政二高と対戦して63-61で辛勝の慶應、対して東海の高さにやられ74-95と敗れた市ヶ尾。両校が明暗を分けてしまった。
緒戦を勝つと圧倒的に有利になるため慶應は一安心。
1週間置いたリーグ二日目。
「横浜ダービー」というか、横浜同士の対戦となりました。常に慶應がリードする展開で76-70で慶應が猛追する市ヶ尾から逃げ切って2勝目をあげて、32年ぶりのIH出場を決めました。
その32年前IHに出場したのは、コーチの阪口さんと主力の権田のお父さんなのです。
因縁なのか?
慶應は3年生平石(178cm)と2年生権田(188cm)を攻撃の中心とするチームですが、基本的には「ディフェンス」と「頑張り」のチームです。
阪口コーチは「個人能力が低いので、頑張る、と言うことです。これは大学の伝統でもあります」と説明してくれました。
そうです、例年に比べればメンバーは良くなっていますが、今のスタメンでも、もし他の決勝リーグ進出校にいたら、ベンチに入れない選手がほとんどです。それなのにチームとしてプレーすると物凄い力を発揮します。
これが「阪口マジック、慶應マジック」なんでしょうか?
「昨年は良いところまで行ったのに、主力が怪我をしてしまいました。今年はスルスルと来た感じですね。今年はインフルエンザや、校内では百日咳が流行っていて、生徒達に毎時間ごとに手洗いとウガイをするように言いました」とも話してくれましたが、4年前の話を思い出しました。
お兄さんに当たる慶應大学が04年12月のインカレ(大学選手権)に優勝した時のことです。
インフルエンザ予防のため、学生にはウガイ薬を常に持たせ、事ある毎にウガイをさせて、風邪予防のために学生達自身が徹底した管理をしたことも優勝の一因になっている、とその時の志村キャプテンが言っていたんです。
伝統ですね。キッチリとやる、半端じゃないです。
半端じゃないのはプレーにも現れています。
ディフェンスがキツイです。1対1で相手の得点王をきっちりマークする反面、ボールとリングとを結ぶ線上には必ずディフェンスが二人います。だからたとえ1人目のディフェンスが抜かれたとしても、直ぐに2番目のカバーがいます。まあ簡単に抜かれることは無いですけどね〔笑〕。
慶應ほどシュート・チェックが厳しいチームはない、と言うコーチもいます。
攻撃の中心は権田と書きましたが、決勝でも71点中26得点している権田が、法政戦では残り7分51-51と同点の場面で5ファールで退場になったのです。慶應としては絶体絶命。
しかしここからが慶應の本領発揮です。無理なシュートは止め、点を取りやすいゴール下のシュートを多くします。
そして一方ではディフェンス、特にゴール下を強くして失点を防ぎました。
そうやって63-61の2点差で勝ったのです。正に慶應らしい頑張りとディフェンスの勝利です。
相手チームのコーチ達に話を聞くと、シュートを打たされて(自分達の得意なリズムで打っていない)リバウンドを取られたり、ズルズルと慶應のゆったりペースに巻き込まれて負ける。相手のミスを誘って速攻に持っていくのが上手い、とも聞きます。
阪口コーチは「別にユックリ攻めろと指示している訳では無く、選手達が好きなペースらしい」と言ってます。
平石はドリブルで攻め込むのが好きですが、それは恵まれた体格が大きく手助けしています。身長は178cmで大きくないのですが、スピードと身体の幅を活かしてゴール下でシュートを捻じ込んできます。
一方ユニークなのが権田です。188cmとチーム一の長身で、痩せてるわけじゃないので、普通ならゴール下のプレーをさせますが、慶應は逆のことをさせてます。
視野の広さやバスケットIQの高さを活かして、通常なら一番身長が低い選手のポジションである司令塔役のPG(ポイントガード)をさせてます。
「大学4年でマジック・ジョンソンのような選手を目指しているから」と阪口コーチは説明してくれました。日本が世界で強くなるには190cm台のPGが出てこなくてはダメだから、と言う理由です。
スケールの大きな考え方、良いですねー。
ちなみに権田のお父さんは慶應大からバスケットの名門・日本鋼管入りした、まさしく「頑張る」選手でした。
さてIHですが、慶應は1回戦で宮城県の新鋭・明成高と当たります。
正直、ココとはやりたくないです〔笑〕。
なぜなら、明成はディフェンスが強く頑張るチームで、鍛え上げられ、規律が取れた良いチームです。
慶應とキャラがかぶるばかりか、個人能力が高く、スピードがあってシュートが上手いチームだからです。
相手は速いペースが好きなチーム。なんとかユックリ・ペースに持ち込みたいところ。
慶應らしさを出したプレーを見たいものです。
(敬称略)
昨年の金総と荏田高に関する記事はこちら
1946年生まれ。
月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。
現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。
NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。
過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。
横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。
現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。
また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。
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