Vol.16 慶應
昨年の暮れは高校生の全国大会、ウィンターカップがあって、神奈川県代表として女子は横浜の県立金沢総合高が出場し、1回戦は滋賀県代表の滋賀短期大付属校に73-64で勝ちましたが、2回戦で静岡県代表の常葉学園に70-64で惜しくも敗れてしまいました。
全国大会と言えば、大学も12月に開催されました。インカレと呼ばれるものです。
第60回記念大会と名打たれたこの大会は、非常に珍しいことに決勝戦は今年度2部リーグに所属していたチーム同士の対戦となりました。何故2部同士の対戦になったのかと言うことに関しては、いつか触れてみたいと思いますが、強豪1部リーグ校を撃破して決勝へ進出したチームは東京の国士館大と横浜の慶応義塾大です。
基本的には東京の三田が慶應大の本拠地なんでしょうが、部員の殆どは湘南藤沢キャンパスに通い日吉の体育館で練習しているため、神奈川のチームと言えます(笑)
慶應大はスポーツ推薦枠の無い大学なので、受験して合格した選手しか入学出来ず、個人能力が高いとは言えません。
それが強いディフェンスと頑張る精神力と言う伝統を作り出しました。とは言え、インカレ第1回大会から3連覇という昔の栄光から遠ざかって、しばらく2部リーグに居ることが多かったのです。
そんな慶應に転機が訪れました。ウィンターカップ連覇、国体優勝の仙台高キャプテンでガードの志村雄彦が入学してきたのです。ファイトあふれるガッツマン志村の入部でチームの意識が変わりました。
とは言え志村の身長は160cmです。190cm台がゴロゴロいる大学バスケット界で勝てるほど甘くありません。
ところが翌年、京都の洛南高から2mを越す大物が入って来ました。志村同様にウィンターカップと国体で優勝を経験している双子の竹内兄弟の1人、センターの竹内公輔です。そして名門福岡大濠高のフォワード酒井泰滋も入学しました。
それだけではありません。それまではコーチはOBが務めてきましたが、それを改め、指導の専門家をコーチに充てたのです。
佐々木三男は大学女子の名門、日本体育大学のコーチをしていた人物ですが、慶応大学の体育の教授をしていました。今までの慣例を破って彼を起用したのです。
女子のコーチは、男子と違い、技術等を丁寧に繰り返し教えるというのが基本になってます。それが慶應に良かったのでしょう。しっかりとしたドリルで丁寧な指導法でチームは力を付けてきました。
そこに加わったのがアメリカ帰りのアスレチック・トレーナーの小出敦也です。NBAの名門ボストン・セルティックスのアシスタント・トレーナーをしていた最前線のトレーナーです。
彼が始めたのは、怪我を治すことではなく、筋力を付けて怪我の防止に努めたことです。
準備は整いました。後はゲームをすることだけです。2部で優勝して1部昇格し、志村が4年の時、ついに大学日本一になりました。45年ぶり6度目の優勝です。
それ以来慶應は変わりました。
選手のリクルートはOBでもある監督の戸崎洋の仕事です。
それまではインターハイ、ウィンターカップの常連高の強豪チームからは問い合わせが少なかったり、入学出来なかったのが、強くて日本一を狙うチームなら進学したいと言う文武両道の高校生が増えた、問い合わせが多くなった、と自らも高校時代に神奈川県代表として国体優勝経験を持つ戸崎は言います。
そして4年後の昨年末、そうやって入学してきた選手が新しい慶應を作りました。
3年生小林大祐(188cm福大大濠高)は1年生からゲームに出ていて、勝負所で難しいシュートを決めるガッツ溢れるクラッチシューターです。
同級生の田上和佳(188cm筑紫が丘高)は下級生のときは怪我に泣きましたが、3年生になって本領を発揮してディフェンスとシュートで活躍しました。
相手のシュートを止めるブロックショットとダンクが得意な2年生岩下達郎(205cm芝高)は、中学時代にバスケット部員から上手く持ち上げられてギター部から移ったと言う経歴の持ち主。
コートのリーダーとして味方にシュートを打たせたり、自らシュートしたり、バスケットIQの高いコートの指令塔は2年生の二ノ宮康平(171cm京北高)。
大事な控え選手としてムードを変えられるのが前回優勝時の主力、酒井泰滋の弟・裕典(186cm福大大濠高)。
そしてこれをまとめてチームとしての牽引役は、入れ替え戦で大差をつけ、終了前に涙を流した愚直で真面目なキャプテン4年生鈴木惇志(184cm仙台二高)。
相手を封じ込める強いディフェンス、走り勝つ脚力、精度の高いシュート、そして強い精神力で、1回戦北海学園大を107-73、2回戦早稲田大を100-80、準々決勝205cmの留学生が居る天理大を87-75、準決勝専修大を99-67、決勝も国士舘大を104-73で下して4年ぶり7回目の優勝を飾りました。
この大会は、優勝候補筆頭で慶応大とプレーが似ている青山学院大は国士館大に敗れ、第二候補と言われた東海大も主力が怪我で天理大に破れたことも慶應大に味方したかもしれません(笑)
上記の個人紹介をご覧になれば判る様に、主力は3年生以下です。
と言うことは来年以降も強さは持続します。2連覇どころか岩下、二ノ宮が最上級生になる2年後のスリーピート(3連覇)も夢ではないのです。
大学バスケットも見逃せませんよ!
(敬称略)
1946年生まれ。
月刊専門誌「バスケットボール・イラストレイテッド」の編集長を経て、バスケットボール用品のデザイナーとして活躍。特にキャラクター「あんたかベイビー」のTシャツは一世を風靡した。日本初のバスケット・ユニフォームデザイナーとしても活躍。当時強豪と言われる殆んどのチーム<実業団-大学-高校>に関して何らかのデザインを手掛けている。またスポーツ界では唯一のファッションのコラムを持っていた。
現在は自身のユニフォーム・ブランド「305」を立ち上た。
NBAに関しては「月刊バスケットボール・イラストレイテッド」編集者時代の1966年から連載を執筆。TV解説はNHK BS以前にも東京12チャンネルで1985年から行っており、日本最古のNBA解説者と言われている。
過去にはスポニチウェブサイトのNBAコラムを担当。月刊バスケットボール及び月刊バスケットボール・マガジン等に連載を持っていた。
横浜の中学・高校バスケの指導者、関係者とのつながりが深く横浜及び神奈川県のバスケ事情に精通している。
現在は横浜をホームとするBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」の名誉広報として情報発信やプレス対応などチームの広報活動に力を注いでいる。
また(社)神奈川県バスケットボール協会広報顧問も務めている。
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